新規商売
フロンスから教えてもらった風水を参考にしながら、フェリシア達は徐々に魔導書店の内装を変えて行っていた。
「だけれど、内装を変えるだけではお客さんは増えないと思うのよね……」
だって、ヨハンの行っていた内装には『商売繁盛』も少し含まれていたのだ。ヨハンほどの実力者がやって、この程度の集客(失礼)なのだから。フェリシアが改装したところで、大きな違いはないだろう。
むしろ利用者の高齢化で、減る一方だろう(もっと失礼)。
「新しく、お客さんを呼ぶための事業を考えてみようかしら?」
「なにが良いかしらね?」とフェリシアは思考する。この魔導書店には、広い土地があるのだ。(※フロンスと魔術の練習をした場所)
「喫茶店を併設するのはどうですか?」
と、マリーは提案する。意外な提案に、なんだかフェリシアは視界が開けた気がした。
「お嬢様はお菓子を作るのがとても上手です。魔導書は飲食物では汚れませんし、良い案だと思います」
「確かに、それは面白そうね。最近は本屋と喫茶店を兼ねているお店もあるわ。良い考えね」
ニコラスにも聞いてみたが、「お嬢様が大変でないのなら、お好きになさって良いのでは」と、意外と好感触な返答だ。
そのため、飲食店を営んでみることに。
×
「だから、まずは食事を作る場所と食事を食べる場所を増設しないといけないのよね」
そう、フェリシアはフロンスに零した。管理人室でいつも通り、魔術などの勉強をしていた時だ。
「魔導書店の管理は、どうするのです?」
「ニコラスや、式神達に任せる事にしたの。無論、細かい管理は私がするけれど」
フロンスに問われ、フェリシアは答える。最近、魔術をきちんと習うようになってから、式神をもっと上手く制御できるようになっていたのだ。
それに、扱える式神の数も増えてきた。フロンスにそう告げると、「魔術の才能があるようで、こちらも教える甲斐があります」と嬉しそうに笑う。
「増築の工事を誰に頼もうか、と考えているのよ」
「それなら、常連の方に打ってつけの方が居ますよ」
フロンスの紹介で現れた魔術師は、どうやら魔術で建築を行う者だったようだ。調べてみると、口コミも良いらしい。
「せっかくだから、頼んでみたいのだけれど……」
とお願いすると、その魔術師は増築の仕事を買って出てくれた。
「……ところで。魔術師に依頼しても良いものなのかしら?」
契約を結んだあと、フェリシアはフロンスに零す。
「設計図がきちんとしていれば問題ないかと」
大丈夫です、とフロンスは答えてくれた。
「詳しいのですね」
「呪猫の土地ではよくあることですからね」
「そうなの?」
フロンスは当然のことのように言うが、フェリシアは知らない。
「貴族の方はあまり関わらない案件ですし、疎くても問題ないかと」
フロンスは軽くフォローする。
「あなたはなぜ詳しいのですか?」
「魔術にとことん興味がありましたからね。独学ですよ」
フロンスはそう告げた。とことん魔術に興味があって、魔術での建築の方に向かうとは。好奇心が強いらしいと察する。もしかすると、魔術での建築以外にもいろいろと知識が豊富なのかもしれない。
設計を専門の者に依頼し、施工を魔術師達に任せることにした。
×
それから数日後、新しい建物が完成した。
魔術による建築のため、増築は短期間で終わったのだ。増築した箇所はフェリシアの故郷呪猫を思わせるような、木造の建築を中心とした建物だった。だが、元からある魔導書店との外観ともチグハグにならないよう、どことなく統一感が出ている。
「増設した場所は、魔導書店とは違って誰でも入店できるようにしないといけないわね」
早速、フェリシアは守りの結界を作り出す。この飲食店になる部分には魔術師や錬金術師以外も来られるようにしないといけないのだ。
「悪意の強い方には来てほしくないけれど、分別する方法が分からないからしばらくはこのままにしておきましょうか」
呟き、魔術結界の設定を終える。これでちゃんとした店になった。
飲食店では故郷呪猫の菓子や茶を出すと決めていた。魔女ラファエラもフェリシアの出すお茶や菓子に喜んでくれていたので、おそらくは大丈夫なはずだ。
飲食店の開店に合わせて、魔導書店の内装をやや呪猫のものっぽく変えてみることにした。
「やっぱり、統一感は大事よね」
風水的に悪くなければ、他の利用者達も大きく気にすることもないだろう。
×
それから、飲食店を開店した。
他ではあまり見ない、呪猫独特の茶菓子に客達はかなり興味津々のようだった。
事前に告知していたし、フロンスに頼んで広告もしていたので思ったより客が多く訪れてくれたようだ。
「こんにちは。……大盛況ですね」
フロンスも、飲食店の方に来てくれた。
「早速来てくれたのね」
「当然です。あなたの新しい事業ですからね」
どこか得意げなフロンスに、思わず笑ってしまう。
「どうかしら?」
「そうですね……懐かしい味がします」
問えば、フロンスは柔らかく微笑んだ。
「やっぱり呪猫出身だから、かしら?」
「そうかもしれませんね。ですが、今まで食べてきた菓子の中で一番おいしいです」
「お世辞をありがとう。さすがに老舗や名店と比べたらまだまだよ。もっとこれから、味を研究して美味しくするのよ」
「応援しています」
軽く会話をして、フロンスから離れる。
フォラクスが伴侶の魔女ラファエラを伴って来店してきた。
「……伴侶に頼まれましたので」
そう、フォラクスはやや面倒そうな様子で言う。
「そんなこと言って。割と乗り気だったじゃん」
ラファエラに指摘され「そうでしたかね」とフォラクスは、はぐらかした。もしかすると、彼なりの気遣いかしら、となんとなく思考する。
ラファエラは新しい店や食事に興味津々だ。きょろきょろと周囲を見回し、「きれーな内装!」と目を輝かせていた。
「すごーい、どれもおいしそう!」
注文してからも、食べ物達の美しい造形に目を輝かせる。
「さっさと食べなさい。余っても私が食べますから」
「うんー」
噂では、フォラクスとラファエラは『仲が良くない』と言われているらしいが、彼の気遣いや彼女の様子からそうは見えないな、と思う。
「おいしかったー」
どうやら、ラファエラは大満足だったようだ。
来店した客達は、おおむね満足してくれたようだった。
ともかく、1日目は大盛況のうちに終わったのだ。




