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爆発しそうで爆発しない、でもけっこう爆発した爆弾

 燈矢は最後の配線を取り付けた。静かに立ち上がり、完成品を見下ろすと、静かにほくそ笑んだ。

 爆弾である。螺子の一本に至るまで緻密な計算の元に組み立てられている。その完璧な機構は、芸術性すら感じさせてくれる。

 これ1つで校舎が木っ端微塵になる。そう思うと、声が漏れそうになった。


 この爆弾を完成させるのには、長い年月と労力、そして金がかかった。


 最も難儀したのは材料集めである。

 店頭で直接材料を買うわけにはいかなかった。知り合いに見られる可能性があったからである。

 だから、調達のほとんどにAwazonを利用した。しかし、Awazonが「犯罪行為に加担する意志で注文されたもの」に関して、なんらかの細工を施すことは、公然の秘密だ。先日も、銀行強盗が銃口からヒマワリを咲かせた記事が、新聞に載っていた。

 だが、Awazonの犯罪防止機能にも1つ穴があった。犯罪以外の目的で購入した物を分解し、他の部品と組み合わせて危険物を組み立てることは想定していないのだ。爆弾系YouTuberが言っていたから間違いない。

 燈矢は少しずつ、部品に使える機械を購入した。ときには、部品1つを取り出すためだけに大型家電を購入する必要があったが、根気よく少しずつ爆弾を組み立てていった。

 完成したとき、爆破を計画してから、11ヶ月が経っていた。


 金策、部品調達、組立の3つのプロセスの中で、一番時間を費やしたのは金策であった。


 元来、社交的ではない性格を奮い立たせ、居酒屋でバイトした。この街で高校生がまともに稼げる職業はそれしか無かった。

 山ほどあるオペレーション、鬱陶しい客、強要される体育会系のノリ。正直、何度も辞めようと思った。しかし、全てを吹き飛ばしたいという目標があるということを思えば、どうにか我慢が出来た。シフトには入れるだけ入った。店が休みの日以外はほとんどの日に燈矢の名前が連なった。仕事の能率はどんどん上がり、同僚からの信頼もそれに比例した。辞意を伝えたとき、店長はじめ仲間たちからは必死に止められた。昨日行われた送別会のことを思うと、燈矢の目に熱いものがこみ上げる。


 燈矢はかぶりを振った。その程度のことで絆されてはいけない。復讐は、完遂せねばならないのだ。

 正午をやや過ぎた頃、燈矢は校舎裏にある広大な山に登っていた。ここからドローンで爆弾を運び、学校に落とすのだ。

 おおよそ500人が在籍している学校だ。そこにいる、スクールカーストの頂点で胡坐をかいているクズどもの運命を歪ませてやる。燈矢は口元に笑みを浮かべた。

 燈矢は爆弾をドローンに括りつけた。そこで、背中に熱いものを感じた。振り返る。燈矢は思わず腰を抜かした。

 山火事が起きていた。炎が、まるで巨大な蛇のように唸り、暴れていた。

 燈矢は走った。生存本能が赴くままに飛び出した。このままでは何も為せないまま死んでしまう。50mほど全力で駆けた。そこで燈矢は足を止めた。その「何かを為すためのもの」を置き忘れていた。

 爆弾とドローンの方を向く。燈矢の背中に冷たいものが走る。炎は、爆弾のすぐそこまで迫っていた。燈矢は力の限りに足を動かした。このままだと、自分が木っ端微塵になってしまう。

 空気が割れた。衝撃。背中にぶつかる。爆弾が爆発していた。燈矢は山肌に何度も打ち付けられながら転がり、Awazon超お急ぎ便の箱に当たって止まった。背中が燃えるように熱い。全身に激痛が走っていた。


「おい、大丈夫か!」


 男が、立っていた。その声は燈矢の耳には届かなかった。轟音にやられて、耳鳴しか聞こえなかった。

 男はAwazon超お急ぎ便の箱から、救急箱を取り出す。塗り薬をたっぷりと掌に乗せ、燈矢の破れた背中に触れる。激痛。背中から全身に駆け抜けた。燈矢はそのまま意識を手放した。


 燈矢が目を覚ましたのは、3日後のことであった。

 真っ白い病室。泣きじゃくる母親。ドアの外がやけに騒がしい。


「あんたみたいな息子を持って、私は幸せだよ」


 母は、顔中から涙を流しながらそう言った。燈矢は思わず首を傾げる。

 母からの話をまとめると「山火事をいち早く察知した天才高校生が、自分の命も顧みず、お手製の消火装置を使って山火事を消した」というストーリーになっているらしい。爆弾の衝撃波が火勢を吹き飛ばし、その後の真空状態によって完全に鎮火したと、燈矢は察した。

 テレビを見る。元バイト先の店長が「あの子は一生懸命で頑張り屋だから、こういうことをやってくれると思ってました」と、インタビュアーに答えていた。燈矢の頬は紅潮する。


「ちょっと失礼」


 男が、看護師を押しのけて病室に入ってきた。燈矢は口を大きくする。あのとき助けてくれた男だ。燈矢は目を凝らす。どこかで見たような気がしていた。


「燈矢、この方がお前を助けてくれた濱中教授だよ」

「濱中教授!?」


 思わず大声が出る。数年内のノーベル化学賞受賞間違い無しと目されている、あの濱中教授だ。


「あ、あ、あ、ありがとうございます!」


 燈矢は立ち上がろうとしたが、出来なかった。背中が酷く痛んだ。


「礼なんていらないよ。それより、燈矢くんに1つだけ言いたいことがあって」


 濱中教授は燈矢の耳元に顔を近づけた。


「あの爆弾、どうしてあの程度の威力しか出なかったか、知りたくない?」


 燈矢はどきりとした。もし、爆弾の威力が想定通りだったら、燈矢も濱中教授も、今ごろこの世にいないはずだ。何もかも、見抜かれていた。

 燈矢は濱中教授の顔を見つめた。まるでいたずらっ子のような笑顔だった。


「じゃあ、僕の大学で待っているから」


 今度は、燈矢以外にも聞こえるように言った。

 燈矢の耳だけに、運命のねじ曲がる音が聞こえた。

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