第4話 地底人との遭遇
「おじいさま、おばあさま、新しい魔道具を作ったので、感想を聞かせてください!」
「ルキ、今度は何を作ったんじゃ?」
「今回はね、姿を消す魔道具! 正確には、光を屈折させて姿を見えなくするんだけど、暗部部隊で使えるんじゃないかと思って作ってみた」
フルーラ辺境伯には、特殊な任務をこなす、じいちゃん直轄の特別部隊がある。
じいちゃんは、懐かしそうに表情を緩めて口を開いた。
「儂の前世でも同じような物を使っていたのを思い出した。そんなに性能のいい物ではないがな」
「前世で!?おじいさまは、前世では何の仕事をしていたんですか?」
「本業は忍びの仕事をしていた。たまに武士のようなこともしていたが……」
「忍者!」
「あぁ、儂は伊賀国に住んでおったからな、周りの者達はほとんどが幼い頃から忍びの修行をしていた」
じいちゃんは、前世で亡くなった後、この森に赤子の姿で落とされ、前辺境伯に拾われたらしい。
そして、ばあちゃんも――
「我も、光魔法が発現した時に前世を思い出したんじゃ」
「えっ、おばあさまも!あっ、おばあさまの前世は……?」
「我は宮中で執筆や記録の仕事をしておった」
(宮中で執筆って……)
「実は、今でも趣味で執筆をしておるんじゃ。正体が知られぬように、気をつけておるがな」
ばあちゃんは、ホッホッホっと笑っていたが、俺はばあちゃんの前世が誰だったか、ほとんど予想がついてしまった。
どうやら、このフルーラ辺境伯領には、なぜか落ち人や前世の記憶を持った者が頻繁に現れているらしい。
「そういえば、ルキの前世の話を聞いたことは無かったのぉ……」
「あっ……」
じいちゃんは、顔をこわばらせた俺を見て、気持ちを察してくれたように言った。
「言いたくないことは言わんでいい」
俺は……優しい祖父母に隠し事をしたくない……。
「……おじいさま、おばあさま、俺の前世の話を聞いてもらえますか」
じいちゃんは「話したいなら話せ」と優しい表情でうなずいた。
俺は、俯きながら、途切れ途切れに話した。
こんな過去を持つ俺をどう思うのか……
祖父母の目を見るのが怖くて顔が上げられなかった……。
二人は、何も言わずに俺の話を聞いていた。
「そうじゃったか……。ルキは前世でも道具を作っていたんじゃなぁ」
ばあちゃんは、優しい手で俺の頭を撫でながら、さりげなく俺の中の気持ちを光魔法で癒してくれた。
そしてじいちゃんは、俺の頭にポンと手を置いた。
「そんな小さいことに心を囚われるな。過去を振り返らない者は、過去を繰り返す。今世では悔いを残さぬ生き方をすればよい。ルキリア、この世界を楽しめ」
俺は、じいちゃんに大きく頷き、声を上げて大泣きした。
そして、俺が泣き止むまで、ずっとそばにいてくれた。
♢*♢*♢*♢*♢
それからしばらくして、フルーラ領地付近では小さな地震が頻繁に起こるようになった。
「……来るぞ」
じいちゃんが声を発した次の瞬間、頑丈な辺境伯城の石壁が嫌な音を立てて軋み、テーブルの食器が跳ねた。
『……グラッ、グラグラ、ガタガタッ!』
「地震だ!」
フルーラ辺境伯領と隣国の間には、標高6000メートルを超えるブルーマウンテンがある。
ブルーマウンテン周辺は昔から地震の多い土地だが、最近は明らかに発生頻度が増えている。
「俺が記録し続けてる地震データを見ても、最近の地震発生の頻度は異常なんだよなぁ。あの山は死火山のはずなんだけど……」
「そういえば、半年前の魔獣のスタンピードも変じゃったのぉ。結界があるから領地には被害は無いが……」
(ばあちゃんの言う通り、数年に一度ぐらいだったスタンピードが、今年に入ってすでに2回起きてる……)
「おじいさま、俺、ブルーマウンテンの麓に調査に行ってきます」
「そうか……儂も一緒に行って様子を見てこよう」
翌朝、俺とじいちゃんはブルーマウンテンへ向かった。
麓に着いた俺たちは、地盤の隆起や磁場の乱れを測定してみたが、異常は見つからなかった。
(地震後の異常も見当たらない……。地震とスタンピードの因果関係って……)
「おじいさま、山の中腹まで行ってみたいのですが許可をいただけますか?」
「あぁ、儂も行くぞ。この山は未開の土地だったからな。調査をするいい機会かもしれん」
俺はすぐに山を登ろうとしたじいちゃんを止めると、高地用の酸素保持ネックレスを首に掛け、ヘルメット型の空飛ぶ魔道具を身に付けて、上空から山の様子を調査することにした。
山の中腹までくると、森を切り開いて人工的に作られた広場のようなものが見えた。
「おじいさま、あれは?」
「あの場所は、人の手で開かれているようだな……。様子を見に下に降りてみるか」
まわりを警戒しながら切り開かれた広場へ降りると、じいちゃんは目を瞑って耳を澄ました。
(じいちゃんの音波魔法か……。音波の跳ね返りで物体の有無と距離が分かるやつ……)
じいちゃんは、パッと目を開けると無言で下を指さした。
(えっ、地面の下?)
