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魔導書店を受け継ぐことになりました。-不倫した婚約者を婚約破棄したら、10年来のペンフレンドに距離を詰められました-  作者: 月乃宮 夜見


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営業妨害

「いらっしゃいませ……あら、商人の方ですか?」


 ある日、荷物を背負った男がやってくる。

 見たところ、身なりは良さそうに見えるが。


「(……金額は高そうだけれど、質があまり良くないわね。それに、なんだか嫌な気配がする)」


警戒しながら、フェリシアは男に近付く。


「いやあ、良い店ですな」


「お褒めにあずかり、光栄ですわ。……ところで、何かご用ですか?」


穏やかな風を装い、フェリシアは問うた。すると、その男はたっぷりと余裕そうな態度を見せた後


「この店を、買い取ろう」


と告げた。


「あまりにも素晴らしい店だ。このまま、個人の経営にしておくのはもったいない。この私自身の力とコネで、チェーン店に仕立て上げることもできるぞ」


男は自称で経営者を名乗る。様々な店の名前を出し、「この店もやがてそうなる」などと言ってのけた。


「嫌ですわ。せっかく、私がヨハンさんから受け継いだお店だもの。誰かに譲る気なんてないわよ」


それを拒否すると、


「なんて生意気な女だ!」


男は激高し、フェリシアに殴りかかろうとする。


「フェリシア様!」


そこを寸でのところで、護衛のウィリアムが庇った。


「暴力行為、ですね。軍部に突き出しましょうか」


ウィリアムが睨むと、舌打ちをして男は逃げて行く。


「ありがとう、ウィリアム」


「いいえ。フェリシア様を守ることが俺の役割ですから」


礼を述べればウィリアムは、はにかんだ。


「どうかしました!?」

「お嬢様!」


遅れて、マリーとニコラスも駆けつけた。先程の話をマリーやニコラスにすると、


「なんですぐに軍部に突き出さなかったんですか!」

「証拠が取れていないとお嬢様は言いますが……」


二人共に自分事のように怒ってくれた。フェリシアはそれだけで十分に思える。


×


 だが、それからすぐ。

 その男は嫌がらせを始めた。


「おい! この店の茶は腐ってるんじゃねぇか!?」


などと店の前で騒ぎ立てたり(おまけに腐った茶を持ち込もうとしてきたり)、


「この店の菓子は体に悪いんだ! 食べてはいけないぞ!」


といちゃもんをつけようとしたり。

 利用客達は商人の言葉に耳を貸すことはなかったが、非常に迷惑そうな顔をしていた。


 魔術結界で阻みたいところだが、フェリシアはあの男の名前を聞いていなかったのである。名刺すら渡さない男が経営者やコンサルを名乗ろうなど、とんだ詐欺だ。


×


「……困ったわ、なんて迷惑な人なのかしら」


 頬に手を充て、フェリシアはため息を吐く。僅かにだが、売り上げが悪くなってきているのだ。恐らく言葉を真に受けた訳ではないだろうが、あの男が喧しいのが悪かった。それにあの男はゴロツキまで雇って嫌がらせをするのだから、利用者は怖くなってしまったのだろう。

 魔導書店の利用者達にはあまり変化はないが、迷惑そうにしているのは確かだ。


「ぶちのめしてきましょうか?」


こぶしを握り、ウィリアムがにこやかに告げる。彼も相当、頭に来ているらしい。マリーも「ぶちのめしちゃってください!」と、大変怒っている様子だ。


「物騒なことは駄目よ。神様に怒られてしまうわ。マリーも変なところで同調しない。それに、暴力沙汰なんて起こしてしまったら店の評判も落としかねないわ……」


「証拠を残さずやるなんて、簡単ですよ」


諌めるも、ウィリアムはなんだか怖いことを言う。結局は魔術で遠因特定をするはずなので、証拠は残るものではないのか。それとも、彼には本当に証拠を残さずに人を始末する手段があるとでも言うのか。


「そんなことを言わないの。神様には数多の目が付いているのだから、必ず分かるものなのよ」


「……」


「それに。仮にできたとしても、タイミング的に圧倒的にうちが怪しいってなるわよ」


「ぐ、」


フェリシアが真面目に説教をすると、ウィリアムは引き下がってくれた。だが、まだ不満そうだ。気持ちは分からなくもないので、あまりきつくは言わないでおく。


「それなら、どうやって対処するんですか?」


「そうなのよね……」


考えるも、対処法が分からない。素直に、集めている証拠を軍部に提出したほうが早そうである。もう少し証拠が集まれば、あの男を軍部に突き出すつもりだった。


 それから数日後。

 今度は、噂を流されるようになった。噂の内容は、『虫に食わせた食材を使っているらしい』とか『虫や動物の糞を茶に使っているらしい』とかである。微妙に事実が混ざっているのが厄介だった。※虫や動物の糞を使った茶や飲み物がある。


「悪い噂を流されましたが」


「そうね、なにかお茶会でも開催して喫茶店を盛り上げましょうか」


憮然とするウィリアムを、フェリシアは受け流す。無理に反発する方がかえって騒ぎを大きくさせかねないし、こちらも疲弊してしまうだろうと考えたからだ。


「でも、それなら何をしたら良いのかしら?」


「それなら、象棋(チェス)の大会を開きませんか?」


口元に手を充てフェリシアが考えていた時、ジョンが声をかけた。どうやらフェリシア達が相談し合っている間に来ていたようだ。


「大変そうですね」


「そうですわね。誘いを断っただけなのに……」


「誘われたのですか?」


フェリシアは最近起こった話を、軽く掻い摘んでジョンに話した。すると「変な方に目を付けられてしまいましたね」と、ジョンは同情する。同情するだけなら、飲食店の物や本達を購入してもらいたいところがフェリシアの本音だ。


「ところで、象棋(チェス)の大会とは?」


 フェリシアは話題を戻した。


「丁度、象棋(チェス)の大会を開けるような会場を探していたのです」


そう、ジョンは答える。どうやら、プロからアマチュアまでを集めた象棋(チェス)の集まりがあるそうだ。そこにジョンの友人が居るらしく、会場探しを手伝ってほしいと言われたのだとか。


「そう言うことなら、ぜひ。場所を貸すことに異論はないわ」


ジョンの友人なら、迷惑な者も居ないだろう。そうフェリシアは判断した。


「助かります」


「何人くらい来るのかしら?」


「大体この店の中に納まる程度の人数ですから、大丈夫です」


「貸し切り、と言うことね」


「見学者も入れるようにしても良いでしょうか?」


「分かったわ。魔導書店の方には入れないようになっているから、その注意は忘れないで貰えるかしら」


「はい」


と言うことで。象棋(チェス)の大会が、フェリシアの店で行われることになった。

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