最終話「悲歌」41
鋼音の月経の再開がなにを意味するのか、ヒカリにはわかる。
記憶は戻っている。鋼音は過去の自分に潰されることがなかったのだ。
そして、鋼音が背負っていた、両親への呵責。鋼音自身が答えを出した。前を向く答えを。
ヒカリはすぐに三階の私室に駆け上がっていく。
「鋼音──」
鋼音はヒカリの顔を見るなり、ヒカリさぁん、と泣きそうだ。両太ももに経血が伝って、タオルで股間を押さえているところである。どうも経血量が多そうだ。
「私と瑠璃さん、どっちのナプキンが合うかしら」
比べるとヒカリのほうが吸収量が多いし、羽根もある。鋼音の下半身を裸にすると、お湯で絞ったタオルで経血を拭き取り、ヒカリのナプキンをあてる。
部屋干ししてあった鋼音の下着を履かせて、
「今夜はお赤飯を炊くわよ」
ニコニコしてヒカリは鋼音の両肩を抱く。
「初潮じゃないのに……でも、わかるわ」
あかりも、おめでたいからあたしもお相伴するわ、と鋼音の頭をなででいる。
「瑠璃さんの初潮の日、菜奈さんはお赤飯炊いたかしら」
「お赤飯でした。そのときは、なんでお祭りみたいにするのかわかりませんでしたが」
「人の体の仕組みがわかっていなかった時代でも、妊娠できる、つまり嫁いだ先の家を継いでくれる子どもを産めるようになるのは月のものがはじまったら、と認識されていたのよね。次の世代を残せる体に成長したことは、家にとっては慶事だから、お赤飯は当然だったわけ」
「なんだ、それじゃ家としてのお祝いごとなんですか」
「そう。初潮のお赤飯は、純粋に娘の成長を祝って、という趣旨ではないのだけど、まあ、私の嬉しい気持ちも察してちょうだいな」
そして、そうだ、とポンと手を打つ。
「せっかくの機会だから、お赤飯の炊き方をおしえるわ。本式は意外に難しいのよ。炊飯ジャーではなく蒸籠や蒸し器を使うから」
「え。ママはジャーで炊いてましたけど」
説明書におこわや赤飯の炊き方が載っていたのを覚えている。だから赤飯は炊飯ジャーで炊くものだと思い込んでいた瑠璃なのだ。
「お赤飯の素が売ってるから、ジャーでも炊けはするけどね」
まずは小豆を茹でるところからはじめる赤飯の作り方。そのレクチャーを受けると、
「ヒカリさんの話を聞いたから、手抜きされた気分です」
瑠璃は本気ではないお冠を、母のいる家の方向へ向けてみる。今の世、ほとんどの母親はそんなものだろう、と思えば怒るほどのことではない。ヒカリは瑠璃の作り怒りに、成長を見た思いだ。
「お赤飯にしてくれるだけマシじゃないの。うちなんかナポリタンスパゲティだったわよ。一応赤色だから当時はそういうものだと思ったけど、あとで知ったら、何の関係もないんだから。ただあたしの好きなものを作っただけで」
あかりの家も、とりあえず祝いはしたらしい。だがてんで方向違いのメニューに、瑠璃はおかしくてたまらない。
「娘の好物、いいじゃないですか。そうだ、今晩おかずは手ごねバンバーグにしませんか。鋼音の大好物! 私が作りますよ。空気の抜き方もバッチリ勉強しましたもん」
「やった! 瑠璃の初挑戦、楽しみだなあ」
そのとき、鋼音がなにげなく聞かせた鼻歌が、ヒカリとあかりをハッとさせる。
あの唱歌のメロディなのである。
「あんた、それ、赤とんぼの歌よね」
はい、と返事をする鋼音だが、ヒカリたちがなにを驚いているのかわからない。
「総本山にいくことになったとき、お母さんが聞かせてくれたのを思い出して、つい口ずさんだんですけど」
赤とんぼの歌詞に込められた、お里の便りも絶え果てた、の意味。鋼音の母もわかっていたのだ。
瑠璃の作った手ごねハンバーグは上出来だった。
リビングで食卓を囲むヒカリたちは、おのおの初潮の思い出を鋼音に聞かせる。
