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わがままを封印した規格外少年の、時空を巡る送り人伝 —Departures—  作者: megane-san
第4章 ダリオン国

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53. それぞれの思い

「筆頭聖女様、ノクタリア国の件で報告が上がっております」


執務室の窓から外を眺めていた筆頭聖女は、第1教皇補佐の声に振り向くと、ソファに座って報告書を受け取った。

 

「ノクタリア国王と王妃が幽閉された……?」


「はい……、今は王太子が、国王としての実権を握っております……」


「何度も失敗していた王太子の暗殺に、ようやく目処が立ったと前に報告があったが……失敗したということか……」


「王妃は、すべての記憶を失って廃人となり、国王は王妃が少しずつ盛っていた毒で末期の中毒症状だということです」


「王妃としてノクタリアに送り込ませたあの聖女は、かなりの魔力持ちだったはず……それを廃人にまでするとは……」


「彼女の魔力に対抗出来るのは……王太子ぐらいでしょうか……。他に思い当たる人物がおりません……」


「記憶を奪い、廃人にまで追い込めるほどの闇魔力を持つ者……。ガーラ国で一番の闇魔法使いであるフルーラ辺境伯……そしてその孫……。何を探りにこの国に来たのか……」


筆頭聖女は、報告書を握りしめながら第1教皇補佐に冷たい声で指示した。


「地底族と魔王と同じ色を持つ少年の2人の動きを詳細に報告しなさい」


「承知いたしました」


「それと……第3教皇補佐の監視もね……。計画通り退位後に現教皇を消したら、あの子を洗脳してこちらに取り込みます」


「心得ております……」


第1教皇補佐が部屋を出ると、筆頭聖女は握っていた報告書を破り捨て、魔法の青い炎で燃やし尽くした。


「魔王が去ったこの世界で、『私』の復讐の対象は、魔王の側近だったヴァンパイア族と、『私』を連れ去った地底族となった……」


筆頭聖女は、引き出しの奥に大切にしまわれていた、過去に愛した人の、聖職者の印である『古いネックレス』を取り出した。長い年月を経て黒ずんでいたが、今も静かな光を宿していた。

 

「何度も転生を繰り返し、ようやく奴らの首に手をかけることが出来るところまできたのだ……。私たちを不幸へ突き落とした者たち……この機会を、私は絶対に逃さない……」


 

♢*♢*♢*♢*♢


 

「教皇様、お茶をお持ちしました」


神官がワゴンにお茶と焼き菓子を乗せて部屋に入ってきた。


「あっ、後は私がやりますのでそのまま置いといてください」


第3教皇補佐がそう言うと、神官はすぐに執務室を出て行った。


第3教皇補佐のモリスがティーポットの蓋を開けて「浄化」と唱えると、ポフンと紫色の煙がポットの中から上がった。


「あぁ、今日のお茶も何か入ってましたね……」


「いつもの事じゃ……」


「第2教皇補佐は、もうこの聖堂から出ましたから、第1教皇補佐の派閥の者たちですね……」


「こんな退位間近のジジイを消しても、何の得も無いだろうに……」


「教皇様……」


教皇は、その答えに気がついたかのように、ふと顔を上げて眉間に皺を寄せた。


「……もうすぐ退位する儂を消したい理由……」


教皇はモリスを手招きすると、モリスの額に手を当てた。


「解けかけておるわ……しかし、封印術を再度掛けることは出来ん……。封印術を上掛けしたら、モリスの精神にまで作用してしまう可能性がある……」


モリスは、教皇のそばに跪いて手を取ると顔を見上げながら微笑んだ。


「教皇が、私の特別な魔力を封印してくださったおかげで、ここまで無事に過ごしてこれました……。教皇が退位された後も、お側でお仕えさせていただきます」


教皇は首を振りながら、心配そうな表情でモリスに告げた。


「モリス、私が退位した後はこの国を出なさい。行き先は……私が信用できる司祭に頼んでおく」


「えっ、国を出る……ってことは、この聖堂を出るということですか……?」


「私が退位したら、もうお前を守ることが出来なくなる……。モリス、この魔力は怒りに反応する。まだ幼い頃、おぬしが両親の事情を知って魔力が暴走しかけた時に封印したが……、成長と共に封印は緩んできておった……。何があっても、心を平穏に保つように己を律しなさい……」


