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それはそれとして

「まいったなあ……」


 保田はため息を吐いた。

 納品が遅れると問屋から連絡があった。配送車が多重衝突事故に巻き込まれたらしい。

 食材の在庫は明日まで保つほどの量があったが、問題はコーヒー豆である。今にも底を尽きそうだった。

 コーヒー豆にも鮮度がある。保田には、いつも新鮮な味を提供したいというこだわりがあった。そのこだわりのために、いつもぎりぎりの量しか仕入れていなかった。今回、それが仇となった。


 Awazon超お急ぎ便の箱が出現する。保田は開梱用カッターで手早く開封する。


「……シャベル?」


 保田は首を捻った。こんなもので何が解決するのだろうか。

 風が、店内を吹き抜ける。タンポポの綿毛が入ってくる。保田の頭に天啓が降りる。


「そうか! その手があったか!」


 保田は急いで外に行き、タンポポの生えている土にシャベルを入れた。懸命に掘り起こす。バケツの中がタンポポの根でいっぱいになるまでやった。


 保田は、タンポポの根を外の水道で念入りに洗った。店内に持ち込むと洗剤でもう一度洗い、粗く刻んだ。

 それをフライパンで乾煎りする。ある程度火が通ってくると、香ばしい匂いが漂ってくる。保田はナッツを連想する。さらに火を通すと香りが濃くなってきた。そこで火を止めた。フライパンから取り出し、ミルに入れて粉末にする。

 そこからは、豆で挽くコーヒーと作り方は一緒だ。

 ドリッパーにタンポポの粉末を入れ、静かにお湯を注ぐ。褐色の液体が流れ出てくる。


 カップに注ぐ。色はやや薄いが、香りはコーヒーのそれに近い。

 味もかなりコーヒーに近かった。薄くは感じるが、アメリカンが好きな人間なら、この味でもいけるだろうと感じた。


 2階から息子が降りてきた。問題集とルーズリーフを片手に携えていた。いつも客が少ない時間帯だ。


「おい悠貴、ちょっとこれ飲んでくれよ」

「良いけど……普通のコーヒーじゃん」

「なんとなぁ、これはタンポポの根っこから作ったコーヒーなんだぞ!」

「へえ……」


 悠貴は角砂糖を一個溶かして口に入れた。表情は変わらない。


「どうだ?」

「ん、普通」

「コーヒー豆が入荷しなくて急遽作ったんだぞ。機転利いてるだろ?」

「……うーん」


 悠貴は拳を口に当て考え込んだ。


「超お急ぎ便で豆頼んだら?」


 保田の手元には、既にAwazon超お急ぎ便の箱があった。

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