勇者に理不尽な攻撃を食らって異世界転生させられたので転生先を滅ぼして元の世界に帰ります!
夜半である。宙空が突如として割れ、そこから巨大な怪物が出現した。
北海道歌志内市にある温泉施設「うたしない温泉コロロの湯」の駐車場である。
怪物は、地面に降り立つと同時に倒れ込んだ。
「勇者め……小賢しい手を使いおって……」
怪物は、名をネリウスと言った。
この世界の空間座標軸の隣にある世界、すなわち異世界から飛ばされてきた。
怪物は、異世界では「魔王」と呼ばれていた。世界を滅ぼすための存在である。
勇者の戦いに敗れ、とどめの一撃を受けた瞬間、何らかの異変が起こり異世界から弾き飛ばされたのだ。
ネリウスはゆっくりと立ち上がり、身体の動きを確かめるとほくそ笑んだ。
満身創痍ではあるが、不可逆のダメージは無かった。負っている傷さえ癒やせば、すぐにでも再戦できる状態にあった。
現状はわけのわからない世界に飛ばされてしまってはいるが、命まで奪われたわけではない。時間はかかるかもしれないが、復讐の好機はいくらでも残されていた。
「まずはこの世界の住人の魂を刈り取って、我が肉体の回復に使うことにしよう」
ネリウスは右手をかざした。この世界には、魔力の波動を感じなかった。魔の力を使える者にとって、それは僥倖であった。例えるなら、石器時代にひとりだけ機関銃を持っているようなものだ。
「逆巻く竜の叫びよ、嵐鐘を打ち鳴らし、屍屍を辿りて心音を切り裂け」
光の奔流が右手に集まる。輝きは収束し、そして荒々しく弾けていく。
「フェイタル・ライトニ――」
軽トラック。ネリウスを真横から吹き飛ばした。ネリウスは美しい放物線を描きながら5mほど飛ばされて頭からアスファルトに落ちる。
亜美は慌てて軽トラックから飛び出してくる。
「あああああああああああああ!? 申し訳ございません申し訳ございません! 大丈夫ですか!? お怪我はございませんか!? 生きてますか!? 死んでますか!? 宗派はどちらですか!? ……ってあれ?」
そこには、もう影も形も残っていなかった。
「し、鹿とかだったのかな……?」
亜美は、小首を傾げながら車内へ戻って行った。
Awazon超お急ぎ便で届いた軽トラックには、何故かひとつの傷もなかった。




