RE:SET
「ベリーショートにしてください」
「え?」
修一は思わず聞き返していた。
その女の髪は、腰ほどまでに伸びていた。
夜の清流を思わせる流麗で艶のある黒髪であった。一朝一夕で仕上がるものではない。髪に携わる仕事をしているからこそ、よくわかった。
「ベリーショートにしてください」
女はもう一度言った。有無を言わさぬ響きがあった。
修一はもう聞き返さなかった。
髪を左手に乗せる。潤いが、手のひらから伝わってくる。ダメージはほとんど見当たらなかった。流れるような黒。これを今から切る。修一は、全身を巡る血液が熱くなるのを感じる。
髪をクリップで固定する。手に、汗が滲む。肩上で鋏を当て、切る。
黒髪は音を立てて地面に落ちた。まるで自身の質量を主張するように。
ここから、徐々にベリーショートに近づけていく。修一の顔は、すでに汗でまみれていた。
修一は毛先を整えると鋏を置いた。
2時間半、経っていた。カットだけの時間としてはかなり長い。
しかし、時間かけただけの価値があった。修一はふうと息を吐く。
渾身の出来だった。
女は輪郭が顎にかけて細くなっていた。だから、広がるように前髪をセットし、膨らみが感じられるようにした。髪を短くすると鋭い印象になりがちだが、柔らかくなるように心がけた。女は左右に向く。髪がふわりと浮き、風が舞った。
Awazon超お急ぎ便の箱が、女の膝下に出現する。
「へえ、私ってベリーショートでも可愛いですね」
女は言うと、箱からウィッグを取り出した。黒のロングヘアだ。
それをかぶると、髪をかき上げる。流麗な黒線が舞う。
その姿は来店したときと寸分も違わない。
女は淡々とした足取りでレジに向かう。
「カードで」
女は短く言った。
その場にいる全員が、ぽかんと口を開けていた。




