手料理クライシス2
『この間はごめんなさい。よかったら、また家にご飯を食べに来ませんか』
彩奈からLINEが来たのは、昨日のことであった。
敬太はすぐさま『行く!』と返信した。
敬太の足取りは軽かった。目的地までは徒歩15分と、それなりに歩くことになるが、少しも苦にならなかった。
以前、彩奈の家に招かれてから、1ヶ月が経っていた。
あのときは、何故か彩奈が泣き出して、そのままお開きになってしまった。
何か傷つけることを言ってしまったのかとひたすらに謝ったが、ただ「敬太くんのせいじゃないの」とくり返すばかりであった。それからずっと、敬太の気分は沈んでいた。
ともあれ、挽回する機会は得た。今日の手土産は、共通の友人にリサーチした、彩奈の好きなシードルだ。
呼び鈴を鳴らす。少しして、彩奈が扉から出てきた。敬太の胸は高鳴る。
「よーっす」
「こんばんは。来てくれてありがとう」
努めて、先日のことは触れないようにした。
部屋からは、チーズだろうか、何かの焼ける匂いがした。敬太は胸に手を当てた。前回みたいに、緊張しすぎて何も覚えていないことは避けたい。
テーブルの上には、鶏のから揚げ、ポテトサラダ、海老のグラタンが乗っていた。
「簡単なものでごめんなさい」
「いやいやそんな、こんなに手の込んだ料理をありがとう。この間作ってくれたやつも美味しかったし」
彩奈は俯いた。敬太はどきりとした。何かまた余計なことを言ってしまったのだろうか。
「わたし、敬太くんに謝らなくちゃいけないことがあるの」
彩奈は潤んだ目で言った。
「この間来てくれた時に出した料理。実は全部Awazon超お急ぎ便で届けてもらったものだったの。私が作ったっていうのは全部嘘だったの」
彩奈の目から、涙が一筋線を引いた。
「でも今日は頑張って練習して作りました。正真正銘、私の手作りです。できれば、食べていって欲しいです」
敬太は息を吸って、吐いた。まっすぐに、彩奈を見つめる。
「俺も、嘘をついてたんだ」
「え?」
「この前の料理、今まで食べたことないくらい美味しいって言ったんだけど……」
敬太は、細く息を吐いた。
「彩奈ちゃんと食事できることが嬉しすぎて、味全然わからなかったんだ」
敬太は、自分の耳が赤くなる音を聞いた。
彩奈は顔を赤らめた。
テーブルの上に、箱が出現していた。
Awazon超お急ぎ便から、3本の薔薇が届いていた。




