「桜が咲くまでには」
白銀の斜面にスキー板でなめらかな弧を描きながら鮮やかにスピードを上げて滑降する信二郎は何かに躓いて激しく転がった。
全身が雪まみれになっていた。春先の雪は水分を多分に含んでいるため、スキーウェアがあっという間にぐしゃぐしゃになる。
信二郎は躓いた辺りを見る。白い景色に茶色い箱はよく目立った。舌打ちをする。Awazon超お急ぎ便。そう書いてある。
信二郎は箱を開ける。中にはロッカーのような大きな箱と、「これはあなたが10秒後に欲しくなる商品です」と書かれた書面が入っていた。
遠くで、ごうと音がした。辺りが大きく揺れている。斜面の上を見る。景色がずれていた。いや、雪崩だ。こちらへ一直線に向かっている。
「なるほどなあ」
信二郎は、頭を掻きながら箱の中へ入る。中は狭く、暗く、決して快適とは言えなかった。
衝撃がする。箱が何回も何回も回転していた。そのたび、体のあちこちは打ち付けられた。
しばらくして、回転は止まった。酷く狭い宇宙に、1人だけ浮いているようなそんな感覚を覚える。自分が上を向いているのか下を向いているのか、それすらもわからなかった。扉を押す。あまりにも重く、びくともしない。
スマホの背面を2回タップする。この動作で119に繋がるよう設定してある。
「あ、すみません。雪崩に巻き込まれました。あ、今、箱の中にいます。はい、素留津山の三合目辺りです。食料も飲料もあるんでそう簡単には死なないとは思いますが、なるべく早めに助けてくれるとありがたいです。できれば——」




