第5話 地底人の友達
ブルーマウンテンの山中から辺境伯城に戻った後、俺はじいちゃんから地底族について話を聞いた。
「えっ!地底族って、魔族!」
「あぁ。魔族は人族の数倍の魔力量があると言われている。地底族も、昔は魔王の臣下として、ガーラ国の北にある魔の森に住んでいたと聞いている」
「魔王?魔の森って……ガーラ国の北にある森だよね?」
「そうだ。あの森は瘴気が強くて、人が入ることはできないがな……」
「瘴気……。あっ、魔族は人族に敵意は無いの?」
「それはわからんが、儂は若い頃、地底族に助けられたことがある。ブルーマウンテンの頂上付近で修行をしていた時に、崖から落ちて死にかけていたところを助けられた……」
(地底族は、じいちゃんの命の恩人……)
「おじいさま、獣人って何ですか?」
「獣人……隣国のことか。エビータ国は、大昔に獣人が建国したんだ。それに、あの山には獣化した者たちが住んでいるという噂もあってな……」
「……獣化!えっ、知能と魔力を持った獣人が獣化したら、魔獣より強いんじゃないですか?縄張り争いって……もしかして……」
「あぁ、儂もそう考えた。まだ推測に過ぎんが……」
ん~、調べるのに時間が掛かりそうだな……。
地底族の件を片付けてから、改めてスタンピードについて調べよう。
それから俺は、地震対策の魔道具を作るために、1週間ほど自分の工房に閉じこもった。
「出来た……」
俺は、『縁側』にいた祖父母のところに顔を出した。
「ちょっと地底族のところに行ってくるね!」
そして護衛のルーピンと共にその場から転移した。
ルーピンは、父上が亡くなった後から俺の護衛を務めている。俺より五歳年上で、孤児院からチャールズに見出された天才だ。今では執事候補として、暗部の訓練も受けている。
「ルキ、何をしに行くんじゃ?まぁ、ルーピンが一緒なら心配はないが……」
「最近は、ルーピンを伴ってあちこちに出向いているようだが……」
「この間は、試作のレーザー砲なるものを試しに、増えてきた魔獣の数を減らしてくると言って、結界の外側に飛び出して行った……怖いもの知らずじゃ」
「怖いもの知らずか……。セイ、ルキリアは怖いもの知らずなのではない。生きることに執着がないだけだ。だからびっくりするような無茶をする。あの子は、死ぬことを恐れていない。この世界で生きる意味が、あの子にはまだ見出せていないんだろう……」
「そうじゃな……。今のあの子は、自分の役割があるからこの世界に繋がっているだけのように見えることがある。そこを自分の居場所としておるんじゃろなぁ……。道具を作っている時間だけが、頭の中を無に出来る時間なんじゃろ……。あの子は優しい子じゃからな。我は見守ってやりたいと思っている」
「そうだな……」
縁側でお茶を飲んでいた2人は、孫の後ろ姿を温かい目で見送った。
俺は山の中腹にある広場に到着すると、前回同様に拡声器を使って地底人を呼び出した。すると、あの時の2人と思われる黒い人影が現れた。
「今度は何でしょうか?また何かご迷惑をお掛けしたんでしょうか……」
「いえ……、地下工事の振動対策と、いつでも皆さんがここで慰霊祭を行えるように、暗幕と魔力漏洩防止の結界魔道具を作ってきたんです!」
「魔道具?」
「実は、僕の祖父が昔、地底族の方に窮地を救ってもらったそうなんです。それで、そのお礼も兼ねて地下都市で便利に使える魔道具を作ってきました」
「窮地を救った……ですか?」
族長補佐が族長の後ろから顔を出して、俺に尋ねた。
「あの……いつ頃、地底族がその方を助けたんでしょうか?」
「祖父の名前は、ハン・フルーラです。30年ぐらい前に、この山の頂上付近で崖から落ちて動けなくなっていたところを助けられたと言ってました」
「30年前……?あっ、族長、思い出しました!警備隊長が、人族の若者を背負って地下都市に連れてきたことがありましたよね!」
「あっ、そんなこともありましたね!人族なのに、魔力量の多い青年でした!そうでしたか……あの青年のお孫さんでしたか」
族長たちは、警戒心を解いてくれたのか、俺たちを地底人の住む地下へ案内してくれた。
地下への入口に入ると、明かりは全くない暗闇だった。
