52. 謝罪
次の日の朝、俺とモーリーが食堂に入ると、すでに仲直りしたじいちゃんとばあちゃんが、席に着いていた。
「「おはようございます!」」
地底族長と族長補佐も席に着き、昨日訪れたドワーフ村の話を、じいちゃんから聞いているところだった。
「モーリー、ルキリア君、おはようございます。昨日の話を辺境伯から聞いていたところですよ。楽しかったようですね」
モーリーは、族長に何か言いたそうにしていたが、口を開きかけた時に博士が食堂に入ってきた。
「おはようございます……、みなさん早いですね」
博士はカウンターに置かれたコーヒーポットからマグにコーヒーを注ぐと、テーブルの側に来てみんなを見回してから口を開いた。
「今日は、みなさんに提案があるんです」
ばあちゃんは、「提案かえ?」と首を傾げて博士に顔を向けた。
「はい。みんなで魔の森にもう一度行きませんか?地底族長と補佐さんと辺境伯夫人も一緒に」
「「「「「「魔の森に?」」」」」」
族長が、不安気な表情で博士を見上げた。
「……私が、魔の森に足を踏み入れてもいいのでしょうか……」
じっと族長を見つめていたモーリーが、口を開いた。
「将来の地底族長の俺は、入ったよ」
博士は椅子に座ると、族長に微笑んだ。
「族長、前に進みましょう。16代目魔王の私が許可します。それに、デーモン族と戦って、魔国を建国した初代魔王様もここにいらっしゃいますからね」
「「「初代魔王?」」」
(あれ?じいちゃん、そこは省いて話してたのね?)
「ああ……その話はしておらんかったか」
じいちゃんは、誤魔化すかのように、ばあちゃんに作り笑いで笑いかけていたが、ばあちゃんは、「一番大事なところを言っとらんじゃろ!」とじいちゃんの背中をバシバシと叩いていた。
「族長、過去のわだかまりを取り払うためにも、今の魔の森にいる魔族たちに会いに行ってみませんか?」
族長補佐は、族長の背中を擦りながら小さく囁いた。
「族長、行きましょう。モーリー君やみんなのためにも……」
族長は、涙を堪えながらうなずいた。
「そうですね……。博士、みなさん、ありがとうございます……」
(良かった……。魔の森の族長たちと会ったら、気持ちも少し晴れるかな……)
「よし!出発までに昨日撮った写真を早く現像しなきゃ!みんなに写真も見せたいし」
「ガーラ国へ帰国するのは明日だから、今日、行ってみましょうか?族長たちに連絡を入れてみます」
ばあちゃんは、スッと席を立つと「ちょっと化粧を直してくる」と言ってパタパタと食堂を出て行った。
食堂の外から「エルフ族には負けんぞえ〜」と、廊下を走るばあちゃんの声が聞こえた……。
(あぁ……、昨日じいちゃんたちにくっついてた、エルフ族の美女に対抗心を燃やしているのね、ばあちゃん……)
♢*♢*♢*♢*♢
その日の午後、俺たちは転移の魔道具で魔の森の入口に来ると、魔の森の族長たちが揃って待っていてくれた。
「「「お待ちしておりました」」」
エルフ族長、ドワーフ族長、ブラックウルフ族長は、じいちゃんたちの後ろに立っていた地底族長に気がつくと、次々に挨拶をした。
地底族長は、涙ながらに魔の森の族長たち、そして初代魔王のじいちゃん、16代目魔王の博士に、地面に手をついて頭を下げた。
「地底族は許されない罪を犯しました……。過去の族長に代わり謝罪いたします……」
3人の族長たちは、目を合わせてうなずき合い、地底族長の手を取って立ち上がらせてから博士を見た。
そして博士は族長たちにうなずくと口を開いた。
「地底族長、あれから1000年経ちました。もう時効です。そして、この発端は、私の母である王妃が原因です……。地底族長……、本当に……申し訳なかった……」
博士は、地底族長に深々と頭を下げた。
感動して涙を流しているばあちゃんの横で、腕を組みじっと族長たちを見ていたじいちゃんが博士に声をかけた。
「博士、魔の森の族長たちにも今の現状を伝えた方がいいと思うのだが……。デーモン族がこの森に手を出さんとも限らんからな……」
「そうですね……」
エルフ族長が、「あっ、それならば今日は私の村へお越しください」と言うと、ばあちゃんのそばに来て、ベールのような瘴気除けの結界を張った。
「こちらの美しいご婦人は、人族でいらっしゃいますよね?魔の森に入る前に、瘴気除けの結界を張らせていただきました」
ばあちゃんは、エルフ族長の顔を見上げながら、顔を赤らめてポーっとしていたが、じいちゃんが「セイ……」と呆れたようにつぶやくと、ハッと我に返ったばあちゃんが「浮気ではないぞぇ」とブツブツと独り言を言っていた……。
魔の森の入口から転移してエルフ族の村に入ると、そこは真っ白な建物が並び、そしてその中心には、神殿を思わせるような建物があった。
「美しいのぉ~」
ばあちゃんは、胸の前で手を組み、キラキラした目でまわりを眺めていた。
「エルフ族長、この村も、魔王の前世の記憶から作られたんですか?」
「17代目様、良くお分かりになりましたね。この村は、魔王様の前世の思い出の地を真似て作ったと聞いています」
「思い出……ですか……」
(神殿が、思い出の地……?あっ、地底都市の壁にもポセイドンの彫刻があったけど……何か関係あるのかな……?)
