流され女と錨
「ちょっとゴム取ってくるわ」
男は、全裸のまま寝室を出て行った。
ああ、《《また》》だ、と恵理奈は思った。
大した仲良くもない同期に誘われ、行きたくもない合コンに行き、さほど好みでもない男と流されるまま関係を持つ。
思えば、高校も大学もそうだ。大した高望みもせず、親や教師の薦めるまま、行けそうなレベルの学校になんとなく行ってた。
涙が、溢れてきた。恵理奈は自身がとても矮小な存在に思えてきた。今まで歩んできた道は、誰かが舗装した道だ。舗装された道を、舗装されいてるからという理由で歩いただけだ。そこに、自分の足跡は刻まれていない。
恵理奈は未来を想像する。きっと、それなりの企業に勤めて、それなりの男と結婚して、それなりの生活を送るのだろう。
不意に、大学を辞めた友人を思い出した。後進国に学校を作るのだと、太陽のように輝く眼で未来を見据えていた。
彼女が絶対に幸せになれるとは限らない。それくらいは知っている。普通の生活だって悪くないかもしれない。ただ、自分の道を自分で決めていることが羨ましかった。
視線の先に、Awazon超お急ぎ便の箱があった。そういやAwazonプライムに登録してたなと、恵理奈は思い出す。それも、友人に勧められて仕方なく登録した。
持ち上げようとするが、持ち上がらない。重い。恵理奈は情けなくなった。自分が欲しいと思うものすら、持ち上げられないほど自分は非力なのだ。そう思うと、急に哀しみが怒りに変わっていく。
両腕に力を籠める。口から、くぐもった咆哮が漏れる。両脚にも力を入れる。荷物が、上がった。
「あ」
声が出た。荷物が手からすっぽ抜けて飛んで行った。
「ごめん恵理奈ちゃん、ゴム切らしてたからナマでぶべっ!?」
緩やかな放物線を描いた荷物は、男の顔に直撃した。
恵理奈の頭に、晴れ間が広がった。偶発的ではあるが、流れを自分自身で変えたのだ。
恵理奈は乱れた服を整えて、部屋を出た。
外は、にわかに白み始めていた。恵理奈は空に向かって両腕を伸ばした。これは、自分自身の夜明けだ。
まずは、ジムに行くことからでも始めてみようか。英会話教室でも良いかもしれない。
恵理奈は、やや肌寒い表通りを、1人で歩いた。




