レッド・ビーバーの最期
赤海狸。男はそう名乗っていた。
赤海狸の生業は、物流を堰き止めて自分だけの流れを作り出すこと。
つまり、"転売"である。
赤海狸は、次の標的を日本に定めた。
都心に30畳ほどの部屋を用意した。一人で住むとしたら、かなり広い部屋である。
余計な物は置かなかった。部屋にあるのは、ひとつの寝袋、わずかな食料、そして大量の黒い箱。
発売されたばかりの最新ゲーム機「Switch Station7」だ。部屋中を埋め尽くさんばかりに積み上げられていた。
赤海狸は、ブロック栄養食をミネラルウォーターで流し込む。
ここまでは順調だった。順調過ぎるほどだ。
調達にはホームレス達を使った。端金を渡しただけで喜んで引き受けた。あらゆる電機店に何日も前から並ばせて、金の限りに買わせた。
口座の金はほとんど空になっていた。しかし、赤海狸に危機感は無い。堰き止めた流れを解き放てば、すぐに回収出来る。
赤海狸はスマートフォンからフリマアプリを開く。
価格は10万円に設定した。仕入値のおよそ2倍だ。赤海狸にいっさいの罪悪感は無かった。需要があるところに供給しているだけだ。
出品してからおよそ1時間が経っていた。そろそろ買い手がつく頃だ。
通知欄を見る。赤海狸の背中に冷たいものが走る。まだ、1人の買い手もついていなかった。
商品の設定を見返す。どこにもミスは無い。閲覧数も増えている。
価格が高過ぎたのだろうか。いや、そんなはずはなかった。「Switch Station6」の発売時には3倍でも売れた。
赤海狸は、震える指でSNSを検索する。
#switchstation7
『Awazon超お急ぎ便で10秒前にゲットしました!』
『Awazon超お急ぎ便ありがとう!』
『周辺機器も一緒にAwazon超お急ぎ便で買いました! メリカーやりまくるぞ!』
『10秒経つ前に嫁に怒られました』
『転売ヤーがめちゃめちゃ買い占めてたから超お急ぎ便がありがたい!』
Switch Station7の購入報告が次々と駆け抜けていく。
日本以外の国も検索したが、状況はほぼ一緒だ。
赤海狸は後ろを振り返る。
積み上がったSwitch Station7が、赤海狸を冷たく見下ろしていた。




