Now here
Awazon超お急ぎ便の箱が出現した。
弘果がそれに気がつくのと、手からコーヒーカップが滑り落ちるタイミングは、ほとんど同時であった。カップはなすすべなく床に叩きつけられる。砕ける音が響き渡る。
破片が散乱していた。絨毯に茶色い染みが野放図に広がっていく。
「たたた、大変っ! 早く片付けなくちゃ染みが……」
弘果はAwazon超お急ぎ便の箱に手を伸ばす。その手を掴まれた。筋肉質力強い腕がそこにあった。
雅人が、そこにいた。テレワーク会議中だったはずだ。
「大丈夫か? 手を切ってないか?」
「う、うん。私は大丈夫」
雅人は、軍手をはくとコーヒーカップの破片を、速やかに拾い上げていく。結婚する前に雅人が買ってくれた、お揃いのコーヒーカップだ。
「ごめんなさい……大事なものなのに……」
「弘果に怪我が無くて良かった」
雅人は短く言った。
大きな破片をあらかた片付けると、乾いた雑巾で絨毯を拭いた。丁寧に押し当てて、コーヒーを吸わせる。
次に水を含ませて固く絞った雑巾で拭く。大分、絨毯についた色は薄くなっていた。
雅人は汚れの箇所に中性洗剤を希釈した水を垂らす。そこを乾いた雑巾で軽く叩くように拭いた。汚れ周辺の水分も拭き取った。染みは、もう見えなくなっていた。
「掃除機はお願いして良いか?」
「うん、やっておく。ありがとね」
弘果と雅人は抱き合った。
部屋の片隅。開封されなかったAwazon超お急ぎ便が、当て所無く佇んでいた。




