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魔導書店を受け継ぐことになりました。-不倫した婚約者を婚約破棄したら、10年来のペンフレンドに距離を詰められました-  作者: 月乃宮 夜見


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配送呪物

 勝負の勝者は、メフィストだった。


「私の勝ち、ですね」


「そのようです。お強いですね」


悔しそうだが、ジョンはどこか晴れ晴れとした様子だ。


「優勝してしまうなんて、すごいわね」


 一段落した様子だったので、フェリシアはメフィストに声をかける。すると、彼は表情を和らげた。


「当然ですよ。()()()()()()()()()()()()


メフィストの言葉に、ジョンはふと表情を変える。


「やはり、『あなたの勝ち』の様ですね……()()()()()()()()()()()()()|か」


「……ふふ。()()()()()()()ですよ。良い勉強になりましたね」


「……。呪猫(フェレス)の貴族とは何たるか、学ばせていただきました。……これでは、私に家督を譲られるのはもっと先のような気がしてしまいますね」


ジョンの答えに、メフィストは満足そうに小さく笑った。


「どうかしたの?」


 フェリシアが声をかけるも、「何でもないです」とジョンは返す。


「いえ。年季の違いを見せてやったところです」


対して、メフィストはそう答えた。


「ふぅん? 大人げないわね。でも、真剣勝負なら仕方のないことですわ」


「ご理解いただけた様で」


フェリシアは象棋(チェス)の勝負事の話かと思っていたが、メフィストの様子だと何か含みがありそうだ。


「……では、私はそろそろお(いとま)しますね」


「はい、また」


ジョンは帰るらしい。準優勝の品を受け取り、彼は去っていく。


「すごーい、あの人優勝したんだって」

「当然でしょう。象棋(チェス)は上手いですからね」

「負けたことあるの?」

「私とは、引き分けが多いですね」

「ふーん」


 ラファエラとフォラクスはそんな会話をしていた。どうやら、フォラクスはメフィストと象棋(チェス)をしたことがあるらしい。


「もしかして、今日は負けそうだから参加やめたの?」

「様子見です。問題なさそうで。それに、彼が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。腹の中で蟻が勝てるわけもないでしょう」

「ふーん。きみのお兄さんみたいなことするね」

呪猫(フェレス)の貴族はそれが基本ですからね」

「やっぱ()なところー」


言いつつ、彼女達は退店した。何か、聞き捨てならない会話が聞こえた気がしたが「すみません、宜しいですか」とメフィストが声をかけたので、フェリシアはそちらに気を向ける。


「何かしら?」


「持ち帰りの品を頂いても、宜しいでしょうか」


メフィストは優勝ついでに、持ち帰りの品を購入するつもりらしい。いくつか品物を注文した。思いの他、女子に人気の商品ばかりだ。


「持ち帰りですか? 珍しいですわね」


と商品を包みながら問うと、


「今度、妹が来るのです」


そう彼は返す。


「妹さん……ですか?」


「そうです。可愛らしいのですが、少々おてんばでしてね。機嫌伺いの菓子を」


メフィストはどこか気恥し気に笑う。


「あらあら、妹さん思いなのですね。呪猫(フェレス)の女子と言えば、お淑やかであるとされていますが」


「外ではそうなのですがね」


彼の妹とは、一体どのような人物なのだろう。フェリシアは少し考えてみるが、全くわからなかった。だがメフィストの妹なのだから、きっとちゃんとした人なのだろうと想像がつく。


「あら。きっと、お兄様であるあなたに甘えていらっしゃるのでしょうね」


「そうですかね」


会話が一段落したところで、フェリシアは商品を手渡した。


「改めて、優勝、おめでとうございます」


「ありがとうございます。コツコツと続けていた甲斐がありました。この調子でもっと精進したいですね」


メフィストは微笑み、商品を受け取る。そうして彼は帰っていった。


 象棋(チェス)の大会は大成功でおさめた。そのことに一安心するフェリシア。


「……これで、もう余計なことをしてこなければ良いのだけれど」


呟くも、胸の内の不安は拭われなかった。


×


「お嬢様。例の男が妙な品物を渡そうとしています」


 象棋(チェス)大会から数日後、マリーが困惑した様子で声をかける。例の男、とは自称経営者の男のことだ。やはり、余計なことをしてきたようだ。


「『仲直りの品』だと言っているようですが」


何か、品物が送られてきたらしい。「あからさまに怪しかったので、まだ外に置いています」と彼女は告げた。良い判断だ。


「……これは」


外に出ただけで、嫌な気配がした。フェリシアは眉を寄せるが、マリーやニコラスには分からないようだ。ウィリアムは少し険しい表情をしている。


「恐らく、呪物よ。魔力が濁っている……悪意が強いわ。どこからどう見ても、これは良くないものだわ」


それを『目』で見ただけで、フェリシアは呪物だと看破した。その品物の効力は知らないが、持ってて良いものでないことは確かだ。


「どうしました」


かけられた声に顔を上げると、そこにはメフィストが立っていた。入店するつもりだったのだろう。


「この呪物、扱いに困っていまして」


「呪物、ですか。なら、私が対処しておきましょう」


外に置かれた品物を一瞥し、


「これは、悪運を呼び寄せる類のものですね」


とメフィストは呟く。


「悪運、ですか」


「弱いですが、徐々に蝕むものかと。粗悪ですが、術は確かなものの様です。これなら簡単に対処できます。良かった」


メフィストは頷き、その呪物を無力化した。何か魔術ではない文言を唱え、軽く印を組んだようだ。


「無力化しておきましたよ」


言われ、確かに嫌な気配が無くなっていることをフェリシアは確認した。ウィリアムも同意らしく、頷く。


「ありがとうございます。何か、お礼を……」


「なら、この店のお茶と菓子で十分ですよ」


「本当ですか?」


「欲張ることでもありませんし。十分、あなた方にも負担は少ないでしょう」


呪物を無力化したお礼に、と何か提案しようとするもメフィストは断る。本当に、彼にとってはあまりにも些細な事だったかのような対応だった。


「呪物への対応に、随分と慣れていらっしゃる様子ね」


「ええ。呪猫(フェレス)当主様の元にはよく届きますので。対処など、よく任されるものです」


しれっととんでもないことを彼は告げる。どうやら、本当に呪物への対処には慣れているらしい。


「ところで、これはどうしますか?」


「何かの証拠になるかもしれないから、取っておきましょう」


呪物だったものについてニコラスが問うたので、フェリシアはそう答えた。ウィリアムとニコラスに任せて、店内の適当な邪魔にならない場所に置いてもらう。


 そんなこともあったが、あとは何事もなく日々を過ごした。

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