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そして彼は羽田に向かった

『北海道恵庭市で住宅火災が発生しました。火はすぐに消し止められましたが、住人の行方がわかっておりません――』


 春樹が寝転がってテレビの音を聞きながらスマートフォンでSNSを眺めていると、Awazon超お急ぎ便の箱が目の前に出現した。

 中から真っ黒いフォーマルなスーツ——礼服が出てきて春樹はぎょっとする。10秒後にこんな物が必要になる。どう考えたって好ましい状況ではない。

 持ち上げてみた。肩幅も丈も春樹のサイズにぴったりである。誤配送とは思えない。


「ん?」


 ひらひらと1枚の紙が落ちる。新千歳空港行きの飛行機のチケットだ。

 春樹の心拍数がじわじわと大きくなっていく。


 春樹は先程テレビから流れてきたニュースを思い出す。北海道恵庭市は春樹の実家がある。不意に、母のことが気にかかる。今の時間は母だけが家にいるはずだ。

 通話アプリから母の名前をタップする。嫌な予感は徐々に全身を蝕んでいく。

 コールが響き渡る。1回のコールがやけに長い。10回、待った。そこで通話を切った。長過ぎるコール音に耐えられなかった。冷たい汗が滲んでくる。

 テレビに焼け焦げた住宅の映像が出ていた。恵庭市のものではない。関東のどこかだ。音は聞こえてなかった。心臓の音があまりにも大きすぎた。


 春樹は1週間前に内定を獲得したばかりだ。これから社会に出て、金を稼いで、両親に恩返しする。そう思っていた。

 嫌な想像だけが膨らんでいく。焦燥感が湧いてくるがどうしようもできない。

 新千歳空港行きのチケットを見つめる。行くしかないのか。


 不意に、スマートフォンが鳴る。春樹はびくりと体を震わす。すぐに通話ボタンを押す。


「どうしたん?」


 呑気な声が電話口から聞こえた。母である。


「いや、その……」


 春樹は口ごもった。Awazon超お急ぎ便で喪服が配送されたから、不安になって電話をしたとは言えなかった。

 電話の向こう、母の漏れ出るような笑いが聞こえる。無事で良かった。もちろんそれも口に出せなかった。


「あ、そうだ。明日法事だから10時には家に来なよ」

「は!? 法事!?」


 寝耳に水である。


「そう、じーちゃんの三回忌」

「何で前日に言うんだよ!」

「いや、普通覚えてるかなって……まさか礼服無いの? 高校の時の制服出しとく?」


 散らかった部屋の真ん中、おろしたての礼服が横たわっていた。


「もうすぐ社会人だぞ! 礼服くらい持ってるっつーの!」

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