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内山主任(WHITE ALBUM)

 内山はレコードに針を落とす。澱みない動きであった。緩やかではあるが、動線は最短距離を辿っていた。カフェチェアに腰掛け、陶磁器のカップに紅茶を注ぐ。カモミールの豊かな香りが漂う。


 レコードプレーヤー、椅子、ティーカップ、そして紅茶。優雅なひと時を彩るその全てが、Awazon超お急ぎ便で届けられていた。


 時が止まった。そう錯覚するほど静まり返っていた。その中を、紅茶を啜る音だけが響いていた。


 その場にいる全員が呆気に取られていた。矢崎も呆気に取られていた。


「う、う、う、内山主任!? 何してるんですか!?」


 矢崎が止めようとする。内山は口の前で人差し指を立てた。

 銃声が響き渡る。ひぃ、と悲鳴が漏れる。強盗が、真上に発泡していた。


「おいテメエ、ふざけてんのか」


 胆振銀行苫小牧中央支店を、5人の強盗が占拠していた。

 行員と客、合わせて13人が人質になっていた。もちろん、その13人に、入金手続きに来ただけの内山と矢崎も含まれている。

 強盗は、ボイスチェンジャーを使っていた。それでも、声色に苛立ちが伝わってきた。

 強盗は拳銃を右手にぶら下げたまま迫ってくる。内山は紅茶を一口啜った。


「おい、脳味噌をブチ撒けられてえのか!」


 強盗は銃口を内山に向けた。内山は何食わぬ顔でスコーンに手を伸ばす。


「よし、てめえはぶっ殺す」


 強盗が引き金に指をかける。瞬間、強盗の視界を箱が遮った。Awazon超お急ぎ便。そう書かれていた。

 強盗は箱を手で払う。再度内山に照準を向けるが、すぐに前かがみに倒れた。内山の蹴りが金的に入っていた。


「矢崎くん、男って愚かだと思わないか? 弱点を体外にだらしなくぶら下げて」


 内山は微かに笑みを浮かべる。残りの強盗4人の銃口が一斉に内山に向く。しかし、誰も引き金を引けなかった。撃つと対角線上にいる仲間に当たる。内山は、そういう位置に立っていた。

 全員が、一瞬躊躇った。そのに、内山はAwazon超お急ぎ便の箱をこじ開ける。閃光。銀行の中を走る。棒状の物が、4人の銃口に突き刺さっていた。


「ボ、ボールペンだと!?」


 強盗のリーダーが驚愕する。内山。懐まで来ていた。掌底が顎下から突き刺さる。リーダーは、真後ろに倒れた。


 警察が突入してきた。中から尋常ならざる音が聞こえて強行突入してきたらしい。現場を見て、警察は目を見開く。既に、5人の強盗が倒れていた。

 警察は《《内山を》》取り囲む。内山は、それを意に介さず、おもむろにレコードプレーヤーを止めた。


「お話、聞かせてもらえますか」


 警官は盾越しに言った。内山は軽く両手を挙げる。


「詳しくはこちらに録音してますが、事情聴取とあればしょうがないですね。いくらでもお話いたします」


 内山はレコードを警察に差し出す。真っ白な円盤だった。





 矢崎はふうと息を吐いた。

 事情聴取は10分ほどで終わった。軽く状況を聞かれただけだった。なにしろ、ずっと突っ立っていただけだ。腕時計を一瞥する。15時45分を指していた。

 矢崎は隣の席を覗く。内山は、紅茶を片手に聴取に応じていた。

 今回の事件解決における重要人物であるから、聴取時間が長くなるのは理解できるが、矢崎の目には、内山が意図的に話を伸ばしているようにしか見えなかった。

 警察に許可を取って、矢崎は内山に話しかける。


「う、内山さん、この後16時から苫小牧新聞社さんへのプレゼンですよね……?」

「矢崎くん任せた。私はほら、まだまだ話すことがありますから。プレゼンは参加したかったのですが、状況が状況だけに、いやあしょうがないです」


 内山はカフェチェアに背中を預け、紅茶を啜った。

 警察はうんざりした表情を隠さなかった。

 矢崎は「絶対アンタ面倒くさいだけだろ」と思ったが、口には出さなかった。


「先方によろしく」


 内山は頬を緩めた。

 矢崎は荷物を抱えて、目的地まで走った。

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