花束を君に
「新婦によるブーケトスを行います」
司会が告げると、女性たちはチャペルの扉前に集まりだした。
美奈は、ゆっくりと車輪を後ろに回して、人の群れから離れた。
光の笑顔が眩しかった。純白のウェディングドレスが、陽光に照らされて輝いていた。
隣で笑顔の夫が立っていた。業界で名を馳せてるミックスエンジニアだ。その誠実な仕事ぶりは美奈の耳にも聞こえている。結婚の報告を受けたときに会ったが、誠実な印象を受けた。破天荒な光とは調和が取れているような気がした。
光が幸せになって本当に良かった。美奈は心からそう思った。
事故で歩くことが出来なくなった美奈に、最初に手を差し伸べてくれたのは光だった。
美奈には、ソフトボールでオリンピックに行く夢があった。その夢を諦めさせられて、自暴自棄になっていたとき、光は無理矢理軽音楽部に勧誘した。半ば拉致だったなと、美奈は振り返って苦笑する。車椅子をあんなスピードで押されたのは、後にも先にもあの時だけだ。
光に出会っていなかったら。その世界線を美奈は想像したくなかった。ギターを弾くようになったのも、バンド活動にのめり込むようになったのも、自力で外に出るようになったのも光がきっかけだ。楽器メーカーに勤めることになったのも、そこから連なっている。
光は現在、ソロギタリストとして、色々なミュージシャンのバックでギターを弾いている。
唯一無二の親友が、夢を叶えて充実した日々を送っている。美奈は、そのことが自分のことのように嬉しかった。
ふと、美奈は自分の膝にAwazon超お急ぎ便の箱が乗っていることに気がつく。
開封すると「これはあなたが10秒後に欲しくなる商品です」と書いた書面と共に、グローブが入っていた。左利き用だ。間違いなく、美奈のために配送されたものだ。
「投げるよー!」
光は両手を高く上げ、ブーケを振りかぶる。途端に、人混みが割れる。光と美奈の間に、一直線の道が開ける。
光は左腕を振り降ろす。ブーケは、唸りをあげて飛び、美奈が右手に構えたグローブに吸い込まれた。出席客から、歓声と拍手が巻き起こる。
「次は美奈が幸せになる番だよ!」
美奈はブーケを高々と掲げた。