「地下に降りられそうな入口は……なさそうだね……」
ピンと閃いた俺は、革のショルダーバッグを改造して作ったマジックバッグから『1キロ先まで声が届く拡声器』を出して、それを地面に当てて大声で話しかけた。
「すみませ~ん、誰かいらっしゃいますか~?山の麓に住んでいる者なんですけど~」
じいちゃんは『何してんだこいつ?』と、びっくりした顔をしていたが、プっと吹き出して俺を呆れた顔で見ていた……。
(……いや、だって地下にいるなら、直接音振動を伝えた方が物理学的には正解だよね。じいちゃんには、『地面に叫ぶ変な奴』に見えたらしいけど……心外だなぁ~)
俺が拡声器を使って地面に叫んでからしばらくすると、広場の端にある木の影から鋭い視線を感じて、俺はハッと振り返った。
その瞬間——じいちゃんは俺の体をサッと担いで、その木の影から伸びてきた黒い縄のようなものを避けて飛び上がった。
(えっ……俺たちに攻撃してきた?)
俺はじいちゃんに担がれながら、その黒い人影に拡声器を使って大声で話しかけた。
「あの~、俺たち、話を聞きたいだけなんですけど~」
拡声器からの大声が山全体に響き渡ると、その黒い人影たちは「うっ、耳が……」と叫んで、頭を押さえながらうずくまってしまった……。
(んっ?)
「えっ?大丈夫ですか~?」
俺は腹に力を入れて、さらに大声で声をかけると——
「お願いだ、もう少し小さい声で話してくれ……」と、黒い人影はうずくまったまま両手を上げた。
(あっ、地下で暮らしているから、視覚よりも聴覚が発達しているのか……)
じいちゃんはその様子を見て、黒いマントを羽織った2人の前に俺を担いだまま降り立った。
「んっ、この容姿は……。お前たちは、地底族の者だな?」
じいちゃんがそう尋ねると、黒いマントの1人が細い目を見開き、驚いた表情で顔を上げた。
「私たちのことを知っている貴方は、何者ですか?」
(地底族……?)
地底族と呼ばれた2人は、浅黒い肌に短髪の黒髪で金色の目をした容姿だった。目は細くて開いているのかどうか分からない。
「儂らは、この山の麓に住む者だ。最近、この山を震源とする地震が多発しているから調査しにきた」
黒いマントを着た2人は、「はて?地震?」と首を傾げて顔を見合わせた。
「地震ですか?私たちはこの山の地下に住んでいますが、地震は感じませんでしたよ……?」
「あっ、族長……!」
「どうしました、族長補佐?」
「あの……もしかして、私たちが地下で行っている建設工事で、地上が揺れているのでは?」
「あっ、確かに!最近の工事は、地表近くでしたからね……」
コソコソと話をしていた地底族の2人は、チラッとこちらを見ると、申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「すみませんでしたね。知らない間にご迷惑をおかけしていたようで……。あと1週間ほどで工事が終わりますから、それ以降は静かになるかと思いますので……」
(なんだかこの地底族、いい人っぽいな!)
「あっ、族長さん、もう一つ質問してもいいですか?」
「他にも何か、ご迷惑を?」
「魔獣のスタンピードが、今年に入ってすでに2回も発生しているんですが、魔獣のスタンピードについて何かご存じでしょうか?いつもは、数年に一回ぐらいの頻度だったはずなんですが……」
「魔獣?」「スタンピード?」
地底族の二人は、「はて?」と顔を見合わせて首を傾げていたが、族長と呼ばれた方が「もしかしたら……?」と口を開いた。
「私たちは、ほとんど地表に出ることはないのですが、4年に一度、秋の新月にこの広場で慰霊祭を行っているのです。もしかしたら、それに驚いて魔獣が麓に逃げて行っているのかもしれません……」
「この間もスタンピードがあったんですが……」
「はて?ここ数年は、この広場を使用してはいないのですが……」
「スタンピードの原因……?」と、もう1人が首を捻って考えていたが、何かを思い出したように顔を上げた。
「あっ、族長!山の向こう側がうるさかった時がありましたよね。魔獣の縄張り争いをしてるみたいだと言ってた……」
「あぁ、ありましたね!もしかしたら……」
族長が、うんうんと頷きながら俺たちに向き直った。
「時々、山の反対側で魔獣の縄張り争いがあるんです。もしかしたら、それが原因で魔獣たちがこちら側に逃げてきているのかもしれません」
じいちゃんは、腕を組みながらつぶやいた。
「山の向こう側は、エビータ国領だったな……」
(縄張り争い……?エビータ国?……同じ山なのに、どうして争いは反対側だけで起きるんだ?)
「族長さん、こちら側で魔獣の縄張り争いはありますか?」
「ん〜、こちら側で魔獣同士の争いのようなドタバタした音を聞いたことは……記憶にないですねぇ」
(エビータ国側だけって、どういうこと?)
じいちゃんは腕を組みながら、山の上を見上げた。
「もし儂の考えている通りなら……」
(じいちゃん……?)
「……獣人かもしれんな」
(えっ……獣人?)