「あっ、ブラックウルフ族の村はどんな……」
ブラックウルフ族長が、俺のそばに来て答えてくれた。
「ブラックウルフ族は群れで移動しますが、村は持ちません。この森を警備しながら移動して暮らしています。通常は人型をとっていないので……」
(そうなのか!通常は狼の姿で生活してるのか!)
エルフ族の美女が族長に準備が整ったことを伝えに来ると、小さな小川が流れるそばにあるテラスに案内された。
(ばあちゃん、エルフ族の美女を、じっと見てるよ……)
エルフ族長が防音の結界を張ると、博士は、デーモン族と双子の片割れの妹について話し始めた。
博士の話が終わると、魔の森の族長3人は息を呑み、驚いた表情で博士に質問を繰り出した。
「16代目魔王様が、暗黒世界に送ったデーモン族の血が、この世界にまだ残っているということですね……?あっ、16代目様がデーモン族の魔力を継いでいるということは、17代目様も?」
「いや、ルキリア君にはデーモン族の力は継がれていない。母親がデーモン族の力を持っている場合のみ、子どもに受け継がれるのではと、推測しているんだが……」
博士がそう言うと、ブラックウルフ族長が身を乗り出して博士に尋ねた。
「16代目魔王様、もう一度、デーモン族を召喚したらいいのではありませんか?」
「私もそれは考えたのだが、今の私には、彼らを暗黒世界に送るほどの魔力はないんだ……。それに、デーモン族のすべてが、魔王に恨みを持っているわけではなさそうでね……」
(あっ、デーモン族の印を持つ、第3教皇補佐のことか……。彼は魔王の存在すら知らなさそうだけど……)
じいちゃんが、腕を組みながら口を開いた。
「今、聖エリス国にいるデーモン族の印を持つ者を、一人残らず調べさせている」
みんながそれぞれに無言で考えている間、小川のせせらぎだけが、その場の沈黙を埋めていた。
「あっ、博士、ヴァンパイア族の王妃は……?」
「ヴァンパイア族の王妃がデーモン族なのではないかと調べていたのだが、彼女は聖エリス国で洗脳された、ただの聖女見習いだった。筆頭教皇補佐もデーモン族ではない」
「じゃあ……誰なんだ……」
「んっ?」
ばあちゃんが、何かを閃いたように俺を見た。
「今の筆頭聖女……あの聖女の治癒は、光魔力ではなく時間を遡っておったな……」
(第3教皇補佐は、未来予知……。筆頭聖女は、時間を遡る……)
「未来予知と時間を遡る……。それって、時空魔法……?」
じいちゃんもばあちゃんも、『あること』に気が付いたように眉間に皺を寄せた。
博士が俺を見ながら答えた。
「魔王だけが使える時空魔法……。これは、覚醒していなくても使える……」
「今、私たちに復讐しようとしている者たちは、魔王とデーモン族の両方の力を持つ者……。私の双子の妹の血を引く者だ……」
エルフ族長が小さくつぶやいた……。
「16代目魔王様の双子の妹……王女様……」
魔の森から船に帰ると、レオさんが「お客様がいらっしゃっています」と言って、俺たちを談話室に案内した。
ドアを開けて部屋に入ると、そこには、ギルさんとクリスさんが笑顔で座っていた。
「ギルさん、クリスさん、こんなところまで、どうしたんですか!」
「早く知らせたいことがあって……」
「もしかして、もう調べ終わったの?」
クリスさんは、じいちゃんと博士の顔を見てうなずいた。
「聖堂内でデーモン族の印を持つ者は、第3教皇補佐、筆頭聖女、そして聖堂内では秘密にされていますが、次期筆頭聖女と言われている少女の3人だけが印を持っていました」
「次期筆頭聖女……」
俺とモーリーは、顔を見合わせてうなずいた。
(未来で俺たちを狙う者たちが、判明した……)




