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魔導書店を受け継ぐことになりました。-不倫した婚約者を婚約破棄したら、10年来のペンフレンドに距離を詰められました-  作者: 月乃宮 夜見


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依頼結果

「それで。あなたの依頼についてですが……」


 早速、メフィストは切り出してきた。フェリシアも気を引き締める。


「婚約破棄した貴族男性の動向は、天の神の采配()()()()の活動が散見されます。前科持ちの者とのやり取りは無論、悪意の強い魔術師と交流をしているようですね」


「悪意ある魔術師……?」


「いわゆる嘘つきや詐欺師として一部で有名な魔術師達です。……噂によると、呪術などの不確かな術に手を出しているとも」


「まぁ、呪術?」


フェリシアは口元に手を充て、眉をひそめる。

 呪術とは、いわゆる()()()()的な眉唾物の術だ。悪意が強いものとされ、禁術だとされている。元婚約者がそんなものに手を出しているなんて、思いもしなかった。


「これが、関わりのある者のリストです」


「ありがとう、助かりますわ」


メフィストが差し出された書類を、フェリシアはサッと回収する。内容にきちんと目を通すのは、後でゆっくりとする予定だ。


「もう一つ、魔導書店の噂についても報告いたします」


「魔導書店の……噂?」


 首を傾げると、メフィストは神妙な顔をする。


「どうやら、『不老不死の魔導書』なる本がこの書店内にあるのだとか」


「『不老不死の魔導書』? ヨハンさんからは何も聞いていませんが……」


初めて聞いた話だった。


「ともかく、噂を本気にした者が現れる可能性があります。戸締りと防犯はしっかりとなさってください」


「分かったわ」


「これで、入手した情報は全てです」


メフィストはそう告げる。

 最後に言われた『不老不死の魔導書』が一体何なのか、どこにあるのかは全く分からない。だが、メフィストの情報収集能力はかなり高いと知ることができた。


「では、報酬を」

「ちょっと待って」


 報酬の話をしようとしたメフィストを、フェリシアは呼び止める。


「……何か?」


「引き続き調査してくれないかしら。追加報酬も払います」


怪訝そうなメフィストに、フェリシアは新たな提案を行った。このままでも情報は十分だが、もっと見ていた方が良いだろうと思ったのだ。


「追加報酬ですか……それなら、刺繍に比翼の鳥を追加していただけませんか」


メフィストはそんなことを告げた。報酬の刺繍に、もう少し手を加えてくれと言うことらしい。


「……比翼の鳥は、良縁の印ですね。あとは出世とか」


「……」


「いっそのこと、鳳と凰なども縁起が良いでしょうね」


「……貴女が楽しいなら、それで良いです」


楽しそうなフェリシアに、メフィストは小さく苦笑した。


 と言うことで、新に比翼の鳥をモチーフにした鳳と凰の絵を刺繍することになった。少し大変そうだが、情報を高値で買うよりはましだろう。そうフェリシアは思った。刺繍も大変だが、彼のためだと思うと不思議と苦痛でないのだ。


「用事は終わりかしら?」


「……そうですね」


「今から、また新しい図案を考えないといけませんわ。では、また」


「ええ、また」


報酬の取り決めが終わり、別れる。メフィストはいくつか魔導書を購入してくれたようだ。


「(報酬……私はほとんど無料の刺繍だけれど、彼は本当に構わないのかしら?)」


 メフィストの場合、ほとんど本を購入してくれる。だから、彼の来店は売り上げに貢献しているのだ。


「(……彼が良いというのを、そのまま鵜呑みにしても彼が損をするだけだわ。他に、何か報酬をおまけしてあげましょう)」


追加報酬について、少し思考する。


×


「随分と長く、フロンスさんとお話していたようですね」


 伺うように、マリーが声をかけた。


「そうだったかしら?」


時計を見るも、思っているほど時間は過ぎていない。恐らく、マリーの軽口だろうと片付ける。仲良くしている相手に、少しヤキモチを焼いていたのかもしれない。


「殿方と二人きりで長く話すなんて、誤解されても仕方ありませんよ」


手を腰に当て、マリーは少し頬を膨らませる。


「そう言ったって。人に聞かれてほしくない話だったのだから、仕方ないわよ」


「……何を話していたのですか?」


「お仕事の話。内容は詳しく言えないわ。ごめんなさいね。……そういえば彼、私のペンフレンドだったのよ。良かった、知っている人で」


「そうなんですか? それなら、報酬のハンカチはもうお渡しに?」


マリーは少し目を輝かせた。やけに距離の近い客から、信用できる者に格上げされたようだ。


「いいえ。追加依頼をしたから、もう少し刺繍をするわ」


「それなら、次は何を刺繍するのですか?」


「比翼の鳥よ。鳳と凰で書こうかと思っているのだけれど……」


「……本当に、それで良いんですか?」


とマリーは驚く。


「刺繍の意味はわかってます?」


「それはもちろん。比翼の鳥は良縁の印、あとは円満な結婚ね」


「分かっているのになぜ?」


「彼が言い淀む姿は面白いと思わない?」


くすくすとフェリシアは笑うも、マリーはやや不満そうだ。


「付き合いの長いご友人だと分かってから、距離が近くないですか?」


「あら、ヤキモチ?」


「ヤキモチと言うか……」


困った様子で、マリーは視線を動かす。


「本当に、良いのですか?」


再度、確かめるようにマリーはフェリシアに問いかけた。


「なにがかしら? 私の恋愛や噂話については、私が本当にしなければ良いだけの話。特に問題はないと思うわ」


「いいえ、これ以上踏み込むのは野暮でしょうから……」


首を傾げれば、マリーはやや諦めた様子で首を振る。誰と誰が親しいとか、誰と誰が一緒に居ただとか、噂などどうとでもできる。悪意のある噂でなければ良い、とフェリシアは考えているのだ。

 それに、今フェリシアは誰かと結婚する気も付き合う気もない。だから噂を利用して、余計な声をかけられないようにもしている。これは嘘ではないし、実際の恋愛感情の有無は置いといて、親しくしているのは事実だ。それをどう解釈するか、それだけの問題だとフェリシアは考えていた。


「ともかく。新しい情報が手に入ったわ。これで対策が取れるわね」


「それは良かったです」


 メフィストから貰ったリストに載っている、怪しい魔術師達を魔導書店に入れないよう設定する。だが、元婚約者は入れるようにしておく。そうすれば元婚約者が直接、魔導書店に手を下すしかなくなるはずからだ。


 防犯についても、宮廷魔術師に依頼をし魔術で強化してもらうことにした。

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