NO PARTNER, NO SHIP.
船が、傾き始めていた。
何かおかしい。青野がそう気がついた時には、船長は救命ボートで海上に出ていた。
「船長! 船長ッッッ!」
青野は必死に叫んだ。この船で唯一の救命ボートだ。船長は反応をしなかった。聞こえていないのか、聞こえていない振りをしているのか。
眼下に、津軽海峡が広がっていた。春先の海だ。落ちたら10分も保たないだろう。青野は船の壁を力任せに蹴った。
「青野さーん」
塚本が船室から出てきた。普段通りの、感情に乏しい表情をしていた。
「船底の穴、埋めておきました」
「はあ?」
思わず、間抜けな声が出た。塚本の手には、Awazon超お急ぎ便の空箱があった。
「Awazonってなんでもあるのな」
「応急処置程度ではあるんすけど、港までは大丈夫だと思います」
「てか、超お急ぎ便って、北海道本島の陸地限定じゃなかったか?」
「なんか今日から『海と空を含めた日本全国の領土』が対象になるらしいすよ? tiktakで見ました」
2人が操舵室に行くと「君たちの死は無駄にしない」と殴り書きされた手紙があった。青野はそれを破り捨てた。
「青野さん、どうします?」
「とりあえず船長に近づいて」
船は大きなダメージを受けていたようだが、速度は落ちていなかった。救命ボートに、あっという間に追いつく。
「船長!」
青野は甲板から声をかけた。船長は唖然としていた。
「船長、塚本が船底を応急処置してくれました」
「お、おお……そ、それは良かった! じゃあ俺も乗せ」
「先に帰港しますね。良い船の旅を」
船は救命ボートの手前で旋回した。大量の水飛沫が船長の体を濡らした。
船は2時間後に苫小牧港に到着した。
船長が苫小牧港に到着したのは、さらに20時間後であった。




