57. リキータの手紙
聖エリス国の学院で同じ土魔法クラスだったリキータから手紙を受け取った俺は、すぐにじいちゃんの執務室に走った。
ドアをノックして執務室に入ると、ちょうどルーピンがじいちゃんと話をしているところだった。
「ルーピン!」
「ルキリア様、ご無沙汰しておりました」
ルーピンは、俺たちが聖エリス国から戻る時に、数人の従業員と共に現地に残っていたのだった。
「ルーピンが報告に来てるってことは、向こうに動きがあったの?」
「はい、筆頭聖女が洗脳魔法を施したルキリア様のご友人のリキータ様を、近々こちらへ訪問させる計画を立てております」
「洗脳……?あっ、今、ちょうどリキータさんから手紙を受け取ったんだ」
「手紙?タイミングが良すぎるな……」
じいちゃんは手紙を読むと、俺に判断をゆだねるように、尋ねた。
「ルキリアはどうしたい?」
(彼らがここに来たら、モリスさんや、この領地の人たちに危険が及ぶかも知れないけど……。リキータさんも心配だ……)
「おじいさま、彼らの訪問を受け入れてもいいでしょうか?洗脳された俺の友達も心配です」
じいちゃんは、俺の答えは正解だというような表情でうなずいた。
「危険は伴うが……訪問を受け入れよう。その子の洗脳の解術については博士と相談しておく」
俺は、執務室を出ると、このことをモーリーに伝えるためにすぐに地下都市に向かった。
「ルキリア君、お久しぶりですね」
「族長!お久しぶりです!久々の地下都市生活はどうですか?」
「地下の暮らしも良いですが、また外の世界を回りたいですね……楽しかったですから……。それに、モーリーの最後の記録玉も、見つけに行かなくてはなりませんからね……」
(あっ……、モーリーの記録玉、あと一つが見つかっていないんだった……)
族長補佐が、後ろからひょこっと顔を出した。
「私もまた旅に出たいです~!地下都市生活は退屈です~」
……と言った族長補佐を、「仕事が終わってからにしてください」と言って、モーリーのお父さんが引きずって行った……。
談話室に入ると、俺たちは、モーリーのお母さん手作りの『ミネラルたっぷりみたらし団子』を食べながら、手紙について話し合った。
「このタイミングで、リキータさんからの手紙って……かなり怪しいな」
「うん、ルーピンから報告があったんだけど、リキータさんが筆頭聖女に洗脳魔法を掛けられたらしい……」
「……ってことは……、モリスさんか、ルキリア狙いで来るんだろうけど、辺境伯は受け入れるって?」
「うん、リキータさんの洗脳も心配だし、解術については、博士に相談するって言ってた」
「そうか……。教皇たちがここにいることは、リキータさんたちには秘密にしないとな……」
「あっ、それなんだけど……」
次の日、俺はモーリーを連れて辺境伯城からすぐ近くの裏山に来ていた。
「ここか?」
どう見ても『普通の木』の幹部分をタッチすると、認証モニターが空中に現れた。
「この隠れ家の入口は人体認証だから、先にモーリーを登録するね」
そして、認証完了すると、何もない空間にドアが現れた。
「なんだよこれ!面白すぎる!」
中に入ると、長方形の二階建ての建物が一軒建っていた。
「外からは、普通の森にしか見えないのに!結界の中に秘密の隠れ家かよ!」
「うん、この一か月、暇だったからね。土魔法の訓練も兼ねてこの家を作ってみた。内装も設備も前世の住宅を真似てみた」
屋根には太陽光発電装置を取り付け、家の中には魔力を使わず『電気』を使った電化製品を設置した。
冷暖房、電子レンジ、湯沸かしポット、冷蔵庫など、これまで作りためた家電をすべて並べた。
家の中を見てまわり、冷蔵庫から『シュワシュワ』サイダーを取り出して試飲したモーリーは、目を丸くした後、『ここ、最高だな!』と声を上げた。
「リキータさんたちが来たら、教皇たちはここに隠れるってことだな」
