彼だけが知らなかった
熊のぬいぐるみであった。剥製ではない。ピンクのファンシーなクマのぬいぐるみだ。それが、Awazon超お急ぎ便の箱から出てきた。
指定暴力団「伏見組」の面々に緊張が走る。
伏見組といえば、昭和の札幌を裏から支配していた由緒正しい極道集団である。
近年は時代の波に押され勢力は減少しつつあるが、それでも必要悪としての矜持は失っていなかった。
会合の日である。若頭から舎弟、二次組織の組員に至るまで、総勢20名が一堂に会していた。
その部屋の中心に、箱が現れたのだ。
「おい」
低い声が部屋に響く。
若頭の原井は、ぬいぐるみを押し込めるように箱の中に戻す。
「誰だ、こんなシャバいモン頼んだのは」
空気がぴんと張り詰める。原井は面々を見回す。誰も、原井と目を合わせようとしなかった。
「おい、誰かなんとか言ったらどうなんだ」
原井は壁を蹴飛ばす。
舎弟の1人がおずおずと手を挙げる。
「ア、アニキ、その辺にしておいた方が……」
「どの辺だよ」
原井は舎弟を蹴飛ばす。同時に、背後の襖が開いた。
組長が、そこに立っていた。
開封されたAwazon超お急ぎ便の箱を見ると、舌打ちをした。
「原井、なんだこの箱は」
「オ、オヤジすいません、すぐに処分しま――」
鉄拳。頬を振り抜いていた。原井は仰向けに倒れた。
「勝手に開封してんじゃねえよ」
組長はクマのぬいぐるみを取り上げると、頭をやさしく撫でた。




