無人島は、この頭の中にある。
抜けるような青空が広がっていた。
昨日一日中降り続いていた雨が、嘘のようであった。
絶望的な現状を忘れそうになるほど、爽やかな空が広がっていた。
真司は、貯めておいた湧水を呷る。早めに水源を見つけられたのは、不幸中の幸いかもしれない。
若葉は、浜辺で魚を干していた。保存食を確保することが、2人にとっての急務だった。
この無人島に2人が漂着して、3週間が経った。助けは、来ない。
食糧と飲み水は安定して確保できるようにはなったが、冬になれば、どうなるかわからない。夏季の内に無人島を自力で脱出するのが2人が立てた目標だが、達成できる見込みは無い。
2人は洞穴から北方面へ向かう。その辺りに、筏を作るのに向いた、太い木が群生している。真司も若葉も快調に歩を進める。若葉は、漂着してすぐの頃は塞ぎ込んでいたが、自力で脱出しようと2人で決めてからは、明るい表情も見せるようになってきた。
「見てあれ。あの木良さそうじゃない?」
若葉がトーンの高い声で言う。小高い丘の上に、太い木が倒れていた。おそらく強風で倒れたのだろう。2人はそこまで登る。
「ん? なんだこれ?」
丘の上で、真司は箱を見つけた。Awazon超お急ぎ便。そう書いてある。やっと、出てきた。
思えば、水を貯めるのにも、木の実を食べるのにも苦労した。魚なんて、たまたま網が流れ着いて来なかったら、漁れなかっただろう。そんな非常事態に、Awazon超お急ぎ便は、手を差し伸べてくれなかった。
真司は、破るように箱を開ける。図鑑か、衣服か。刃物が入ってくれるとありがたい。真司は、祈った。中から、雑誌が出てきた。
「ぢゃらん鹿児島8月号……?」
観光雑誌だった。真司は落胆した。若葉の表情が曇る。何故、このタイミングなのか。
「うわっ」
地面が、崩れた。真司と若葉は、丘の上から転げ落ちる。あちこちを打ちながら、裾まで転がった。
真司はおもむろに起き上がる。あちこちに擦り傷はあるが、大きな怪我は無かった。若葉も立ち上がる。彼女も擦り傷程度で済んだようだ。
「あんたら何やってんだあ?」
麦わら帽をかぶった老人が立っていた。眼鏡ごしに怪訝な表情が窺える。真司は、人と会えた喜びより、戸惑いが勝っていた。老人の背後に、街並みが広がっていた。
真司の、ぢゃらんを握る力が強くなる。ここは無人島でもなんでもなかった。
「何しに来たんだこんなとこに」
老人は不審者を見るような目で2人を見ていた。眉間の皺がみるみる深くなる。
真司はぢゃらん鹿児島8月号を胸元で強く抱きしめた。
「僕たち、観光に来ました!」




