47. 地底族長の涙
ダリオン国のガーランド港に入港して、入国許可が下りた俺たちは、すぐに族長たちを探しに船を降りた。
しかし、港中を走り回っても見つけられず、疲れ切って埠頭に座り込んでいた。
「じいちゃんたち、どこ行ったんだよ……」
なんの気配も無く、『ポン』とモーリーの肩を誰かが叩いた。
「あら、こんなところでどうしたんですか?」
「「ヒィーー!」」
族長たちは、突然、俺たちの後ろに現れた。
「じいちゃん!びっくりしたよ……。もう、心臓が止まるかと思ったよ……。あっ、ところで、じいちゃん、なんでここにいるんだ?」
族長は、いつも通りの穏やかな表情で答えた。
「んっ?モーリーの記録玉の気配が、この国にあったので、探し回っているところですよ」
族長補佐もうなずきながら答えた。
「探していた記録玉は二つだったのですが、もうひとつが、なかなか見つからなくて……。それで初心に戻って地中を探索していたら、古い地下道を見つけまして……、あっ……」
族長補佐が、口ごもっていると、族長が代わりに続けた。
「……実は、その地下道で、大量の古い記録玉を発見したのです。私もまだ全ては確認していませんが……」
「古い地下道……」
「古い記録玉……。もしかして、俺の推測が当たってたのか……?」
(謎解きが……こんなにタイミング良く……。本当に偶然なのか……?)
俺は、闇の中に散らばっていたパズルのピースが、一つずつ集まり始めたような気がして、少し怖くなった……。
そして、族長たちと合流した俺たちは、とりあえずみんなで船に戻ることにした。
「地底族長、お久しぶりです」
「レオ殿、お久しぶりですね。さらに真っ黒に日焼けをして、地底人と見分けがつかなくなっていますよ」
族長は、フルーラ辺境伯海兵団の団長が、土魔法で船を動かしていると聞いて海兵団を見学に来たことがあり、その時にレオさんと意気投合していたのであった。
「族長は、どうしてこちらへ?」
「探し物をしていたらこの国まで来てしまったのですが……、あっ、レオ殿、帰国する時に、私たちも乗せていってくれませんか?長く旅を続けてきましたが、一旦私たちも地下都市に戻ろうと思います」
レオさんは、ニコニコと大きくうなずいた。
「族長、船室は空いていますので、すぐに部屋を整えます。モーリー君たちは、この船に宿泊する予定なので、族長たちもぜひ」
族長補佐が後ろからひょっこりと顔を出した。
「レオ殿、助かります。宿泊施設周辺はあまり治安が良くなくて……、街の住人の気性が荒いといいますか……」
「じいちゃん、そんなに治安が悪いの?」
「あまり良い感じでは無いですね……」
族長に同意するように、レオさんが俺たちに、なぜ船で来たかを説明してくれた。
「今回、船でこの国に入った理由がそれです。転移門を通って来た方が早いですが、地上は野盗がはびこっていて、旅行者は格好の獲物にされますから……」
(そんなに治安が悪いのか……)
レオさんが、船室の準備のために部屋を出ていくと、部屋はシーンと静まり返った。
モーリーは、言葉を待つように、族長の何か言い淀んでいるような表情をじっと見ていた。
そして、族長は少し悩んだ後に、マジックバッグから、地下で拾ったという記録玉を取り出した。
「こんなにたくさん……」
「私もすべては見ていませんが……」
モーリーは、じっと族長を見つめてから口を開いた。
「じいちゃん、その記録玉には何が映ってたんだ?」
族長は、言葉を選びながら、俺たちの目を見て静かに口を開いた。
「この時代の族長が、黒髪と紅目を持つ女性を監視している記憶でした……」
「黒髪と紅目……?監視……」
「まさか……」
俺とモーリーは顔を見合わせた。
そして、モーリーは、俺にうなずくと、部屋に防音の結界を張った。
「じいちゃん、俺たちがこの国に来た理由を、今ここで話してもいいかな?その記録玉に関係があることだと思う……」
「モーリー……、わかりました。ここで話を聞きましょう」
俺たちは族長に、魔王の双子の片割れの妹のこと、そして今わかっていることをすべて話した。
「そうでしたか……。それでダリオン国に……」
族長は、しばらく目を閉じたまま動かなかった。
そして、やがて肩を震わせると、静かに涙を流した。
「少し……頭を整理してきます」
そう言って、族長は一人で部屋を出ていった。そして心配そうに見ていた族長補佐も、そっと後を追っていった。
「じいちゃんは、俺らの話と記録玉の記憶を合わせて、何かが紐解けたみたいだな……」
「もうこの謎は、俺たちだけじゃない……みんなが絡んできている……」
「そうだな……記録玉は、帰国してから、みんなで見たほうがいいな……」
「そうだね……」
♢*♢*♢*♢*♢
次の日から数日、族長は体調を崩して船室から出てこなかった。
「モーリー、族長の体調は大丈夫なの?」
「あぁ、旅の疲れと精神的なものらしいよ。族長補佐がついてるから大丈夫だと思う。それに、辺境伯夫人のポーションも飲んだしな」
「帰国したら、すぐに博士に見てもらおう」
「あぁ……、博士にも一緒に記録玉を見てもらいたいしな……」
モーリーは、沈んだ表情で海を眺めていた。
(色んな情報が、一気に目の前に現れて、モーリーも不安がってる……。今度は、俺がモーリーを支える!)
