51. ドワーフ村
「「「初代魔王様、16代目魔王様、お帰りなさいませ」」」
ブラックウルフ族長、ドワーフ族長、エルフ族長は、畏敬の念を込めて2人を見上げた。
じいちゃんは、首を傾げながら、「儂が、初代魔王……?誰かと間違っているのではないのか?」と、驚くこともなく、淡々と3人に言った。
3人は、ブンブンと首を振ると、エルフ族長が「失礼いたします」と言って、じいちゃんの目を覗き込んだ。
「間違いございません……。目の中に、古い魔族語の数字で、何代目の魔王かが刻まれております」
博士は、あごに手を当てて、前世の記憶を探りながら小さくつぶやいた。
「そんなものがあったとは……。私は引き継ぎもなく魔王となったからな……」
博士の声を拾ったモーリーは、じっと何かを考えるように博士を見つめていた。
じいちゃんは、腕を組みながら、族長たちに質問を続けた。
「儂の目を覗き込む前に、なぜ儂らが魔王だとわかったんだ?」
エルフ族長が、一歩前に出ると、じいちゃんに答えた。
「これは、それぞれの族長に、代々伝えられることです。魔国建国の際、魔王様と魔族たちは、『魂の契約』を結びました。そしてその契約は代々の子孫にまで受け継がれます。私たちは、その契約がある限り、姿が変わっても魔王様の魂を間違えることはありません」
(魂で判別してるのか……)
「魂の契約とは?」
「魔族は、魔王様に忠誠を誓い、そして魔王様はこの森と魔族を守ることを誓いました」
「なるほど……」
ドワーフ族長が、少し遠慮がちに横から顔を出した。
「あのぉ~、こんなところで立ち話も何ですから……、ドワーフ村にいらっしゃいませんか?ここからすぐのところにありますので……」
「ドワーフ村!?」
俺とモーリーは、すぐに反応した。
じいちゃんは、俺たちを見て呆れたように笑いながら、博士に目で了解を得ると、族長たちに顔を向けた。
「どうやら、孫たちが興味があるようだ。族長たち、お邪魔してもいいだろうか?」
「「「光栄でございます」」」
広場から10分ほど歩くと、小川が流れるそばに結界が張られている場所があった。
「こちらでございます」
ドワーフ族長がドレープのような結界を開いてめくると、俺たちを中へうながした。
(こんな形の結界があるんだね……)
俺たちは族長たちに続いて中に入り木々の中を抜けると、驚くような景色が広がっていた。
「ここがドワーフ村でございます」
俺たちは、辺りを見回して目を見張った。博士は驚いたように目を見開き、じいちゃんは口を開けたまま村の景色を眺めていた。
じいちゃんが、「祭りの櫓……?」
博士も、「提灯……?」
モーリーは、「見たことない真四角な建物だ……」
……と、みんなが呆けた顔をしている横で、俺は目を輝かせながら叫んだ。
「モーリー!ここ、俺が前世で住んでた日本を真似て作られてる!」
前世の小学校のグラウンドぐらいの広場を中心にして、まわりには、1階に店舗が入っている5階建の建物が3棟、そしてその隣には役所と病院だと思われる3階建の建物が2つ並んでいた。
そしてその広場の真ん中には、日本のお祭りのような櫓が建てられ、そしてそのまわりに出店の準備をしているドワーフたちがいた。
「今日は、偶然にも、魔王様に感謝を捧げる、年に一度の祭りの日なんです」
ドワーフ族長は、少し涙ぐみながら俺たちに微笑んだ。
(ドワーフ族長、嬉しそうだ……)
「いろんな出店がある!見てきていいですか!」
俺は興奮気味にモーリーの手を引いて、準備中の屋台を見てまわった。
出店を見てから戻ると、エルフ族長は、じいちゃんと博士に声をかけた。
「17代目様も、前世の記憶がおありなんですね……」
(えっ、俺、17代目って呼ばれた……!? あとで鏡で目を確認しなきゃ……)