「あたしは背が高かったからかな、四年生の夏休み前には初潮きたわよ」
四月生まれのあかりだから、学年で早いのは背丈だけのことではないだろう。
「私は五年生になったその日だったわ。占術の教授ばかりで事前教育されてなかったから、びっくりしたわよ。学校の性教育もまだだったし」
ヒカリも小学生のときは身長が高い方だったらしい。中学に上がって伸びが止まったと苦笑している。
「私も五年生になってすぐでした。でも、ママから生理のことは聞いてましたから、あ、私にもきたか、って感じでした。それよりもその後の毛の方が驚きでした。なんだこれ!て」
瑠璃も、ふたりに合わせて軽い乗りで話すのだ。だが初潮の思い出話は、鋼音から過去のことを聞き出すつかみだと、瑠璃にはわかっている。
「鋼音は一番最初、覚えてる?」
「……」
鋼音は黙ってしまう。それを話すなら、蘇った記憶から話さなければならない、そしてヒカリがそれを話させようとしている。
「鋼音。麗華先生や児童相談所、そして私が聞いた話はすべて忘れるわ。本当のことを話しなさい。どんなことでも、悪いことなんかない。恥ずかしいことなんかない。みんな、あんたのありのままが大好きなのよ」
「ヒカリさん……」
「鋼音。ここには瑠璃さんがいる。あかりがいる。そして、私もいる。あんたは、これからもずっと私たちと一緒よ。もう、なにも繕わなくていい。思い出していたこと、ぜんぶ話しなさい」
ぜんぶ見通されていた。そして欺かれていたことを承知で、ヒカリは包んでくれる。
「……ヒカリさんは、お母さんと同じです」
ヒカリはお母さん。瑠璃は双子の姉。そんな絆を、偽りの姿ではなくなった鋼音はしっかりとつかんだ。
「小学校に入学してすぐ、うちはすごく貧乏でした。ごはんは一日一回で、お米と塩とお水だけでした。お母さんは二日に一回でした。私は給食があったから、おかずを隠してうちに持ち帰って、みんなで分けました」
「あんたのうちがそんなになった理由は、概ね調べがついているわ。職員室でお金を盗んだのは──」
「私が自分でやりました。お金があれば、食べ物が買えます」
「お義父さんとお母さんから言われてやったわけではないの?」
鋼音はうなずく。
鋼音は盗んだお金をすべて親に渡していたのではなかった。こんなことが長くつづけられるはずがないと、子どもごころにわかっていたのだ。なるべく長く食いつなげるよう、鋼音は手元でお金や金品を管理していたのである。少しずつの金額を親に渡していたという。現金以外も盗んだのも、子どもの仕業らしくないように見せかけられると考えたのだ。
発覚したとき、金品すべてと現金の半分ほどが被害者に返されたのはそれが理由だったのだ。
そして、鋼音は学校に通うことをしないようになった。当時の担任は事情を詳しく聞かないまでも、一家が借金で貧困にあえいでいることは、家庭訪問でわかったらしい。
子どもが窃盗を働いた事実をうやむやにするために、発達障害の可能性を偽造してくれたのだ。
「どうして隠すんですか? 子どものしたことでしょう。叱って終わりにできるじゃないですか」
瑠璃はいってすぐに気づく。大人の指示と決めつける人はいるだろうし、鋼音の自発的行為と物理的な証明はできない。
「総本山を破門になる可能性も十分あったわ」
「あり得たわねえ。碧泉院流に限らず、占術界はそういうとこ厳しいから」
ヒカリとあかりがそう言うのなら、そうなのであろう。
借金もいつまでもあったわけではない。ある時期から生活は楽になったが、一家にとって一大事が起こった。両親が破門を受けたのである。
「破門は六年前……そこでまた生活は厳しくなった。麗華先生にはお義父さんから性的な扱いをされたと話しているわね。それが破門の理由だけど、事実なの?」
