"本物のワル"
『お湯に入っても取れない!温泉・海水浴に行きたいけどタトゥーが気になるあなたに!』
ヤスオの目に、宣伝文句が飛び込んできた。
Awazon超お急ぎ便の箱の中には、肌色のスキンクリームが入っていた。入浴する際にタトゥーを隠すための商品だ。
日帰り浴場の目の前である。ヤスオは、そのスキンクリームを草むらに投げ捨てる。
「ったく、Awazon超お急ぎ便もくだらねえ気づかいをしやがって」
ヤスオは"本物のワル"なので、そんな物は必要ない。背中には、肌を埋め尽くすほどの大きな虎のタトゥーが彫ってあるが、それを咎める者がいたら、力でわからせればいい。
暖簾をくぐる。『刺青・タトゥーお断り!』のポスターが目に入るが、当然無視をする。
脱衣場には、先客が1人いた。シャツを脱いだ上半身に、サングラスをかけた兎が彫られていた。どうやら、従業員と揉めているようだ。
「すみません、お客様。タトゥーの入った方のご入浴はちょっと……」
「あァ!? 俺に指図すんじゃねェよ!」
兎のタトゥーの男は、胸ぐらを掴む。従業員の顔が引きつる。ヤスオは特に干渉しない。力の弱い者が強い者に従うのは当然だからだ。
「おう兄ちゃん、そこまでにしとき」
背後から声がした。腹に響くような声だ。
そこに立っていたのは、パンチパーマ、厳ついダブルのスーツ、襟の角ばったシャツ、ごつい金のネックレスと、どう見ても一般人ではない男だった。
ヤスオは、顔から血の気が引いていくのを感じた。パンチパーマの後ろに、同じような風体の男が5人立っていた。
「俺ら日陰モンが、カタギに迷惑かけちゃあいけねえよなあ?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
兎のタトゥーの男は、上半身裸のまま逃げていった。従業員が礼を言うと、パンチパーマの男は豪快に笑った。
ヤスオは呆気に取られたまま、目の前の光景を眺めていた。
男たちがシャツを脱ぐ。全員の背中に、極彩色の龍が彫られていた。
「カタギの人を怖がらせちゃあいけねえからな!」
男たちは、セカンドバッグからクリームを取り出す。先程ヤスオが投げ捨てたものと同じ物だ。
背中に塗ると、みるみるうちに、刺青が隠れていった。
ヤスオは急いで入口まで戻った。




