妥当告白
毒蛇の公式組織については、ウィリアムが「俺がなんとかします」という。
「あなたにどうこうできるの?」
純粋に疑問をウィリアムに向けると、彼は「う」と少し詰まった後
「……実は俺、公式組織の者なんです」
そう答えた。そして、懐から公式組織からの手紙を取り出し、フェリシアに差し出す。それを彼女は受け取った。
「そうだったのね」
知っていたけど、と思いながらフェリシアは驚いた様子を見せておく。彼は隠しごとが下手なのだ。何かしら毒蛇と関りがあるだろうと、フェリシアは思っていた。
「元々、魔導書店を探るために近付いたんです」
そう、ウィリアムは告白する。
「つまり。記憶喪失だったのも、出会った当初血まみれだったのも装ったことだった……と言うこと?」
「……そうなります。血は自前ですが」
「危ないことをするわね」
フェリシアが出会った当初のことを問えば、ウィリアムは申し訳なさそうに頷いた。
「無害だと分かったし依頼主の方に非があるのも分かりましたから、良い引き際でした」
そう彼は告げる。
「でも。どうやって手を引かせるの?」
「俺は、毒蛇の公式組織内で上の立場にあります」
疑問を投げかければ、ウィリアムがはっきりと答える。
「上の立場?」
「はい。言うなれば、意見を通せる側です。俺が今までに見聞きしたことを調査内容として報告して、どちらが『悪』であるか話します。彼らも、すぐにわかってくれるでしょう」
「この手紙は?」
「大まかには『審議する』という内容です。次に渡す手紙は撤退の内容になります。いや、させます」
フェリシアの問いに、ウィリアムはまっすぐ答えた。やはり、ウィリアムは正直な性格のようだ。
×
後日。
「組織は正式に、この案件から手を引くと決めました」
とウィリアムが手紙を持って報告。受け取った手紙を開けると、確かにそのような内容になっていた。ウィリアムは毒蛇の公式組織内で頑張ってくれたようだ。
「だけど、護衛としてこのまま俺を雇ってくれないでしょうか。これからも、この魔導書店に居たいのです。とても居心地が良くて」
とウィリアムは問う。
「問題ないわよ。ただし、ちゃんとこのお店を守ってね」
そう、フェリシアは返答した。
「もちろんです、フェリシア様」
きっと、居心地が良いことの他にも情報を入手しやすいとかいろいろと理由があるだろうけれど。だが、ウィリアムが告げた『居心地が良い』ことも嘘ではないし、きっと一番本音に近い言葉だろう。
×
「なんだか最近、護衛の彼と仲が良いようですね」
飲食店の個室に来ていたメフィストが、フェリシアが現れた時に呟く。
「それがどうかしたかしら? 家族と仲良くするのは良い事では?」
言いつつ、フェリシアはメフィストの前に茶菓子を置いた。
「家族?」
「ええ、うちの店を守ってくれる大事な護衛よ」
「……どうやら、何か吹っ切れた様子ですね」
メフィストは小さく笑う。
「分かります? 悩み事が一つ解決したのですわ」
「それは良かった。騒がしかったあの男のことですね? あなたを煩わせるものが減るのは良いことです。……私が手伝えることがあればよいのですが」
言いつつ、「少々遅かったでしょうか」と彼は手紙を取り出した。恐らく、あの自称経営者の男に関わる調査内容だろう。あとで目を通すことにしよう。
「こうして情報を取ってきてくれたり、魔術や色々について教えてくれるじゃない。それで十分よ」
返しつつ、フェリシアは手紙を懐に仕舞った。
「そうは言いましても、こちらはもっとあなたの役に立ちたいですからね」
「そう?」
メフィストは情報屋だ。だから、ウィリアムよりたくさんの情報を取ってきている筈だ。それで十分だと思うのだが。
「ところで、『目』の調子はいかがですか?」
メフィストが話題を変えた。フェリシアもそれに乗ることにする。
「十分だと思うわ。以前よりも魔力も見えやすくなったし、詰まることはないわね」
「それは良かった」
フェリシアの返答に、メフィストは心底安心した様子を見せた。
「それが何か?」
「いえ、『見る』ことに関しては十分に身に付いたのですね」
「ヨハンさんからたっぷり教えていただきましたからね」
そういえば、ヨハンは今頃どう過ごしているのだろう、と疑問が湧いた。店を継いでから、まだ一度も姿を見ていないはずだ。
「彼はやはり、相当にあなたを気に入って居たようだ。少し焼けますね」
「それは、どちらに?」
少し拗ねた声色になったメフィストに、フェリシアは冗談交じりに問う。
「両方ですよ。私はあなたの古くからの友人であり、ヨハンさんの長年の客だったのですから」
「そういえば。あなた、つい最近王都に越してきたばかりでしょう? どうやって常連になったのです?」
「呪猫から通っていただけです。若いころに偶然、この魔導書店を見つけたのです」
なるほど、とフェリシアは納得する。貴族なら、呪猫から王都に行くこともさほど苦ではないはず。それに、メフィストが通っていたのは魔導書店だ。一ヶ月に一度程度でも、一年以上通い詰めていればさすがに常連扱いになるはずだ。
×
その夜。
フェリシアはメフィストから渡された手紙を開く、中には二つほど手紙が入っていた。
片方はフェリシアの依頼に関する、調査結果の報告書だった。
「……やっぱり、あの自称経営者の男は元婚約者とつながりがあったようね」
消しきれなかった繋がりの痕跡を、メフィストは見つけ出してくれたようだ。それに、フェリシアの元に届けられた呪物達の制作者についても記載されていた。
「さすが、情報屋ね。本当に詳しく、たくさんの情報を取ってきてくれた……」
だが、ずっと彼の情報に頼りっぱなしになるのも良くないだろう。そうフェリシアは思う。
「それで、もう一つの手紙は……」
封筒に入っていた、もう一つの手紙の内容は普通の手紙だった。
『最近は、手紙を下さらなくなりましたね』
時候の挨拶の後、そう書き始められていた。
「……言われてみれば、確かにそうね」
フェリシアは呟く。フロンスの正体がメフィストだと知る前は、あんなにたくさん手紙を出したというのに。
今は、彼と直接会えているからか、手紙を出せていないことに気が付いた。
「……でも、最近は嫌がらせの対応で忙しかったわ」
言いつつ、フェリシアも手紙を書き始めた。文句を言ってやろうと思ったのだ。




