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魔導書店を受け継ぐことになりました。-不倫した婚約者を婚約破棄したら、10年来のペンフレンドに距離を詰められました-  作者: 月乃宮 夜見


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魔力相性

 ペンフレンドのメフィストに、魔導書店を継いだのを報告することにした。


「もう少し、外観や内装を変えたいのよね……」


便箋に文字を綴っていく。外観や内装を変えたい、と言ってもどんなものにするか今は考え中だが。

 それと四季の話や最近あった嬉しいことなどを、ぼかしを入れながら書き込んだ。


 それから2日後。

 当然のように、メフィストから返信があった。


『まずは魔導書店の引き継ぎ、おめでとう』


時候の挨拶も早々に、の祝福の言葉があった。


『魔導書店の外観や内装を変えたいと言うことですが、君の美的感覚(センス)を楽しみにしています』


「私の美的感覚(センス)……ってことになるのかしら? でも、確かに占いの結果を自身で選び取って行くのだから、間違いではないわね」


口元に手を充て、フェリシアは思考する。


『そう言えばですが。もう、婚約者は探さないのですか? あなたは、引く手数多だと思うのですけれど。最近は婚約者に関連する話題を聞かなくなりましたので、少し気になったのです』


急な話題展開だ。だが思い出してみれば、婚約破棄するまで話題の半分くらいは婚約者関連の愚痴だった。我ながら、他に言うことはなかったのかと思うが。


「結婚は……今はまだ、考えていないのよね」


呟きつつ、取り繕った言葉を便箋に書き連ねて行った。


「……でも。あなたとなら、いいかもね」


呟くも、手紙には書かなかった。


×


 魔導書店の管理人室で、今日もフロンスとの風水や魔術の勉強会を行なっていた。二人きりの状況にも慣れ、フェリシアは変に緊張することもない。


「(この香り……どこかで)」


フロンスが近いから、当然に雛菊(マーガレット)の香りがする。それと、あの不思議な香の香りも。

 その不思議な香の香りの正体が、今日はなんだか掴めそうな気がした。


 日常で嗅ぐ香りと言えば、ボディソープやシャンプーなどや服に付ける香りだろうか。あとは自身の文香と……


「(……メフィストの、文香?)」


この甘やかな香りは、そうかもしれない。フロンスの魔力の香りが混ざっているが、どこか似ている香りだ。


「なにか、不思議な香りがしますわね」


 さりげなく、フロンスに話題を振る。


「そうですか? 香水は付けていませんから……服に焚き込めている、香でしょうか」


やや不思議そうな様子で、彼がフェリシアを見た。割と珍しい表情だな、とフェリシアは思う。


「特殊なものですか?」


「いえ。私が気に入っているもので、私が調合したものです」


フェリシアが問えば、フロンスはきちんと答えてくれた。彼自身が調合したもの。つまりは彼自身が作り出した、唯一無意の香り、と言うことだ。


「嫌でしたか?」


「そうでなく」


少し困った表情のフロンスに、フェリシアは緩く首を振る。

 彼がどこかで購入した香りだというなら、『同じものを買っていたのだろうな』と思えたが。


「あなたも良い香りがします。趣味が良いですね」


言われ、フェリシアは思考を中断した。そこで、フロンスの声が、好みの性質だと気付いてしまう。


「……私も、自身で調合したものを使っていますわ」


通常、呪猫(フェレス)の貴族は自身が使う香は調合して使うのだ。そうでなければいけない、と言うものでは無いのでそうでない貴族も居るだろうが。


「こう言って良いのか……」


「何ですか?」


言い淀むフロンスに、フェリシアは続きを促す。


「……あなたの魔力の香りと合わさって、とても良い香りです」


そう答えるフロンスは、耳元が僅かに赤かった。照れているのだろうか。


「そうですか? それならよかった。魔力の香りと合わない香だと、自覚はなくとも他者を不快にさせてしまうから……」


 フェリシアは内心で安堵していた。フロンスは良い匂いだから、自分はどうなのだろうと気になっていたところだったからだ。少なくとも、フロンスにとって悪い香りでないらしい。


「魔力の香りは自覚しにくいですから。そう言っていただけて、助かりますわ」


「そうですか、引いていないですか?」


「なぜ?」


「……あー。気になさっていないのなら、良いです」


「?」


どこか言いにくそうな様子で、フロンスは僅かに顔を逸らした。

 フェリシア自身は自分が箱入り娘であることは、ある程度自覚している。だから、『もしかすると、変なことを言わせてしまったのだろうか』と過った。


 だが、その後もフロンスは気にした様子もなく、むしろどこか機嫌がよさそうだった。


×


「魔力の香りに言及することは、悪い事なのかしら?」


 自宅に戻って、フェリシアはマリーに問うた。横で、茶を飲んでいたニコラスがむせていた。


「ええと……当人の体臭に言及しているので、大分繊細(センシティブ)な話題だとは思いますが」


「……そうなのね」


ゴホゴホとせき込むニコラスの背を摩りながら、マリーは答える。言われてみれば、魔力の香りは当人固有の体臭なのである。


「まさか。誰かに言及されたとか、したとかしたんですか?」


持ち直したニコラスが、訝し気に問うた。『言ったやつを殴ってやろうか』と言わんばかりの様相だ。


「……魔力の香りが、良い意味で気になる方がいらっしゃるから……」

「どなたですか!?」

「えっ?」


ぼかしながら答えると、マリーが食いついた。


「それはもしかすると、『運命の相手』と言うものかもしれませんよ!」


興奮した様子で、マリーが力説する。その横で、ニコラスが『お嬢様にとうとうそんな方が……?』と呟いていた。


「『運命の相手』?」


「すごいです、お嬢様」


「そうかしら?」


どこか嬉しそうなマリーに、フェリシアは首を傾げる。ニコラスは何かぶつぶつ呟きながら茶に口を付けていた。


「普通、魔力の香りなど気にしませんからね」


「言われてみれば、そうね」


確かに、通常の魔導書店の利用者の香りについて思うことはないなとフェリシアは思いなおす。姿が変な利用者(主に錬金術師)なら居るのだが。


「魔力は魂の欠片、とも言われています。だから、気になる方は絶対に逃してはいけませんよ!」


「でも……彼は、『逃したくない縁がある』って言っていたわ」


「それは……何と言ったら良いのか」


魔力の香りが気になる相手には『逃したくない縁』がある。それは、恋愛なのかそうでないのかはわからないが。

 なんとなく、勘で恋愛方面の縁だろうなとフェリシアは感じたのだった。そう思うと、不思議と胸の内が痛くなる。

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