「本当です」
「麗華先生は、女性の性経験の有無を見極められるわ。私はそこまでの目はないのだけど、先生の見立ては確か。先生はあんたを見て、事実と判断して両親とも破門したのね。なんでお義父さんとそうなったのかしら?」
「八歳くらいのときに、私、見ちゃったんです。お義父さんとお母さんが、エッチなことしているところ」
「ああ、あるあるだわ」
そうひとこと漏らすのはあかりだ。子どもはぐっすり寝ていると油断して、夫婦の性行為を目撃されるというのは、ままあることだ。
「お母さん、すごく喜んでいたんです。ごはんが食べられなくて、可哀想だと思っていたけど、すごく幸せそうだったです」
「汚いものに思われなかったのは良かったわね」
「何回か見て、悪いことじゃないとわかったので、私、その最中にお義父さんとお母さんに声をかけました」
声をかけたのは、子どもだからこその、とてつもない不安、不安が現実になったときの恐怖を感じたからだと、ヒカリは察する。ここはあとでもう一度話してみることにして、ヒカリはつづける。
「あんたの話では、はじめは体を触ってもらうだけで、性行為はかなりあとのことだったけど、実際は違うのね?」
「麗華先生がそういうことにしてくれました」
「先生が?」
ヒカリはそうかと察しがつく。性行為の同意年齢は十三歳だ。その年齢未満で自発的なら、行政は鋼音を施設管理下に置いてしまう。麗華も鋼音を守ろうとしたのだ。
「お義父さん、親占教会をクビになって、一所懸命働いていました。ごはんも三回食べられるようになりました。でもまた、一日一回に減りました。お義父さんの働き先が、つぶれてしまったんです」
「その日暮らしだったのは想像つくけど、そのあと上向いたことがあったはずよ」
「四年くらい前、うちに急にお金ができて、家も広いところに引っ越しました。私は外に出るといろいろバレてしまうと思って、引っ越したところでも家にずっといました」
ヒカリが以前に訪れてみたのは、その引っ越したアパートだ。窓のある部屋に閉じ込められながら助けを呼ばなかった理由を考えていたが、そもそも軟禁などされていなかったのだ。
広い間取りのアパートに引っ越し、食事も間食まで取れるようになったという。家電製品や衣服、寝具などもそのとき新品に取り替えた。だが一時的に得たお金を知ると、貧困を経験した反動で不要な豊かさを求めたくなってしまう。
だから再び生活が落ちたとき、維持ができなくなるのだ。鋼音一家は家電製品を売り払い、かわりに十数年前の古いものを引き取り値のような価格で買った。百合と美歌がチラリとのぞいた先にあった古い家電製品は、そういうことだったのだ。
鋼音はお義父さんとお母さんにごはんを食べさせたい、その一心で犯した盗みから、悪い流れが切れずにつづいていると自分を責めていた。六歳のときから、ずっと責めつづけていたのだ。
「私がした盗みのせいで、お義父さんは……。私が、お母さんと同じことをしてくれなきゃ嫌だと泣いて騒いだから、両親は総本山を追い出された……。ぜんぶ私のせいだったんです」
「もとはお義父さんが選挙出馬の話に騙されたからなのに、あんたがそこまで背負うなんて」
ヒカリは、それが子どもというものなんだ、と負の連鎖に暗然としてしまうのだ。
一年半前、鋼音の継父はまたも仕事を失った。折しも現場仕事の少ない情勢に、いよいよ切羽詰まったのが、鋼音にもわかるのだ。
「お義父さん、私、大久保とかで立ってみる。一日ひとり取れるだけで、食べていけるよ」
「立ち仕事は警察も警戒している。警察に補導されてしまえば、今までがすべて捜査で明らかになってしまう。いけない」
学校での窃盗、親子間での性行為。犠牲を払ってまで隠していたものが明るみになってしまう。
