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わがままを封印した規格外少年の、時空を巡る送り人伝 —Departures—  作者: megane-san
第4章 ダリオン国

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58. 魔法陣

次の日の早朝、まだ薄暗い時間にチャールズが俺の部屋をノックした。


「リキータ様が庭に出られました」


俺がリキータさんを探して庭に出ると、彼女は花壇の前にしゃがんで花を見ていた。


(あのネックレス、首に掛けてるね……)


「おはよう!リキータさん早起きだね。体調はどう?」


「ルキリア君、おはよう。体調はすっかり良くなったわ。いっぱい寝たから、今朝は早くに目が覚めちゃって……」


「今日は、フルーラ辺境伯領の畑作で使ってる魔道具を見に行く予定だよ」


リキータは、目に涙をにじませながら、小さく微笑んだ。


「……ここの城の人たちは、みんな優しいね……」


(リキータさん、こんな表情をする人じゃなかったはず……)


「リキータさん、何かあったの?」


「……何もないよ……。もう、部屋に戻るね……」


リキータはそう言うと、城の中に戻って行った。



それから数日は、みんなで領内で使われている魔道具を見て回ったり、浜辺でバーベキューをしたりして過ごした。


「リキータさん、お肉焼けたよ!」


砂浜に指で何かを書いていたリキータが顔を上げた。

 

「あっ……、うん、今行く!」


砂浜に書いてあったものは、小さく光を放つと波にさらわれて消えていった。


リキータさんは終始穏やかに振る舞っていたが、ときどき首元のネックレスを無意識に握る姿が気になった。


それに気がついた俺とモーリーは、リキータさんのネックレスからこちらの情報が漏れないよう、重要な話は彼女がいない時や、結界を張った部屋で慎重に話した。


 


最終日の夜、俺はじいちゃんの執務室に呼ばれて行くと、聖エリス国の諜報員がじいちゃんに報告をしているところだった。


「ルキリア、リキータ嬢について、報告が入った」


「何かあったんですか?」


「リキータ嬢の父親が、筆頭聖女に拘束されているらしい」


(拘束って……、人質……!)


「今夜、博士に洗脳の解術をしてもらった後は保護しようと思っていたのだが……」


(洗脳を解いたら、筆頭聖女はすぐに気がつくはず……。そしたら、リキータさんのお父さんが危ない……)


「洗脳を解かずに帰国させるしかないな……。ルキリア、ここに来てからの彼女の様子はどうだ?」


「みんなと一緒に行動してたから、何も怪しい動きはなかったと思う……あっ、寝れないって言って、朝早く庭を散歩してたけど……」


「……そうか……。解術に関しては、博士と相談する」



その日の夜遅く、博士はじいちゃんの執務室を訪れた。


博士は、じいちゃんと少しの間話し合った後、リキータたちの部屋に音もなく姿を現した。


そして、リキータに掛けられた洗脳魔法に上掛けの魔法を重ねると、執務室に戻ってきた。


「辺境伯、ルキリア君、彼女に掛けられた洗脳魔法の上に、私の魔力を重ねてきた。私の魔力が妨害して洗脳の力は弱まるはずだ。筆頭聖女と私の魔力はとても似ているからね……すぐにはバレないと思う」


「リキータさんは、明日、みんなと帰国していいんですね?」


俺が、じいちゃんと博士に念押しの確認をすると、2人とも同時にうなずいた。


「でも、彼女は何をしにここに来たんでしょうか?筆頭聖女が、洗脳魔法を彼女に掛けた目的は……」


博士は、じいちゃんと俺の顔を見ながら尋ねた。


「儂もそれは気になっていた……。様子を探るだけのために、ここまで手の込んだことをするとは思えん……」


(たしかに……、様子を探るだけなら、洗脳は要らないはずだ……)


「何かが仕掛けられているかもしれん……彼らが帰国したら城の中を隈なく探してみるか……」




次の日、俺たちはリキータさんたちを城の門前から見送った。


「結局、何もなかったな……」

「……本当にそうならいいけど」


俺はモーリーと別れると、隠れ家から城に戻ったモリスさんが、庭で薬草用の花を摘んでいる姿を見つけた。


「モリスさん!こっちに戻って来たんですね!」


俺がモリスさんに駆け寄ってそばに立った瞬間――

2人の足元が光って魔法陣が広がった。


「「えっ!」」


影に付いていたルイが後を追って魔法陣に飛び込もうとしたが、2人を取り込んだ魔法陣は一瞬にして消えてしまった。


そして、花壇には魔法陣の光の残滓だけが揺らいでいた。


 