俺とルーピンは、マジックバッグから赤外線メガネを取り出して問題なく彼らについて地下へ降りて行った。そして階段を降りて、途中から地下に降りるエレベーターに乗り、3分ほど降下すると彼らが住む地下都市に着いた。
エレベーターを降りると、ホール正面の壁面に、男神を思わせる巨大な彫刻が刻まれていた。そして頭上には淡く発光する鉱石が埋め込まれ、街路のように整備された通路が四方へ伸びている。
(ここが地下都市!美しく計算されて作られてる……)
「これは……凄い……。もしかして、地底族って幻のアトランティス大陸に住んでた住人の末裔とか……?」
俺の独り言を聞き取った族長補佐は、パッと俺に振り向くと驚いた顔で口を開いた。
「あっ、良くご存じですね!そういう説もあるんですがね、実は……」
(なんかこの人、饒舌に語りだしたよ……)
「族長補佐〜」
「あっ、族長が呼んでる!その話は後でゆっくりしましょう」
ルキリアたちが広いホールの中央に連れられていくと、地下都市では珍しい訪問者に、ぞろぞろと地底人たちが集まってきた。
「みなさん、聞いてください。この山の麓に住む少年が、私たちのために魔道具を作ってきてくれました。これからは昼間でも、結界に守られた地上の広場で過ごせます。そして、この地下都市の地盤や壁も補強されるので、安心して暮らせるようになりますよ」
「「「「「おぉ~!」」」」」
族長は、すぐに魔道具設置のためのメンバーを選出してくれた。
俺は紹介された族長の孫のモーリーとすぐに仲良くなり、それぞれの魔道具を説明しながら、他の仲間たちと一緒に次々と魔道具を設置していった。
「ルキリア、この蓄魔力機の側にミスリルのアンテナを設置するのか?」
「そう!そのアンテナから放出される魔力で地下の地盤を支えるんだ」
「あっ、ルキリア、この部分……もうちょっとこうしたら……。おっ、さっきより魔力の流れがスムーズになったぜ」
(えっ……ちょっと待って!その回路の組み方……俺とは全く違う視点からの発想だ……)
「ルキリア、どうした?」
「な、なんでもないよ……」
全ての魔道具が設置し終わると、俺たちは族長に連れられて、食事が用意されている部屋に案内された。
「みなさん、今日は朝からご苦労様でしたね。ルキリア君のおかげでこの地下都市の安全性も上がって、子どもたちも地上の広場で遊べるようになりました。それでは……、ルキリア君に乾杯!」
「「「「「乾杯〜!」」」」」
「うわぁ!凄いご馳走だね!」
「うちの母さんが、張り切って作ったみたいだぜ」
俺たちは出された料理をキレイに平らげた後、地上の広場に張られた暗幕結界の中で寝転びながら、モーリーから地下都市について、色々な話を聞かせてもらった。
「モーリーは、何歳なの?」
「俺は、今15歳だ。地底族は180年くらい生きるから、まだ子供だけどな」
(えっ、人族なら……俺と同じぐらいかな?……俺、こんな風に、友達と笑える日が来るなんて思ってなかった……)
「俺、今日はすごく楽しかった……」
「ルキリア、またいつでも遊びに来いよ」
「うん!あっ、そうだ……」
俺はマジックバッグの中から、ゴソゴソと魔道通信機を取り出してモーリーに渡した。
「俺に連絡をとる時は、この魔道具を使って。俺も次に来る時は、この通信機で連絡するよ」
人族は魔信便(手紙を魔力で送る連絡手段)で連絡を取り合うが、地底人は紙に文字を書くことをしないため、俺たちが連絡を取り合うために魔道通信機(携帯電話のような物)を渡した。
「おっ!便利だな、これ!」
「地底族は、記録をどうやって残してるの?」
「代々の族長が、その時代の出来事を『記録玉』に残すんだ。地下深くに保管してるんだけど……」
モーリーの目の奥に、さっきまでとは違う冷たい光が宿った。
(えっ……モーリー?)
俺が思わず見つめ返すと、モーリーはハッとしたように笑顔を作った。
「あっ、すまん。……俺も、これで連絡するよ!」
俺は、モーリーと次に会う約束をした後、みんなに引き止められながら、辺境伯城へ戻った。
転移して城に着いた時、俺はふと疑問が浮かんだ。
「モーリーは、あの地底都市では得られない知識を、どこで学んだ……?」