鋼音が考えついたのは、同じとき、同じ場所でまとめて客を相手する輪姦である。知る人ぞ知る、というやり方だ。一回、十人ほど相手すればそれだけでひと月は暮らせる。
鋼音は新宿の一部屋で、不特定多数を相手した。
予想していた以上に、辛かった。射精まで時間をかける客もいたし、肛門をいじってくる男もいた。
中には鋼音の顔を平手で何度も叩くサド系まで。
鋼音は当時十三歳。少しぽっちゃりな体形のために、触り甲斐のある体つきになっており、その年齢の女の子らしい陰部や脇の発毛もあり、客の男たちの満足度は高かった。
ひとりが射精すれば清拭して次。十人を相手し切るまで、四時間かかった。それでも鋼音は辛抱した。
客がみな帰ると、放心状態になるほどすり減った。
三回目の輪姦で、鋼音に異変が起こる。
継父が迎えにきたとき、鋼音は正気ではなかったのだ。
「そこの話は、前に聞いたとおりのことが事実なのね。何があったのか、思い出せてないの?」
「わからないんです。そのときから、ずっと、記憶が本当の記憶でなくなっていたんです。金谷さんのところで本当のことを思い出しても、そこだけはわからないんです」
やはり金谷憲斗に手を添えられたこと──輪姦以来はじめて男性の体温を感じたことが、鋼音の記憶の封印を剥がしたのだ。輪姦からさかのぼり、窃盗まで思い出せたのだ。
ヒカリは、決意した。巻き戻しをかけるのだ。
占術士は占術士を観ることはできない、と改めてその防御能力を口にしてから、こういう。
「私の巻き戻しは占術士には通じない。でも、あんたの忘却さえ引きずり出す強力な巻き戻しなら、占術士さえも巻き戻す」
「ヒカリ、どういうこと?」
あかりにも、ヒカリの考えがわからない。鋼音の力を鋼音本人にどうかけるのか。
「鋼音、私に巻き戻しをかけなさい。私は全力であんたに跳ね返すわ。跳ね返せたら、あんたの強力な巻き戻しがあんたにかかる。思い出せない最後のピースが、あんたの前にあらわれる」
瑠璃は巻き戻しの現場を見るのははじめてだ。なにが起こるのか、息も忘れて見守っている。
鋼音は、ヒカリさん、私の目を見てください、と声をかけ、ヒカリはそのとおり鋼音の瞳を見つめる。黒い瞳はあっという間に広がって闇になり、ヒカリは包まれてしまう。その闇は、あまりにも深い。
「こんな、強い力なんて──」
ヒカリはもう集中力を極限まで高めるしかない。
ヒカリの内からの精神力も、ひけをとらない。
耐えるのよ、ヒカリは自分に言い聞かせる。
──鋼音、出てきなさい。
深い闇を分けるように、スッと、鋼音の姿が見える。今の鋼音の姿とさほど変わらない。一年半前の鋼音なのだ。
鋼音の顔がはっきり見えたとき、瞳から瞳へ、渾身の眼光をヒカリは送るのだ。
──鋼音っ。
鋼音は闇の中にいた。その闇も、一年半前の、新宿の一室に変わっている。今は輪姦のとき。自分は裸で横たわっている。
最後のひとり。鋼音はこれで今日は終わると歯を食いしばると。
「鋼音──」
男は覆いかぶさった男は、そう囁く。
そして小さな声で、これを飲みなさい、と液体を取り込んだスポイトを手にしている。
「え……?」
「これでしばらくは、痴呆のようになる。そのあと数か月我慢しなさい。幸せにな」
ほかの買春客はみんないるが、他人の射精など見る気にもならないから、こちらのほうなど目を向けていない。
男は男性器を挿入するふりをして、鋼音の口へスポイトの中を流し込む。
数分後、鋼音は気が触れたような笑い声をあげると、よだれを流しながら裸で歩き回った。
「あなたは、誰?」
鋼音は記憶を巡らせても、覚えのない顔だ。
短い時間の巻き戻しだった。
ヒカリの跳ね返しは、ピンポイントで鋼音の記憶を引きずり出したのだ。
