球部〜the Death Trap Labyrinth〜
零が目を覚ますと、見知らぬ部屋の中にいた。
頭が酷く痛む。自分がどうしてここで寝ていたのか、まったく思い出せない。
周りを見渡す。部屋は直径5mほどの球状であり、上下にハシゴが走っていた。
人の気配は無い。四方の部屋を覗くと、そこも球状であった。どうやら、同じ形状の部屋が、いくつも連なっているようだ。
零は隣の部屋に行こうと歩き出した。その瞬間に転んだ。足下に、Awazon超お急ぎ便の箱があった。箱を開けると、中に大根が入っていた。
零は首をひねる。Awazonプライム会員になって半年、今まで超お急ぎ便で無意味なものが配送されたことは無い。これも、何かの意味があるはずだ。
零は大根を隣の部屋に投げた。風を切る音がする。そっと、隣の部屋を覗くと、大根が賽の目に切れていた。零の背中に冷たいものが走る。迂闊に足を踏み入れていたら、自分もああなっていた。
その右隣の部屋に足を踏み入れようとする。最初に踏み入れようとした部屋を、便宜上「北」と定義すると、東の部屋だ。またしても零は箱に躓いて転ぶ。
零はその中に入っていた長い棒付きの茄子を、部屋にそっと入れた。愛別町産の米茄子である。激しい炎が、その身をを程よく焦がした。
次に零は南の部屋に進む。今度はAwazon超お急ぎ便の箱は出現しなかった。ゆっくりと、爪先で部屋を吟味しながら入った。焼けた茄子をかじる。茄子自体に旨味があり美味い。南の部屋は、何の仕掛けも無かった。
零はAwazon超お急ぎ便の力を利用して、この迷宮をどんどん進んだ。時には人参が現れ、時にはもやしが現れた。
そうやって進んでいると、肉の焼ける匂いがした。零は思わず身構える。今度のトラップは炎か、はたまた電流か。そっと、顔を出す。
「あ、またお客さんだ」
黒人の男がいた。その周囲にも人がいた。5人で、肉を焼いていた。零の手元にAwazon超お急ぎ便の箱が出現する。
「みんなでのんびり迷宮を進んでいたんですが、ちょっと休憩を取っていたんですよ。あなたも一緒にどうですか?」
黒人の男が、肉の入った紙皿を差し出してきた。白老牛だ。零は一礼して受け取る。これが罠だという考えは、浮かばなかった。肉の焼ける匂いは、拒絶するにはあまりにも魅力的過ぎた。一口頬張る。ここまで野菜だけ食べてきた口に、牛の脂が深く深く染み込んでいった。豊潤なタンパク質が全身を駆け巡る。
「あ、あの。これもどうですか」
零は10秒前に出現したAwazon超お急ぎ便の箱を差し出す。開封すると、栗山町産アスパラガスが顔を出した。鮮やかな緑が目に眩しい。一般的なものに比べて太く、肉厚である。全員が拍手をした。
「せっかくだから、これ、開けちゃいましょう?」
中年の女性が、シャンパンを持ってきた。Awazon超お急ぎ便の箱が床に転がっている。女性が指に力を込めると、甲高い音がして栓が外れた。コルクは隣の部屋まで飛び、強い酸で溶かされていた。誰も、気に止めなかった。
酒宴は、全員が酔い潰れるまで続いた。
この迷宮の主は、モニター越しに彼らの様子を見ていた。
易々と破られる罠。恐れる様子の無い参加者。美味そうな食事、そして酒。
迷宮の主は、泣いた。