「はい……、教皇様……」



♢*♢*♢*♢*♢



その頃のノクタリア国では、国を改革するための法整備が行われていた。


「ノクス様、書類をお持ちしました」


山のような書類が積まれた執務机に向かい、ノクスは必死に書類を捌いていた。


マルコが声をかけると、ノクスは目の下に真っ黒なクマを作った顔でマルコを見上げた。


「あっ、ありがとう……。法務部からの書類か……」


「ノクス様、少し休んでください!昨日も寝てないですよね!」


ノクスは薄く笑みを浮かべると、恍惚とした表情で空を見つめた。


「休んでなんかいられませんよ……。魔王様のご期待に応えねば……ふふふっ……」


(……ノクス様には、絶対にあの方の素性を言ってはいけないな……やれやれ……)


「ノクス様は、なぜそんなに魔王を崇拝していらっしゃるんですか?」


「えっ、魔王様を崇拝する理由ですか?長くなりますが……、マルコは聞きたいのですか?」


「はい、お聞きしたいです。あっ、でも今はお忙しいので、また今度……」


「マルコ、こちらに座りなさい。あっ、メイドにお茶を持って来させましょう」


(やばい……。スイッチを入れてしまったか……)



ノクスはメイドが淹れたお茶を一口飲むと、昔のことを思い出しながら話し始めた。


「私はね、魔王様に救われたんです」


「救われた?」


「私は早くに母を亡くして、すぐに後妻となった王妃から毎日のように暗殺されかけていました……。私には、信用できる者も、助けてくれる者も誰一人いませんでした。メイドでさえ、必要最低限の世話しかしませんでした……」


マルコはノクスを見つめながら心の中でつぶやいた。


(私の幼少期の状況と似ている……。暗殺まではされなかったが……)


「そんな私は、毎日書庫に閉じこもっていました。そこで魔国最後の魔王様の日記を見つけたのです」


(魔王の日記?)


「ヴァンパイア族は、魔王様の側近として最後までそばで仕えていたと言い伝えられています。その日記は、幼い魔王様が書かれたものでした。生まれてすぐに両親と双子の妹を亡くし、生まれた時から1人で、魔国を支えられてきた方です。魔国のことを記す文献には立派な魔王様のことしか書いてありませんが、その日記には……」

 


ノクスが、話しながら流れる涙を拭いて視線を落とした。


「魔王様が誰にも見せることのなかった、本当の心が綴られていました……。さみしさ、不安、そして日々訪れる暗殺者への恐怖……。魔王様の幼少期を記した文献と魔王様の日記を重ね合わせながら読みました……」


(魔王も、俺やノクス様と似たような環境だったということか……)


「同じような状況の中でも、魔王様は最後まで魔の森を守り、人族とほぼ姿が同じヴァンパイア族を外の世界へと送り出し、そして魔王様は魔の森を去りました」


ノクスは、そこまで一気に話すと、小さくため息をついた。


「私は、魔王様が気丈に魔王として小さい頃からみんなの前に立っていたことに……尊敬の念を抱いたのです。魔王でありながら、臣下には決して弱い姿を見せなかったことに……あれほど幼くして、その立場を理解していたのでしょうね……」


(魔の森にあった魔国については、少しだけ聞いたことがあったが、最後の魔王がそんなだったとはな……)




その頃、ルキリアたちは、海兵団の船ではなく、高速船に乗ってガーラ国への帰国の途についていた。


「はっ、はっ、ハクショーン!」


「博士、大丈夫ですか?風邪ひいたんじゃないですか?」


「いや、誰かが私の噂をしている気がする……」


ものすごいスピードで船を走らせているじいちゃんの横で、ばあちゃんは「ヒャッホ~」と喜んでいるのだが、俺たちは博士を連れて船室に戻ることにした……。


(じいちゃんとばあちゃんって……ホントに規格外だよねぇ……)


 

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