フラッグジャックによろしく
「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか!」
客室乗務員が叫んでいた。
白男は顔を顰めた。Awazon超お急ぎ便が3箱出現した時点で、いや、《《飛行機に乗る》》という時点でこうなることはわかっていた。
最近は白衣を羽織ってから乗り込んでいた。そうすることで、Awazon超お急ぎ便の箱をひとつ減らせる。
白男は黙って立ち上がる。「私が医者です」などとは、わざわざ言わない。
患者の元へ駆けつける。70歳くらいの老人の男性だ。床に倒れ、大きく痙攣している。Awazon超お急ぎ便の箱を開けると、AEDが入っていた。《《やはり》》だ。Awazon超お急ぎ便の大きな長所は、診察する時間を省けることだ。
「離れて」
白男は手で制する。AEDから警報音が鳴る。老人の体が大きく跳ね上がる。手首を掴むと、脈が正常化していた。
「お医者様!次はこちらです!」
「『次は』じゃないよ、まったく」
男が、鳩尾のあたりを押さえて苦しんでいた。聴診器をあて、触診もする。おそらく、胃痙攣だ。Awazon超お急ぎ便には、内視鏡が入っていた。
「アンタ、今日の朝食か昨日の夕食で腹痛くなるようなもの食ったか?」
「ううう……サバかマグロかサーモンかイカかエビかホタテか」
そこで黙らせた。男の顔に脂汗が滲んでいた。内視鏡が出現していた。この時点で十中八九アニサキス症だろうと白男は踏んでいた。
「じゃあ内視鏡を入れるぞ」
口から内視鏡を入れる。初期のアニサキス症は、直に取り除くのが、一番確実に治療できる。胃に到達すると、モニター越しに早速白い影が見えた。マイクロブレードで速やかに除去する。他の乗客が、白男の鮮やかな手捌きに歓声を上げていた。
Awazon超お急ぎ便の箱はもう一つある。出来る限り早く済ませたい。白男は集中する。
処置を終え、内視鏡を取り出した時点で、近くから女性の呻き声が聞こえた。Awazon超お急ぎ便の箱を抱えて、走り出す。白男の前に、1人の男が立ちはだかる。その手には、拳銃が握られていた。
「この飛行機は俺が占拠する!」
「ふんっ!」
「ぐえっ!」
白男の拳が的確に顎を打ち抜いて男は崩折れた。ハイジャック犯ごときにAwazon超お急ぎ便の助けは不要だ。
3人目の患者は、妊婦だった。腹部を押さえて苦しんでいた。呼吸が荒い。座席は濡れていた。着陸まで、間に合うとは思えなかった。
「……8ヶ月? なんで飛行機乗ったの?」
「どうしても、どうしてもサンダーガールの再結成ライブに行きたくて……」
妊婦は息も絶え絶えに言った。白男はかぶりを振った。
「とりあえずここで取り上げるから。CAさんお湯用意してください」
「あ、あの」
CAが何かに気づいた。白男の顔をまじまじと見る。
「あなたはもしかして、行く先々で医師が必要なアクシデントに巻き込まれることで有名な旗間白男医師、通称『フラッグ・ジャック』先生では?」
「私をその名前で呼ぶな!」




