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The Body

 小村がドアを開けると、男が立っていた。

 手塚だ。全身ずぶ濡れであった。

 雷鳴が轟く。雨は、少し先すら見えなくなるほどに激しい。

 小村は手塚の姿を見てぎょっとする。シャツの下からズボンにかけて、鮮血で染まっていた。


「手伝え」


 手塚はそれだけ言った。眼鏡越しに、刺し殺すような眼光が覗く。


「て、手伝えって何をですか?」


 手塚は顎をしゃくる。

 小村の足元に箱が2つ転がっていた。宛名は小村だ。Awazon超お急ぎ便、そう書いてある。

 手塚は、こちらをまんじりとせずに見ていた。爪先だけが上下していた。

 小村は手を差し込んで無理矢理箱を開ける。スコップと軍手が入っていた。


「行くぞ」


 手塚は短く言った。小村は唾を呑み込んだ。空に光が走る。それから、音が鳴る。

 手塚は外に停めてあるジープに乗り込む。小村は小走りで追いかけた。


 小村はちらりと後ろを見る。巨大な何かが、ブルーシートにくるまれて無造作に置かれていた。小村の背中に冷たいものが走る。生臭い匂いが、車中に漂っている気がしてくる。


「て、手塚さん、いったい何をしにいくんですか……」


 手塚は煙草を咥えると、左手でジッポを点火した。


「まさか人を……」

「わざわざ言うことか?」


 手塚はそれだけ言った。小村はもう何も聞けなかった。車は郊外へ抜け山道に差し掛かる。手塚の自宅は山のかなり奥にある。小村は一度だけ行ったことがある。荒れた広大な土地の中に、ぽつんと佇むように建っている。


 雨は止む気配はなかった。強くなる一方だ。

 手塚は車を降りると、トランクを開け、ブルーシートを剥がす。


「ひいっ」


 小村は思わず悲鳴を上げる。ばらばらに刻まれた肉と骨がそこにあった。

 小村のスコップを握る力が強くなる。手塚は黙って庭に穴を掘り始めた。

 雨は容赦なく2人を濡らす。湿った土にスコップの刺さる音が響く。

 小村は、深く息を吸い込むと、手塚の腕を掴む。


「手塚さん、自首しましょう」


 強い声で言った。雨音は家屋を叩き続けている。手塚は視線だけを小村に向ける。


「俺、手塚さんが罪から逃げるの、見たくないです。なんで殺しちゃったのはわかんないっすけど、逃げるのだけはやめましょう。俺も警察に一緒に行きますから」


 手塚の足元にAwazon超お急ぎ便の箱が出現する。手塚はナイフで切れ目を入れて素早く解体する。人の頭ほどの大きさの茶色の塊が出てくる。小村の口から小さく悲鳴が漏れる。

 手塚はそれを持ち上げ、小村の顔に近づける。


「……デミグラスソース缶?」

「良い鹿が獲れた」

「はいいいいい!?」


 よくよく話を聞くと、狩りをしていたら鹿が獲れて解体までしたので、不要部位の処分を()()()()欲しいということだった。


◆◇◆◇◆


 小村は鹿のヒレ肉を鉄板に押し付けた。芳しい香りが立ち上ってくる。それだけで、処理に抜かりがないことがわかる。血抜きを怠るとどうしても生臭さが勝つ。

 Awazon超お急ぎ便で届いたデミグラスソースを入れる。フレンツの一号缶だ。おおよそ3kg入っている。ここから1時間、肉が柔らかくなるまで煮込み続ける。

 小村は手塚の方を向く。


「それはそうと、説明はきちんとしてもらって良いですか?」

「……すまん」


 手塚は、キノコを刻みながら言った。耳が、赤くなっていた。

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