C.I.Y.(Carry It Yourself)
「あ、ごめんなさーい。買い忘れてたの今きづいてえ」
敦史の目の前に、2mほどの高さのAwazon超お急ぎ便の箱が出現していた。中身はおそらく冷蔵庫だ。
敦史は顔に垂れた汗を袖で拭う。
太陽からの殺意を向けられている。そう感じるほど陽射しの強い日であった。
北海道は一年中どこの地域も冷涼であると思われているが、それは誤りである。
この日の気温は32℃であった。北海道でも、内陸部は平気で30℃を超えてくる。
ちらりと上を見た。10階建てのマンションが、敦史を見下ろしている。
荷物をすべて搬入し終えて一息ついた。その矢先の冷蔵庫である。
「あー……頑張って運びます」
「ごめんなさいねー」
女は間延びした声で言うと、車のウィンドウを閉めた。きっとあのワゴン車の中はキンキンに空調が効いているのだろう。
ハズレの仕事であった。エスカレーターが使えないマンションでの引越作業。おまけに現場は10階建ての最上階だ。
「行くぞ」
重岡は短く言うと、冷蔵庫の前側に位置取った。敦史は黙って下側から持ち上げる。先輩社員が文句を言わない限り、敦史が文句を言うことは許されない。
外側の非常階段からゆっくりと運んでいく。
汗が、滝のように流れてくる。作業着は全身くまなく汗が染み込んでいた。絞ったら水たまりが出来上がるだろう。
螺旋に続く階段は景色が変わらない。進めども進めども、進んでいる実感が湧かない。
敦史の目の前に光が見えた。神々しいほどの輝きだ。その輝きを背景に、髭を生やした長髪の男が手招きをしていた。そちらに歩き出す。膝まで水に浸かった。足元。川が、流れていた。
「おい、アツ。着いたぞ」
重岡の声がした。敦史はそこで意識を取り戻した。
足元に川は無く、今立っているのはマンションの10階だった。どうやら、冷蔵庫を運びながら死にかけていたらしい。どう搬入したか覚えていない冷蔵庫が、傍らに立っていた。
重岡がスポーツドリンクを投げてきた。敦史は2回手の上で弾いてようやく掴む。脇に、Awazon超お急ぎ便の箱が転がっていた。
「シゲさんあざっす!」
重岡は何も言わずスポーツドリンクの栓を開けた。敦史も栓を開けて一気に流し込む。清涼感が駆け抜ける。スポーツドリンクは即座に全身に染み渡る。これでやっと、今日の仕事は終わりだ。
エレベーターで下に降りる。
そこに、大きな箱があった。Awazon超お急ぎ便。そう記載されていた。
「ごめんなさーい。ベッド買うの忘れててえ」
女は悪びれもせずに言う。
重岡は首にかけた手ぬぐいで顔を拭いた。
「アツ、行くぞ」
「え、あ、はい」
重岡は踵を返してトラックに乗り込む。敦史は慌てて追いかける。
女が、喚いていた。
重岡はそれを無視してトラックのキーを回した。




