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北海道警察刑事部 捜査第零課 碓氷火花

「きゃああああ!」


 巨大な腕が突き出される。

 島本遠音(とおん)は弾き飛ばされ、背中から木に激突した。


 巨大な怪物が目の前にいた。

 その全長は2mを優に超え、全身には黒い毛が逆立っていた。ヒグマかと思ったがそうではないようだ。手足が不自然に長い。特に、腕は直立していても地面に付くほどだ。しかもその先端には()()()70cmほどの鈎爪がついていた。


「痛ったぁい……」


 遠音のセーラー服はあちこちが破けていた。抱えていたチューバも切り裂かれていた。分厚い真鍮の金管楽器が襤褸布ぼろぬののようになっていた。

 遠音は何が起きたか理解が出来ていなかった。部活の帰り道、いつも通り公園を通って自宅に向かっているところであった。

 激痛と恐怖で動けなかった。逃げたいが、体が言うことをきかない。怪物は一歩ずつにじり寄ってくる。

 怪物の目が、別の生き物のように爛々と輝いていた。

 遠音の目の前に来ると右腕を振り上げる。鈎爪が月光に閃く。


「いや……誰か助けて……」


 鈎爪が振り下ろされる。遠音は目を閉じる。金属音。辺りに響き渡った。

 一瞬、音が消える。微風が耳元を通り抜ける。

 遠音は恐る恐る目を開ける。

 鈎爪は宙空で止まっていた。いや、赤い何かと交差していた。ポストだ。空中に浮かぶ郵便ポストが、怪物の攻撃を食い止めていた。


「な、何が起きてるの……?」


 人の気配がした。遠音はそちらを向く。


「……火花ちゃん?」

「……島本か」


 黒いショートヘア。着崩したセーター服。クラスメイトの碓氷うすい火花(ひばな)がそこにいた。

 火花は右腕を掲げ、振り下ろす。めりめりと、何かが曲がる音がする。電灯が怪物に向かって倒れる。


「小癪な!」


 怪物は両腕を交差させる。電灯が細切れになる。怪物は舌打ちをすると火花の方を向く。


「貴様……()()()()か!」

「ったく、こんなところにも出るようになったのか」


 火花は両手を構える。



 北海道は、人間を捕食して生きる上位存在「怨神エンカミ」の巣窟である。

 彼らは闇に生き、闇の中で人間を狩猟する。その被害者は年間3000人ほどと推測されている。

 そして、その怨神と戦い続けている存在がある。

 北海道警察刑事部 捜査第零課 怨神討伐部隊。通称「神伐カミバツ」である。

 碓氷火花は、高校生でありながら神伐の一員である。生まれついての超能力サイキックの才能を買われ、スカウトされたのだ。




 火花は両腕を振るう。公園にある杭が浮き上がる。四方から、怨神に飛ぶ。


「クソがぁっ!」


 怨神は目にも止まらぬ速さで腕を振る。3本。杭が地面に叩き落された。怨神は硬直する。目は見開かれ、強く歯噛みしていた。1本の杭が胸を貫通していた。

 怨神は悲鳴とも怨嗟ともつかない叫びをあげると、体が砂のように崩れ、消えていった。


 遠音は口をぽかんと開けてそれを見守っていた。

 火花が駆け寄ってくる。


「島本、大丈夫か?」


 火花は眉を寄せて覗き込む。その穏やかな顔は、教室で見るいつもの火花だ。遠音はゆっくりと立ち上がる。


「ちょっと背中打っちゃったけど大丈夫みたい」

「なら良いけど……あまり痛むなら病院行けよ」

「うん、たぶん問題ないけど」

「……!」


 殺気。突き刺さる。火花は遠音を抱えて跳んだ。大木が、地面に突き刺さっていた。

 怨神がもう1体いた。先程屠った個体に比べて、一回り以上体格が大きい。

 火花のこめかみに汗が流れる。


「【乙級】……! まさかこんなとこで……!」

「若き神伐よ、せいぜい楽しませてくれよ」

「くっ……」


 怨神が跳んでくる。その太い両腕で、巨大な鎚を担いでいた。火花は遠音を背後にして構える。左手を振る。自動車が、怨神に向かって飛ぶ。閃光。周囲に疾る。火花の目が見開かれた。自動車が、粉々になっていた。


「まさか、これで終わりか?」

「くっ!」


 火花は手をかざす。周囲にある自動車が、次々と飛んで行く。怨神に直撃し爆発を起こす。


「火花ちゃん!?」

「大丈夫だ、心配すんな」


 火花は吐血していた。本来、火花の力で操作できるものは最大でも重量1000kg程度である。

 黒煙が、徐々に引いていく。無傷の怨神が、そこに立っていた。


「なかなか面白い手品だったな」


 怨神は口の端を釣り上げた。

 火花の頭の中で警鐘が鳴っていた。彼我の実力差は明らかだ。【乙級】は本来10人がかりで倒すべき相手だ。しかし逃げるわけにはいかなかった。遠音を連れて逃げられるほど、【乙級】は弱くない。

 火花は両腕に力を溜める。体内に力を溜めて、自分ごと爆発させる能力だ。相手が近づいてきたタイミングで発動させる。


「何か小賢しいことを考えているようだな小娘。だがここまでだ!」


 怨神は鎚を振りかざす。瞬間、怨神の頭が弾け飛ぶ。

 箱が、宙空に浮かんでいた。怨神の内側から出現することによって、頭部を吹き飛ばしたのだ。火花の背中に冷たいものが走る。自分の力ではない。

 後ろを見る。遠音が、口に手を当てて震えていた。


「島本……お前まさか神力カムイキロロを……?」

「あ、いや、その……」


 頭を失った怨神がどうと倒れる。その横に箱が地面に落ちる。裂け目からチューバの一端が見えた。Awazon超お急ぎ便。箱にはそう記載されていた。


「壊されたから買い替えなくちゃと思ってたら……」

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