「鋼音。その男の人は多分、あんたの実のお父さんよ。ずっとかどうかはわからないけど、少なくともそのときはあんたのことを見守っていたんだわ」
「実のお父さん……」
鋼音は、いるとわかっていながら、実の父親のことを考えたことなどなかった。それだけ義父のことを慕っていたのだ。
「実のお父さんは総本山の占術士の誰かだと、あんたが生まれたときから噂になっていたそうよ。お母さんと結婚しなかった理由はわからないけど、娘のあんたが不特定多数の男の人と関わりを持つことに心を痛めていた……」
もしや鋼音には性経験があるのでは、と察していた瑠璃も、八歳からのものと知り、どう気持ちをあらわしていいのかわからない。
鋼音の気持ちへの理解と、実際におこなわれたことへの怒り。そんな瑠璃の気持ちもヒカリにはわかるから、優しく、落ち着いた声を聞かせるのだ。
「外との人のつながりが一切なく、両親だけが拠りどころのすべて。その両親が自分に隠れてしていたことがあれば、自分も同じ輪に入らなければ、子どもでも、いえ、子どもだからひとりぼっちと同じで死ぬほど不安になる、その恐怖の気持ち。鋼音のお義父さんお母さんも、察したのだと思うのよ」
「ヒカリさん、鋼音の両親に怒ってないんですね」
「怒ってるわよ。性は大事なものだもの。でも、考えてしまうのよ」
ヒカリの目は鋼音の方に向けられている。鋼音はずっとうつむいているが、向けているその目が、瑠璃にはあたたかい色に見えるのだ。同じ目を、今度は瑠璃にも向ける。
「たとえ義理でも父親なんだから、精神的には近親相姦よ。倫理的な責任は大きいわ。鋼音に輪姦を発想させたのも、元はそれがあったからだと思うし、鋼音が性行為というものを知らなかったら、記憶を封印される展開にはならなかったと思うわ」
「そして、ヒカリのところへくることもなかった。瑠璃さんと親友になることも──」
あかりのしんみりとしたひとことは、みんなの気持ちを代弁している。
「結果論だけど、これが人の人生、そして人の縁よ。過程よりも、鋼音が今ここにいてくれる天の配剤を感謝しているわ」
ヒカリは鋼音の手を取り、そのあたたかさを感じる。鋼音を預けられた日のことが思い出されてくる。鋼音はくるべくして自分のところにきた。ヒカリにはそう思えてならない。
「事実が警察の知れるところとなったら、鋼音は医療少年院行きだったわよ。だから鋼音の両親は、麗華先生が人を使って調べたときに、親からの一方的猥褻と偽ったんだわ。鋼音も親の気持ちがわかっていて、話を合わせていた。でもその辻褄合わせも、薬のせいで真実と一緒に記憶からいっとき消えていた……」
ようやく、鋼音の真実を知ることができた。みんなが、そして鋼音自身も、過去と向き合えた。鋼音の精神を壊すことなく、今までヒカリが鋼音と一緒に積み上げてきたものは、崩れ去ることがなかった。ヒカリの両目には、涙が浮かんでいる。
「残った謎は、新宿で鋼音に薬を飲ませた、実の父親と思われる人物。それと姿を消した鋼音の両親が今どこでなにをしているのか、ね」
そうまとめたあかりも嬉しい。ちょっとお酒出しましょうよ、とそそくさと冷蔵庫を開けにいく。
もう鋼音はうつむくのをやめて、きっぱりと心に決めたことを口にする。
「お義父さんとお母さん、それにお父さんも探します。そしてこう言います。私は、親から離れて、ヒカリさんの元で人生を作っていく、って」
鋼音の瞳が強い意志に満ちている。
ヒカリの胸は感動でいっぱいだ。瑠璃も涙がこぼれてくる。
「もう、これは乾杯するしかないでしょう!」
瑠璃の音頭でそれぞれのグラスを合わせたとき──。
ヒカリは背中に、なぜか強い寒気を感じる。
なに?と振り向いた瞬間──ヒカリは、真後ろに、立ち姿のホナミが一瞬見えた気がしたのだった。