「ドンドン、バタンッ!」


いつも冷静なルイが、口元を隠すマスクも取り外して執務室に飛び込んで来た。


「総帥!ルキリア様が!」


「ルイ、ルキリアに何かあったのか!」


「ルキリア様が、正面入口横の花壇の前で、モリス様と一緒に魔法陣に取り込まれて姿を消しました!」


辺境伯は、ルイの言葉が終わる前に部屋を飛び出した。そして庭に走りながら、魔信便を博士とモーリーに飛ばした。


「ここか……」


2人が消えた場所には、モリスが摘んでいた花が散らばっていた。


しばらくして、モーリーが城に転移してきた。ほぼ同時に博士も姿を現し、口々に叫んだ。


「辺境伯!ルキリアが消えたって……!」

「ルキリア君が、消えたというのは……!」


2人は、花壇のそばに膝をついて地面を触っている辺境伯を見つけると、急いで駆け寄った。


「ルキリアとモリス殿が、ここに仕掛けられていた魔法陣に取り込まれて消えたらしい」


「魔法陣って……、あっ……!リキータさん……!」


「リキータ嬢が、こんな高度な魔法陣を仕掛けたというのか?」


「リキータさんは、魔法陣オタクなんです!ルーン文字を読み解くほど……。あぁ……俺は、なんでそこに気がつかなかったんだ……」


辺境伯の後ろに、辺境伯の暗部部隊の者たち約30人がサッと並んだ。


「総帥、ご指示を……」


「第1部隊は城の敷地内、そして領内に仕掛けられた魔法陣を回収、第2部隊は筆頭聖女と第1教皇補佐に貼り付け。……第3部隊は、儂と一緒に闇空間内を捜索する」


「捜索……?辺境伯は、無数にある闇空間を把握しているということですか……?」


博士がつぶやくと、辺境伯はうなずいた。


「儂は何十年もかけて闇空間の地図を作った。それに、第3部隊は、全員魔族の血を持つ者たちで、儂の闇空間移動について来られる。魔法陣を使ってどこかに飛んだとしても、必ず闇空間を通り抜けるからな……儂らでその痕跡を探す」


魔法陣を分析していた第3部隊のリーダーが声を上げた。


「総帥!235空間に痕跡を見つけました!」


「よし、行くぞ!」


辺境伯は、博士とモーリーに振り返った。

 

「博士、セイに状況の説明をお願いします。モーリーは、セイと教皇についていてくれるか?」


「辺境伯、こっちは、俺が守るから!ルキリアとモリスさんをお願いします!」


辺境伯は、モーリーの頭をポンと叩くと、第3部隊を連れて、その場から姿を消した。


「辺境伯は、凄いな……」


モーリーがぽつりと呟くと、博士が深くうなずいた。

 

「さすが、初代魔王だね……」

 


♢*♢*♢*♢*♢



俺とモリスさんは、魔法陣に取り込まれて、この真っ暗な場所に落ちてきた。


「モリスさん、大丈夫?」


「いてて……お尻から落ちてしまいました……。ここは……?」


俺は光魔法で辺りを照らすと、見たことのある景色が見えた。


(えっ……ここは……)


そこは、ダリオン国の三角州にある、あの地下部屋だった……。


(強固な魔力防御結界が張ってある……。俺の暗黒魔力なら、壊せるかもしれないけど……)


俺は、部屋の中を見回しているモリスさんを見て……心を決めた。

 

(ここで全部解決してしまおう……。彼女が消えたら、リキータさん親子も助かる……そして聖エリス国の改革の妨害も無くなり、すべての流れが整うはず……俺は、筆頭聖女を『送る』……)


そう決心した時、俺の中の暗黒魔力がふわっと漏れ出て、頭の奥で誰かが囁いたような気がした。


『調律……』


(調律?前にも聞いた気がする……いや、気のせいだ……無視しよう……)


「モリスさん、たぶんここに筆頭聖女が来る。そして、モリスさんのデーモン族の力を覚醒させるはず……」


モリスさんは、俺にゆっくりうなずいた。


「ルキリア君、大丈夫です。私はあの隠れ家でじっくりと考えたんです。私の力は、私の意思で使います」


「モリスさん……。うん!モリスさんの力だから!筆頭聖女の魔力なんか、弾き飛ばして!」


「わかりました!がんばります!」


俺たちが2人で拳を掲げていると、階段横の空間が歪んだ。


(来る!)




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