56. モリスの出生
「モリスさん、誤解させてごめんなさい。全部話すから、城に戻ろう」
「全部……ですか……?」
「うん、俺とモリスさんの関係……とか、色々な糸が絡まってるんだ……俺たちのまわりに……」
「糸……。わかりました……全部、教えてください……私の出自の秘密を……」
俺は、モリスさんを連れて、みんなが集まっていた城の門前に転移してきた。
「モリスさん!」
モーリーが、そばに駆け寄ってモリスさんにガバッと頭を下げた。
「モリスさん、ごめんなさい!俺が、強引に……」
モリスさんは、首を横に振るとモーリーの手を取った。
「いえ、私を心配してくれたのでしょう?私はみなさんにまだきちんとお礼を言っていませんでした……」
モリスさんは、じいちゃんやその場にいたみんなに頭を下げた。
「みなさん、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした……。そして、私と教皇を保護していただきありがとうございました……」
教皇が、モリスさんのそばに歩み寄って肩を抱いた。
「モリス、大丈夫じゃ……、もう大丈夫じゃ……」
「教皇……様……」
モリスさんは、教皇に抱きついて声を上げて泣いた……。
(ずっと自分の魔力が暴走することを恐れていたんだろうな……)
モリスさんの涙が止まったのを見計らって、執事のチャールズが、スッと俺たちの前に現れた。
「教皇様、モリス様、夕食の準備が整いましたので食堂へご案内いたします。本日は、フルーラ辺境伯領の名物料理を準備いたしました。お食事の後は、『温泉』で心身の疲れを癒してください」
「あっ、モリスさん!大浴場の温泉に行こうぜ!背中を洗ってあげるよ!」
「温泉?大浴場?」
モリスさんは、初めて聞く言葉に首を捻っていたが、モーリーにがっちりと腕を組まれて食堂に向かっている姿を、みんなはホッとした表情で微笑ましく眺めた。
翌日、シャーロット博士がフルーラ辺境伯城を訪れた。
「「博士!」」
「二人も元気そうだな!」
俺たちは、辺境伯城の門前に転移して来た博士を案内して執務室に入ると、じいちゃんとばあちゃん、教皇とモリスさんは、すでにソファに座っていた。
「シャーロット博士、急にお呼び立てして申し訳ない」
昨夜、じいちゃんから話を聞いた教皇とモリスさんは、聖堂内の内情とモリスさんの事情を話したいと言ってきた。
そして教皇は、博士にも聞いてもらいたいと、急遽、魔信便を送った。
「まずは……、改めて礼を述べさせていただきたい。儂らをあの聖堂から連れ出してくれたことに、心から感謝いたします……」
教皇は、みんなの顔を見てから頭を下げた。
「儂は、毎日のように毒を盛られていた……。昨日は久しぶりに毒を気にせず食事を取ることができた……」
教皇はそう言うと、穏やかに微笑んだ。
「毎日毒を盛られていたじゃと……?」
ばあちゃんは、悔しそうな顔で教皇に尋ねた。
「日々の食事もまともに取れんとは……。犯人は分かっておるのかえ?」
「聖堂に不満を持つ者たち……ですかの……。もっと早くに教会と政治を切り離すべきじゃった……。儂が居なくなれば、国は変わるかもしれんという希望を持つ者たちじゃな……」
じいちゃんは、じっと教皇を見てから口を開いた。
「教皇は、それを受け入れている……のでしょうか?」
「……私の怠慢から、……そうなったことじゃからの……」
モリスさんは、首を横に振った。
「教皇様は、一生懸命に改革しようとしていらっしゃいました。邪魔をしていたのは、あの筆頭聖女です!」
教皇は、モリスに悲しそうな顔を向けた後、拳を握って俯いた。
「力不足じゃった……」
じいちゃんは、腕を組んで天井を見上げると小さく息を吐いた。
「教皇、彼女とモリス殿は、どういう関係なんだろうか?」
「モリスは……、実は……筆頭聖女の孫なんじゃ……」
教皇の言葉に、その場の空気が一瞬凍りついた。
「「「……孫!」」」
混乱した俺は、教皇に続けざまに質問した。
「えっ、筆頭聖女は結婚してたの?」
「いや、結婚はしておらん」
「えっ、それ……どういうこと……?」
「まだ彼女が聖女見習いだった頃、あれは……18歳ぐらいだったか……、病気療養ということで、2年ほど聖堂を出ていた時期があった。その時に彼女は、双子の女児を産んだ……」
「えっ……、父親は……?」
「たぶんじゃが、第1教皇補佐のケジャールじゃと思う。彼女に付いて、神官だった彼も聖堂を出ておったからの……」
黙って話を聞いていた博士が、口を開いた。
「教皇、貴方がそのことを知っているということは……、誰かが貴方にそれを教えたということですね?」
「そうじゃ……。その双子を育てた産婆から、後に告白があった……」
(えっ、子どもは、産婆が育ててたの……?)
