表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/124

シュレディンガーの箱

 たすくの心中を黒いものが覆った。替えのビニール手袋が、鞄の中に入っていなかったのだ。

 佑は、生来の潔癖症である。自分以外の生物は全て穢れだ。外界の物に素手で触れるなど、考えられなかった。

 だから、外出する際は、使い捨て手袋を必ず鞄に入れていた。そのはずが入っていなかった。代わりに、似た包装のウェットティッシュが入っていた。朝急いでいたとはいえ、確認を怠るべきではなかった。佑は歯噛みする。


 現在装着している手袋は、手のひらがボロボロになっていた。転んでコンクリートの上に両手をついたからだ。佑は舌打ちをして、ゴミ箱に捨てた。

 午前8:21。都会の喧騒の中心。佑の手は、外界に剥き出しになっていた。

 全身が粟立つ。人混み、改札機、吊革、自動ドア。世界はあまりにも穢れに満ちている。息が、苦しくなってきた。早く遮断しなければ。Awazon超お急ぎ便が、足元に見えていた。

 佑は、心から安堵する。きっと、中身は愛用の使い捨てニトリル手袋だ。しかし、佑の頭を、よからぬ疑問が支配する。


――この箱に手袋を詰めたのは誰だ?


 Awazonは、生物以外なら森羅万象なんでも揃ってると言われるほど、豊富なラインナップがある。

 その一つ一つ全てが、機械によって梱包されているのだろうか。絶対そうだとは言えないし、絶対そうでないとも言えない。全身が脂ぎっている中年男性が、素手で梱包している可能性もあるのだ。佑の背中に冷たいものが走った。


 配送方法に関しても疑問が残る。周囲は誰一人として疑問を口に出さないが、そもそも()()はどうやって運ばれているのか。魔法なのかSFなのかご都合主義なのか。3日間風呂に入っていない妖精が、性器を触った手で素早く運んでるという可能性もある。佑は、胃の内容物が逆流するのを堪えた。

 佑の手は剥き出しであった。

 箱はずっとそこにあった。

 佑は、箱には一切触れず、踵を返して自宅に走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