「モーリー、俺たちは、今出来ることをやろう。おじいさまが言ってた『三角州』を調べに行くよ」
パッと顔を上げたモーリーは、何かを切り替えたように、俺の背中をバシバシと叩いた。
「そうだな……。行くか!さすが俺の親友だな!」
(モ、モーリー、痛いんだけどな……)
俺たちは、場所を知るオウルさんと一緒に、三角州のある川のそばに転移してきた。
「ここがガーランドの三角州か……」
「あっ、モーリー、あの真ん中の島に行ってみよう」
三角州の真ん中にある島に移動すると、そこは一面が真っ赤な花で埋め尽くされた場所で、俺たちは神秘的な花の香りに包まれた。
「……すごいな」
「うん……。なんて言う花なんだろうね……」
呆然と立ちすくんで一面の花畑を眺めていると、遠くで花を摘んでいた親子が声をかけてきた。
「綺麗な花畑でしょう」
「はい……すごく綺麗で……」
「この花には言い伝えがあって、悩んだ時にこの花を飾ると時間を遡れるって言われてるの……。御伽話だけどね……」
(時間を遡る……)
「あっ、この花畑は、誰かが世話をしているんですか?」
「いいえ……ここに自生している花なの。昔はここには貴族の屋敷があったみたいなんだけど、火事にあったとかで……」
「「火事……」」
「その貴族の名前はわかりますか!」
俺の大きな声に、驚いた子供が泣き出しそうになり、俺はあわててポケットにあったキャンディを手渡した。
「ごめんね、大きな声を出して……」
子供がにっこり笑って、俺にキャンディのお礼を言うと、母親が思い出したように口を開いた。
「たしか……、この花と同じ名前だったような……」
「この花の名前って……」
「ガーランっていうお花よ」
「「ガーラン……」」
俺はリキータが、『三角の土地』という意味の他に、ガーランという花の名前を見つけたと言っていたのを思い出した……。
花畑で会った親子と別れた後、俺たちは、この島にあった火事で消失した屋敷の跡地を探すことにした。
「どの辺りに屋敷はあったんだろう?」
「あっ、ちょっと待って。俺が探索するわ」
モーリーは、地面に手を当てて目を瞑った。そして目を開けると、眉間に皺を寄せながら、小さくつぶやいた。
「……なんだ、これ?」
「モーリー、なにか見つけた?」
モーリーは立ち上がると、「こっちだ」と言って、走り出した。
俺はモーリーの後ろを追いかけていくと、何かがつま先に引っかかって、顔からべちゃっと地面に転んだ。
「痛い……」
「大丈夫か?ルキリアが転ぶの初めて見た」
モーリーは笑いながら近づいてきたが、俺の足元を見ると表情をこわばらせた。
「ルキリア、ここだ……」
俺が足を引っかけたのは、地下に入る扉の、輪のような取っ手部分だった。
「開けてみようか……」
モーリーが取っ手を引っ張ってみたが錆付いていて扉は開かなかった。
俺は辺りを見回して人がいないことを確認してから、火魔法の熱で錆びついた蝶番を焼き切って、扉を外した。
「階段があるな……。入るか……」
「うん、入ってみよう……」
階段を降りると、簡素なベッドと机だけがある、小さな部屋だった。
「モーリー、ここは火事になった屋敷があった場所なんだよね……?」
「あぁ……。たぶん、俺もルキリアと同じこと考えたよ……」
「族長に、ここは見せたくないね……。あっ、魔道写真機で、写真だけ撮っていくよ」
俺が部屋の中の写真を撮っていると、モーリーが何かを持って俺に振り返った。
「ルキリア、これ……」
「日記……?」
年月が経ち、紙をめくるとボロボロと崩れそうな日記を、モーリーは慎重に手に持ち、保存魔法を掛けてからマジックバッグにしまった。
そして俺たちは、口を開くことなくそのまま船に戻った。




