週刊マンガが出来上がるまで
藤谷は窓に足をかけた。
もう、死ぬ以外に、解決策が無かった。
締切はすぐそこまで来ていた。このままアイデアが浮かばなければ、連載を落とす。それは、人気漫画家「藤谷流」にとって死と同義だ。
藤谷は虚空を見つめる。
『過去と未来を自由自在に操って、自分に害なす要因をすべて無効にする能力者』はどうやって倒せば良いのか。
——思いつかない。
そもそも、勢いに任せてそんな無茶苦茶な設定のキャラを出したのは誰だ。
——自分だ。
しかも、ヒラヒラしたデザインの、描くのにやたらめったら時間がかかる衣装を着せたのは何故だ。
——そのときはそういう気分だった。
マンションの20階。風が唸りを立てていた。藤谷は窓枠を蹴って、飛んだ。
そこからは、ゆっくりと時間が流れた。コマ送りのように、景色が流れていく。今まで歩んで来た苦難の道が、脳裏に浮かんで来た。ひたすら絵を描き続け、物語を考え続けていた。
過去の藤谷が、アイデアノートに必死に記入していた。アイデアを捻り出すだけで終える。そんな1日もあった。過去の藤谷がページをめくる。現在の藤谷が目を見開く。びっしりと文字で埋め尽くされたノートの端に、すべての問題を解決する方法が書いてある。
藤谷は必死に手足を動かす。地面が、すぐそこまで見えている。
「嫌だ! 死にたくない!」
Awazon超お急ぎ便の巨大な箱が出現した。藤谷はその箱に落ちた。中が、スポンジで満たされていた。藤谷は放心していた。股間が、濡れていた。
藤谷は足を取られながら、なんとか外に出る。編集の迫田が立っていた。
「先生、ネームは出来ましたか?」
いつも通りの、無表情だ。
「10分待って。死にかけたときに神展開思いついたから」
迫田がノートと鉛筆を渡す。藤谷は高速で筆を走らせる。動きに、一切の迷いが無かった。
街灯だけが、ノートを照らしていた。鉛筆の擦れる音が、響いていた。
「ところで、先ほど私が注文したAwazon超お急ぎ便ですが」
「……あとで領収書ちょーだい」
人気漫画家「藤谷流」は、今週も命を繋いだ。週刊マンガの連載は、命がけだ。




