Who are "ARE"?
茂雄がAwazon超お急ぎ便の箱を開封するとアレが出てきた。
茂雄は眉間に皺を寄せる。目の前にある、アレの名前が出てこないのだ。用途は知っている。名前がカタカナなのも覚えている。おそらく、4文字だ。しかし、出てこない。
網膜に投影されたアレが、視神経を通過して大脳新皮質にばら撒かれ、言語中枢を中継して喉の手前で詰まっていた。アレの名前は声帯を震わせない。
茂雄はアレを指で摘んだ。その形状は一見奇天烈のようで、理に叶っている。アレをアレするために使うのであれば、誰が作ったとしても、最終的にアレはこの形状に行き着くだろう。
アレを、掌に乗せる。記憶は、秋と冬の境目を繋ぎ合わせる初雪のように、一瞬だけ感触を残してすぐに消えた。名前は出てこない。
茂雄はアレを使ってみようとする。そうすればアレの名前が出てくるかもしれない。しかし躊躇った。アレは男が、ましてや自分のような中年男性がアレするようなアレではない。眼鏡をずらし、裸眼でアレを見る。こうしないとアレの細部が見えない。茂雄は否が応にも老いを実感する。
「あ、パパ、そのアレちょっと貸して」
娘が部屋から出てきて、茂雄からアレを引ったくる。そのままアレと共に洗面所へ消えていった。
こっそり、娘がアレでアレをアレするところを覗いた。娘はアレを器用にアレする。名前は、出てこない。アレの名前は結局アレのままだった。
Awazon超お急ぎ便から「健やかな老後のための認知症予防トレーニング」と題された本が届いた。
しばらく眺めたが、アレの名前が出てくることはなかった。