「そしてその双子は孤児として、7歳になってから聖堂に聖女見習いとして入信した」
ばあちゃんは、腹立たし気に拳を握った。
「産むだけ産んで産婆に預け、7歳になったら手駒として回収かえ……。子どもを何だと思っておる……」
博士もばあちゃんにうなずいた。
「彼女は、デーモン族の力を継ぐ者を生み出すために出産したということか……」
教皇は、お茶を一口飲んでからうなずいた。
「その後、筆頭聖女となってからは、その双子を熱心に指導しておったが、一人は他国から来た神官の子を身籠り、出産してすぐに神殿から逃げ出した。その時に生まれたのが、モリスじゃ……」
「その他国から来た神官って……」
「……皆も気がついたかもしれんが、魔族の血を持つ者じゃ……。モリスが姿を消すことが出来るのもその力を継いでいるんじゃろうな……」
ばあちゃんは、じっとモリスさんを見てから、小さくつぶやいた。
「複雑に魔力が絡んでおるのはそのためか……。これは凄いのぉ……」
(んっ?ばあちゃん、何が凄いの?)
「モリス殿は、デーモン族と魔王の血筋、そして何の魔族かはわからんが、その魔族の力も持っているということじゃな……。そして光の魔力も持つ……」
博士は、目を瞑って考えていたが、答えを得たように目を開けた。
「まさか……エルフ族か……?姿を隠し、未来を予知できる能力は、エルフ族が持つ能力だ」
博士の言葉にハッとしたモーリーが、「ちょっと失礼……」と言って、モリスさんの長い前髪をかき分けた。
みんなの視線が、モリスさんの顔に集中して……、そして驚いたように目を見開いた。
(((……美男子!!!)))
「モーリーさん、な、何を!」
モリスさんは、すぐに前髪で顔を隠したが、モーリーは、何かを理解したようにうなずいた。
「耳は普通だけど、顔立ちは完全にエルフだ……。超美形!」
♢*♢*♢*♢*♢
教皇たちがフルーラ辺境伯領に来てから約1ヶ月が経った。
教皇は、始めのうちは、のんびりと城下を散策して過ごしていたが、今までの精神的な疲労が出たのか、ベッドの上で過ごすことが多くなってきた。
「教皇様、お加減はどうですか?」
「今朝は、調子が良い……。モリスも儂に構わず、外に出かけてきなさい」
「いいえ……、私は教皇様のおそばに……」
ドアをノックして、ばあちゃんと俺が教皇の部屋に入ると、教皇が身体を起こして、モリスさんと話をしているところだった。
「おはようございます」
「今朝は、調子はどうかえ?手足の痺れはどうじゃ?」
教皇は、「今日は気分が良いですよ」と俺たちに微笑んだ。
ばあちゃんは、教皇がこの城に来てから、少しずつ身体の毒の浄化を続けていた。
教皇の診察を終えると、少し考えてから、モリスさんを手招きした。
「モリス殿、教皇の身体は毒に侵されている。今までは教皇の神聖力で毒の作用を抑えていたようじゃが、その神聖力が少し弱まっているようじゃ」
「神聖力が弱まっている……」
モリスさんは、目に涙を浮かべながら、ばあちゃんの手を取った。
「お願いします!教皇を助けてください!」
ばあちゃんは、モリスさんの手をポンポンと叩くと、「大丈夫じゃ」とうなずいた。
「そこでじゃ、モリス殿に手伝ってもらいたいことがある」
「手伝いですか……?」
「我の助手をしてもらいたいんじゃ」
「助手……?」
「教皇の毒の浄化じゃが、もしかしたら我の魔力よりモリス殿の魔力で浄化する方が教皇の身体に負担が少ないかもしれん。モリス殿の魔力には神聖力が混ざっておるからのぉ」
「夫人、ぜひお手伝いさせてください!」
ばあちゃんは、「よし、モリス殿は、今日から我の弟子じゃ!」と、モリスさんの背中をバシバシと叩きながらガハハと笑っていた。
(ばあちゃん、モリスさんにここに居るための意味を与えたんだ……)
俺はモリスさんが、ばあちゃんから治療の仕方を教わっている姿を見て、そっと部屋を出た。
俺が、作業部屋に向かって歩いていると、後ろから追いかけてきたチャールズが、「聖エリス国のご学友からお手紙です」と言って一通の手紙を差し出した。
「……手紙?」
手紙は、土魔法クラスのリキータたちからだった。
「フルーラ辺境伯領の魔道具見学に来たい……?」
(リキータたちが? ……いや、タイミングが良すぎる。聖エリス国で何かが動いているのか……?)