モーリーは、その後、次々に試作品を食べ、帰る時には、気に入ったカップラーメンをお土産に持って帰った。
その日の午後、俺はじいちゃんとばあちゃんにも、この隠れ家をお披露目した。
「裏山に秘密基地を作ると言っておったが……、これは凄いのぉ〜!」
「これがルキリアの前の世界の建物か……。太陽光でこの道具は動くのか?」
「うん、その装置で太陽光から電力っていう、この世界には存在しない力を作り出してるんだ。この建物は二階建てだけど、前の世界は、もっと高い50階以上の高層の建物にたくさんの人が住んでたんだよ」
ばあちゃんは、あちこちボタンを押しながら、俺に振り返って、少し懐かしそうな顔をした。
「ルキリアの生きていた時代は、我らの前世のずっと先の時代だったんじゃな……」
(じいちゃん、ばあちゃん……、2人の名前は、歴史上の有名人として、俺が居た時代にも残ってたんだよ……)
俺は、2人が炭酸サイダーを飲んで喜んでいる姿に、とてもほっこりした気持ちになりながら、しばらく2人を見つめていた。
それから2週間後、リキータ、ダニエル、サラは、転移門まで迎えに行ったルーピンとともにフルーラ辺境伯城へやって来た。
「「「久しぶり〜!」」」
「みんな相変わらず元気そうだな!」
モーリーは、大きく手を振りながら駆け寄ると、ダニエルは涙を浮かべながら俺たち二人を見つめ、がっしりと肩を抱いた。
「2人とも、急に学院を辞めちゃったから、心配したんだぜ……!」
(ダニエルは、聖エリス国で初めて出来た友達だ……短い間だったけど、土魔法クラスのみんなで、毎日のように魔道具開発談義で盛り上がって楽しかった……)
俺たちが門前でワイワイ話していると、じいちゃんとばあちゃんがやって来た。
「みんなよう来たのぉ〜。1週間、楽しんでいきなさい」
(ばあちゃん、さりげなくみんなと握手して、魔力チェックしてる……)
みんなの挨拶が終わると、チャールズの案内で食堂に向かった。
「うわぁ〜!美味しそう!」
サラとダニエルがテーブルに並べられた料理を見て目をキラキラさせていたが、その隣でリキータは、顔色を悪くしながら、首に掛けていたネックレスを握っていた。
(……あのネックレス、たぶん盗聴の魔道具だ……)
「リキータさん、大丈夫?顔色悪いよ」
「転移酔いしたのかな……?頭が痛くて……」
ばあちゃんが、リキータを椅子に座らせると、額に手を当てて診察を始めた……そして誰にも聞こえないぐらい小さくつぶやいた。
「魔力が干渉し合っておるな……」
俺とモーリーは、ばあちゃんの小さな声を拾うと、目でうなずき合った。
(間違いなく、リキータさんは何か魔法を掛けられてる……)
魔道具に気がついたばあちゃんは、魔力の干渉だけを調整すると、リキータの顔色は良くなり笑顔が戻ってきた。
「転移酔いしたんじゃろう。食事の後は、少し横になって休みなさい」
「はい、ありがとうございます……」
その日はリキータさんは部屋で休むことになり、俺たちは、ダニエルとサラさんを連れて城下の町を案内することになった。
「なぁ、ダニエル、何で急にフルーラ辺境伯領に魔道具の見学に来ることになったんだ?」
ダニエルは、急に立ち止まると、「あれ?」と首を捻った。同時に、サラも「んっ?」と、眉間にシワを寄せた。
「なんでだろう……?」
「なんでだったかしら……?」
サラは道沿いにあったベンチに腰掛けて、2週間前の会話を思い出そうとしていたが、2人ともまったく思い出せないようだった。
(記憶操作されてるのか……)
モーリーは、俺に目配せしながらうなずいた。
「せっかく来たんだから、フルーラ辺境伯領の美味しいものたくさん食べて行ってよ〜」
……と、2人を連れて『とろけるパンケーキ専門店』に入っていった。
(モーリー、さっき昼食食べたばかりなんだけど……)




