第6話 隣国の不穏な動き
「おばあさま、ただいま帰りました!俺、地下都市に行ってきたよ!地底族の友達もできた!」
談話室で本を読んでいたばあちゃんを見つけると、俺は早く地下都市のことを伝えたくて部屋に飛び込んでいった。
「ルキ、お帰り……って、ルキ!土だらけで顔も体も真っ黒じゃ!話より、風呂が先じゃ!」
風呂から上がった俺は、夕食を食べながら、じいちゃんとばあちゃんに興奮気味に地下都市へ魔道具を設置に行ってきたことを話した。
「「地下都市に魔道具を設置してきた?」」
「うん、工事の振動が地表に漏れないようにする魔道具と、地盤沈下を防ぐための魔道具……とか色々設置してきた」
「地底族が、よくお前を地下に招いたな……かなり慎重な種族だったはずだが……」
「おじいさまが地底族に救ってもらった話をしたら、族長たちが覚えてて……それで警戒を解いてくれたみたい」
「そうか……儂もあの時の御礼をしに行きたいが……」
俺とじいちゃんの話をうずうずしながら聞いていたばあちゃんが、じいちゃんの話を遮って叫んだ。
「ハン!我も行きたい!」
(ばあちゃん……)
俺は魔道通信機でモーリーに連絡を取ると、じいちゃんたちの来訪を快く受け入れてくれた。
そして俺たちが族長に案内されて地下都市に到着すると、じいちゃんを昔に助けたという地底族の警備隊長が、エレベーターホールで出迎えてくれていた。
「貴方は……!」
じいちゃんは、昔の恩人に再会出来たと目を潤ませながら喜び、族長たちと昔話に花を咲かせた。
そしてばあちゃんは、鉱物研究所の所長をしているという族長夫人と話が合ったらしく、夫人から調合を教わった『鉱物茶』を気に入って、辺境伯城でも飲むようになっていた。
そんなこんなで地底族との交流も始まり、地震の心配も無くなったところで、俺は領地の環境整備に取り組み始めた。
まずは、領民の生活に欠かせない上下水道と道路整備から始めた。
そして、前から気になっていたものがある。
『トイレ』だ……。
浄水施設を領地の各町村に設置して『ミネラルウォーター』として売れるのではないかというぐらい、おいしい水を作る設備を整えた。
そして石畳であったところに『アスファルト』を敷いた。馬車道は以前より格段に走りやすくなり、雨の日の足場の悪さが解消された。
「うわぁ、水がおいしい!」
「こんなすごい水で洗濯するのは、もったいないよ!あたしゃ、川の水で洗濯してくるよ!」
「何だよこの道……。馬車の車輪の音がしなくて、揺れない……」
「温水洗浄便座だと!誰だよ、こんなもん考えたのは!俺の尻が治っちまったよ!」
領民たちは、大いに喜んでくれたようだった。
この設備を作る資金は、無害だと思われる魔道具の特許を片っ端から取って、全ての収益を領地の環境改善に注ぎ込んだ。
(みんなが笑ってくれてる。俺……この領地の役に立ってるんだ)
そんな中、地底族のモーリーから魔道通信機に連絡が入った。
「ルキリア、今、話せるか?」
「大丈夫だけど、急にどうしたの?」
「ちょっと気掛かりなことがあってさ……」
「何があったの?」
「数日前から、山の向こう側の国が、お前の領地へ向かってブルーマウンテンを掘り進めている。それも凄いスピードで1日で約1キロぐらい掘り進んでいってるよ」
「……は?」
「半年以内に、そっちに抜ける」
「1日で約1キロ……」
思考が一瞬止まった。
「……わかった。モーリー、情報をありがとう。すぐに対策を練るよ」
俺は急いで、このことをじいちゃんに伝えようと執務室へ走った。
(この場所に、俺の居場所が出来たんだ!……この場所を壊すようなことは絶対にさせない!)
ドアをノックして執務室に入ると、見たことのない顔の諜報員がその場から姿を消すところで、一瞬だけ目が合った。
「おじいさま、今の人は?」
「隣国にいる諜報員だ。今、隣国が不審な動きをしていると報告を受けていたところだ」
「隣国?俺も今、地底族のモーリーから隣国について気掛かりなことがあるって連絡を受けたんです」
「モーリーは何と言っておった?」
「エビータ国がうちの領地に向かってトンネル……穴を掘ってるって」
「穴……?トンネルとは何だ?」
「山に穴を開けて両側を道で繋いだものだよ。それも、ものすごいスピードで掘ってる。1日で約1キロぐらい進んでるって言ってた」
じいちゃんは腕を組んで唸った。
「おじいさま、あの山にトンネルを作るなんて発想は、前世持ちにしか出来ないと思う」
「前世持ちか……」
じいちゃんは大きくため息をついた後、ソファの背もたれに体を預けて天井を見上げた。
「これは……戦さが始まるかもしれんな」
じいちゃんは、低く呟いた。
「実はな……10日前、エビータ国王が急死した」
(えっ……)
「第5王子が王位を継承した。だが、第7王子を除いて、他の王子たちは全員行方不明らしい」
(戦争が始まる……?)
「たしか……隣国のエビータ国は、ガーラ国の半分ぐらいの国土ですよね」
「あぁ、国土だけを見ればそれほど脅威ではないように思われるが、財政の大半を軍事に注ぎ込んで、ほとんどの国民に徴兵を強いているらしい」
(新国王が、うちの領地を狙っているのか?)
「エビータ国とガーラ国の国境は、うちの領としか接していない。隣接している聖エリス国には、国を覆う結界があるからな……。それで、うちの領から攻めていこうと考えたのかもしれん。それにこの領は孤立しているから攻め落とした後も守りやすい……」
「聖エリス国の結界?」
「あぁ、聖エリス国は、聖女たちが国全体に結界を張っている」
(聖女たちの魔力だけで、結界を維持するって……相当な仕事のはずだ……)
「んっ?……おじいさま、隣国は何で海側から攻める作戦を取らないのかな?」
「うちの海兵団は大陸一の装備を備えている。フルーラ辺境伯領を海側から攻め込もうとは、誰も思わんだろう。それに海兵団長のレオは強いぞ。今度、会わせてやる」
「海兵団!」
じいちゃんは、ポケットに入れていた懐中時計をチラッと見ると、ソファから立ち上がった。
「儂はこの件を王都に報告に行ってくる。ルキリアは、隣国の対応策を練っておけ」
「報告って、ガーラ国王?」
「あぁ、そういえばこの国の王族について詳しく話したことはなかったな。この国の王族は竜人の血を引いている」
「竜人……って魔族」
「そうだ。だから国王も王弟も魔力量が半端なくでかい。あっ、先代が魔国について調べていたから、書庫にかなりの本があるはずだ」
(先代って、じいちゃんを森で拾った人?何で魔国のことを調べていたんだろう……)
俺はすぐに書庫に行って文献を読み漁りたかったが、まずは隣国の侵攻を防ぐ作戦を立てようとソファから立ち上がった。
そして俺は、じいちゃんがその場から転移するのを見送ると、急いで工房に走ろうとした時——
頭の中にまたあの声が響いた。
『使うか……?お前のその力を……』
「えっ……。い、いらない!」
俺は、あの声を振り切るように、部屋を走り出した。




