第3話 蓄魔力機
あれから数年が経ち、俺は7歳になった。
結界の魔道具を開発しながら、じいちゃんから剣術と体術、そして魔術の特訓を受ける日々を送っている。
「ルキリア!重心をずらすな!剣がぶれる!」
「はい!」
体がボロボロになって腕が上がらなくなっても、手のひらの豆が潰れて血だらけになっても、俺はじいちゃんの特訓に必死でついていった。
「いっ……、痛くない!」
父上と約束したから……
もう、誰も死なせたくないから……
——絶対に泣き言は言わない
夜遅く、辺境伯がルキリアの部屋を静かに開けると、ちょうど夫人がルキリアの体調を確認しているところだった。
「ルキリアは、寝たか?」
「ぐっすりじゃ。こんな小さな身体で泣き言も言わずに、ハンの特訓に良くついていっておる」
「回復魔法は掛けてやったか?」
「毎晩、回復魔法を掛けてやっておるが、それよりもこの子の回復力の方が勝っておる。魔力量も多いが、この回復力は異常じゃ……」
「そうか……。セイ、ルキリアを頼むぞ」
俺は、じいちゃんの特訓以外の時間は全て、領地を守る結界の魔道具作りに没頭した。
なんとか試作品1号を作り上げ、じいちゃんに見せたが……
「ルキリア……この魔道具では、この領地で使用する1年分の魔石を1日で消費してしまう。実用化は無理だ」
この世界では、魔力が圧縮された『魔石』を生活に必要な燃料として使っている。
「はぁ……、どうやっても魔力消費量を下げることができない。でも何か方法があるはずなんだ」
それから何度も作り直して魔力回路の改良を重ねたが、実用化出来ずに魔道具作成は行き詰っていた……。
そんな時、辺境伯城に魔力過多症で高熱を出した子どもが運ばれてきた。
「セイ様!息子が魔力過多で高熱を出して……」
辺境伯城の一角は救護室になっていて、いつでも病気や怪我をした領民たちを受け入れられるようになっていた。
「母殿、慌てるでない。見たところそれほど重症ではないから大丈夫じゃ。診察台に寝かせなさい」
ばあちゃんはそう言うと、その子どもの両手を優しく握って『過剰な魔力』を吸い上げ、その魔力を空気中に放出した。
(あっ、俺も小さい頃、ばあちゃんに魔力を吸い上げてもらってた……。魔力過多症の人って、この世界には多いのか?)
診察が終わると、のぞき見していた俺に気が付いたばあちゃんが、ドアを開けた。
「ルキ、どうしたんじゃ?」
「おばあさま、ここには魔力過多症の人ってたくさんいるの?」
「あぁ、この領地には魔力の多い者が多いからのぉ。大人になって魔力が落ち着くまでは、魔力過多症で高熱を出したり体調を崩したりする子どもが多いんじゃ。大人でも過剰な魔力が放出できずに体調を崩す者も多いのぉ」
「魔力過多症の人は、過剰な魔力を吸い上げるだけで体調が良くなるの?」
「そうじゃ。今のところ特効薬は無いから、体調が悪くなると診療所で魔力を吸い上げてもらうしかないんじゃ」
「吸い上げた魔力は、放出して捨てちゃうの?」
「あぁ、使う方法がないからのう……。たしかにもったいないのう」
(もったいない……!)
「……それだ!ありがとう、おばあさま!」
閃いた俺は、ものすごい勢いで駆け出した。
(これなら……出来るかもしれない!)
俺は工房に戻ると、溢れてくるアイデアを次々と書き出し、魔力回路を一から設計し直した。
「これなら……この魔力回路なら理論上、魔力消費量は今までの10分の1に抑えられるはず……」
そして俺は、その回路を組み込んだ『蓄魔力機』を作った。
これは、人の余った魔力を吸収し、内部に蓄える装置だ。
幾何学的な魔法陣が青白く浮かび上がったミスリル製の球体に手を触れると、空中に魔力残量ゲージが浮かび上がる。
(魔力を吸収されている間、痛みも違和感も無いから、怖がらずにこの魔道具に触れてくれるはずだ……)
俺はドキドキしながら、完成した蓄魔力機と結界の魔道具を繋いで動作確認をしてみた。
驚いたことに、結界を24時間フル稼働させても、魔力消費量はほんの僅かだった。
「えっ……?」
蓄魔力機の魔力量が、ほとんど減っていない。
「なんで……?」
俺は何度も魔力計を確認した。
そして、魔石を使った場合と比較してみて――
「……まさか」
どういうことなのかと調べていくと、魔石の魔力よりも、人から放出された魔力のほうが、少ない魔力量で魔道具を動かせることがわかった。
(……もしかして、魔石は『死んだエネルギー』で、人から出るのは『生のエネルギー』だからなんだろうか?)