モーリーは、「んっ?」と、首を捻ってからエルフ族長に質問した。
「エルフ族長、目に数字が刻まれるのは、いつなんでしょうか?」
「目に数字が刻まれるのは、魔王様の力が覚醒した時です。兄弟がいらっしゃっても、力を覚醒するのは、そのうちの1人だけだと聞いています」
(……ということは、博士の双子の片割れであるシエラさんが覚醒したのは、デーモン族の力だけ……)
部下に呼ばれて櫓の方にいたドワーフ族長が、戻ってくると、博士は族長に質問した。
「ドワーフ族長、なぜドワーフ村はこのようになっているんでしょうか?私たちの前世の世界を模したような……」
「あら?16代目様は、ここにいらしたことはなかったですか?この村は、前世を懐かしむ魔王様のために、その時々の魔王様が話してくださる前世の物をこの村で作って、懐かしんでいただいていたのです」
「魔王となる者は前世の記憶を持つとは聞いていたが……。私はここに来た記憶はないな……。小さい頃は、ヴァンパイア族長が俺のそばにいた記憶しかない。俺の妻もヴァンパイア族だったしな……」
「そうでしたか……。それなら是非とも、今日これから行われる『お祭り』を楽しんでいってください」
俺たちは、ドワーフ族長の家で、昼食に『山盛り魔獣肉うどん』をご馳走になった後、族長夫人が準備してくれた浴衣に着替えた。
「おぉ〜、モーリー、似合うよ!」
「そうか?涼しくていいな、これ!」
じいちゃんと博士も、浴衣に着替えていた。
「おじいさまも博士も、まったく違和感ないです!でも、よくおじいさまのサイズの浴衣がありましたね?」
ドワーフ族長の横にいた族長夫人が、俺の疑問に答えてくれた。
「この浴衣は、魔王様のために仕立てたものなんです。いつ魔王様がいらっしゃってもいいように、毎年必ず準備するんですよ」
(来るかどうかもわからない魔王のために……。魔王は、魔族たちに愛される存在だったんだな……)
「魔王は、みんなから愛されてたんですね……」
少し日が陰ってくると、櫓から笛の音が聞こえてきた。そして太鼓と笛の音に合わせて、村一番の歌い手が、盆踊りの歌を歌い、浴衣を着たエルフ族とブラックウルフ族も櫓のまわりに輪を作り、みんなで盆踊りを踊った。
「モーリー、踊り上手だね!」
「お祭り、楽しいな!」
じいちゃんと博士も、エルフ族の美女たちに手を引かれて盆踊りの輪に入った。
そして祭りの締めくくりに、全員で記念撮影をした。
「族長、今日はとっても楽しかったです!」
モーリーも名残惜しそうに、櫓の方を振り返った。
「族長、また来ていいですか!次来る時に、今日撮った写真を持ってきます!」
じいちゃんも博士も、とても満足そうな笑顔で手を振ると、結界を出た場所から船に転移した。
帰りが遅くなった俺たちを、ばあちゃんとレオさんが食堂で待っていた。
「「ただいまぁ〜!」」
ばあちゃんは、俺たちの声に振り向くと、「無事じゃったか!」と駆け寄ってきた。
「少し遅くなると、魔信便を送ってあっただろう」
ばあちゃんは、俺たちの浴衣姿を見て、「なんで浴衣なんじゃ?」と首を捻った。
「今日はね、魔の森にあるドワーフ村のお祭りに参加してきたんだ。その時に、浴衣を着せてもらっ……」
俺が最後まで言い終わる前に、ばあちゃんは、じいちゃんをじっと見てから、もの凄い怒りの魔力を溢れさせた。
「ハン……。浮気してきたのかのぉ……。かなり女臭いぞえ」
(あっ……、エルフ族の美女たちが、じいちゃんと博士にベッタリくっついてたから……)
「浮気など……しておらん……」
じいちゃんは、ばあちゃんから目をそらして、助けを求めるような目で俺を見たが……。
俺とモーリーは、苦笑いでじいちゃんに答えるだけだった。




