叙述ターメリック
インドカレー屋を出た浩輔は、素早く自転車に跨った。ペダルを、強く踏み込んで加速する。
浩輔は目抜き通りを、疾風のように突き抜けていく。背中には、インドカレー屋で受け取った配達物を乗せていた。
荷物がナンだけで良かったと、浩輔は思う。汁気のある物を運ぶとなると、スピードは出せない。
配達先の住所には、見覚えがあった。何回か運びに行ったことがある。あまり顔を合わせたいタイプの人間ではない。
路地裏に入る。蜘蛛の巣のように入り組んだ裏道を、すり抜けるように走っていく。
浩輔は配達にあえて自転車を使っている。小道だらけのこの街だと、バイクを使うよりこちらの方が速い。
大通りに抜ける。配達先のタワーマンションは目の前だ。
エレベーターを登る。扉まで駆け足して、呼び鈴を鳴らす。この時点で、配達開始から3分弱だ。
あからさまに不機嫌な顔の住人が出てきた。浩輔は不快感が顔に出そうになるのを我慢する。
「ちょっと、遅いわよ! Awazon超お急ぎ便でカレーが来たのに、ナンが届くまで5分もかかったら意味ないじゃない! カレー冷めちゃったわよ!」
住人はひったくるようにナンを取ると、料金を押し付けるように渡してきた。扉が乱暴に閉められる。浩輔は料金を確認する。差額は無い。
浩輔は、浅くため息をつく。
次の依頼が来たので、そちらに向かう準備をした。
エレベーターで1階に向かう途中、浩輔ははっとした。
——この配達、おかしくないか?