魔力の質そのものが違うのか……?
もしそうなら、とんでもない発見だ!
俺は、急いでじいちゃんにこの結果を伝えなければと、執務室に走った。
「おじいさま!蓄魔力機に、大変な結果が出た!」
俺は興奮しながら、じいちゃんに報告した。
「つまり、人の魔力なら、魔石より少ない魔力量で魔道具を動かせるということか?」
「はい! しかも、かなりの差があります!」
じいちゃんは俺の話を聞き終えてから、真剣な表情で俺に告げた。
「ルキリア、この結果は当分の間、機密事項とする。これが世間に広まったら悪用される可能性が高い……。特に魔力の多い子どもが狙われることになる」
「あっ……」
(確かに……じいちゃんの言う通りだ……)
これらの魔道具は、この領地内だけで使用し、俺とじいちゃんで慎重に管理することになった。
そして、ようやく……
父上が死んだあの場所に、領地を守る『結界』が張られた。
「父上、出来たよ……」
結界は目には見えないけど、父上の腕に包まれているような感じがして……俺は涙が止まらなかった。
『魔力を吸収する魔道具』は、領地内にある診療所と教会、そして辺境伯城の入口に設置された。
「ハン様!この魔道具、凄いね!もう魔力過多症で熱も出なくなったよ!」
「セイ様、この魔道具のお陰で毎日身体の調子がいいですわい!」
辺境伯夫妻は、魔道具に集まっている領民たちに手を振りながら、その風景を眺めていた。
「ハン……、この魔道具は、我らだけで秘蔵できるものではないぞ。ルキリアの才能は、もはや隠しきれるものではない……」
「あぁ、分かっておる……。セイ、ルキリアのことを表に出すことになる……頼むぞ」
「全力で、守るぞえ……」
ハンはその場から執務室に向かうと、転移の魔道具を起動させた。
それから数日後、青空が広がる早朝に、魔道具に触れに来る領民たちを眺めながら、ハンは城の門前で『ある人物』を待っていた。
「ハン、久しいな」
「陛下もお元気そうで……また、護衛は無しですか」
「お前も相変わらず堅いなぁ。護衛には、30分だけ散歩してくると言って出てきた」
ガーラ国王のアーチーは、辺境伯城の入口に設置してある魔道具に、領民たちがにこやかに触れていく姿を遠くからじっと眺めた。
「あれが、過剰な魔力を吸収する魔道具……。あの魔道具から吸収された魔力で、この領の結界を張っているのか……」
「不足分は、儂と孫の魔力を注ぎ込んでおります」
アーチーは、腕を組みながらハンに顔を向けた。
「王都でも使用したいが……、この結界の実用化は難しいな……」
ハンは、同意するようにうなずいた。
「確かに、結界の魔道具の実用化は難しいでしょう……。しかし蓄魔力機は、魔石の代わりに普及していくと思われます。悪用されると大変なことになりますが……」
「そうだな……。弟のレイノルドと慎重に相談するよ。また近々来たいから、この結界用の転移魔道具は貰っておくぞ」
「それは陛下用に作ったものですから。いつでもお越しください」
アーチーは、魔道具を起動させようとして、ハッと何かを思い出したように振り向いた。
「あっ、レイノルドにこの魔道具の話をしたら、ハンの孫に会いたがっていたよ。今度、『王都観光』に連れて行きたいって」
「王都観光……」
ハンは、呆れたようにため息をついた。
「……王都を『視察』させたいんでしょうか?」
アーチーは大声で笑った。
「そうかもね?ルキリア君に王都の土地開発を手伝ってもらいたいんじゃない?」
そう言ってヒラヒラと手を振ると、アーチーは転移魔法の光の中へ消えていった。
ハンは大きくため息を吐くと、ボソッとつぶやいてから城の中へ歩き出した。
「レイノルド殿下にも、目を付けられたか……。王宮に囲われるのを阻止せねば……」




