46.ダリオン国
フルーラ辺境伯領に帰る日、俺たちは聖エリス国の国境にある転移門で足留めされていた。
「えぇ〜!なんで転移門使えないんですか!」
「聖エリス国の転移門使用許可名簿に、君たちの名前はないからな。使用は出来ない」
モーリーは、ガーラ国王から発行された許可証を門番たちに見せたが、彼らは俺たちが転移門を使うのを頑固に許可しなかった。
(どういうこと……?)
門番に抗議していると、大きな黒い人影が俺たちの後ろに現れた。
「儂の孫たちの許可証に何か不備があるのか?」
「おじいさま!」
「辺境伯!」
門番たちは、突然現れた隣国の有力貴族に明らかに動揺していたが、すぐに転移門の管理長が前に出てきた。
「大変申し訳ありません。手違いがあったようです」
管理長は、深く頭を下げると、門番たちに目配せした。
門番たちは、それに気がつくと、転移門を起動させ、俺たちをチラチラと見ながらも何も言わずに門を通した。
ガーラ国側の転移門に到着した俺たちは、すぐに転移の魔道具で王都のタウンハウスに移動した。
「おじいさま、ありがとうございました」
「辺境伯、ありがとうございます。でも、なんで俺たちが足留めされてるってわかったんですか?」
じいちゃんは、タウンハウスの談話室に防音結界を張った。
「聖エリス国にいる者たちから、報告が入った。筆頭教皇補佐が、お前たちを足留めするように指示したとな」
「筆頭教皇補佐……」
「それと……、シャーロット博士からも話を聞いた」
「博士から?」
「あぁ……。辺境伯城に来られてな、すべて聞いた。お前たちを心配してのことだ」
(博士……)
「ダリオン国には、オウルとレオが同行する」
「えっ、レオさんも?」
「商船を護衛という名目で、うちの海兵団を同行させることにした」
(大がかりなことになってしまってる……)
モーリーが、じいちゃんに頭を下げた。
「辺境伯、ありがとうございます……」
じいちゃんは、ふふっと笑うと、モーリーの肩に手を置いた。
「モーリー、地底族は儂らの家族同然だ。それに、儂は地底族に命を救われたからな。こんなもんでは、命を救ってもらった礼には、まだまだ足りん」
そして俺たちはフルーラ辺境伯城に転移して、3日後の出航まで、準備を進めながら過ごすことにした。
「お、おばあさま……。腕を離してくれないと……、風呂に入りたいので……」
ばあちゃんは、俺が城に帰ると、ず〜っと腕にしがみついたままでいた……。
「セイ、いい加減にせんか!」
ばあちゃんは、口を尖らせてじいちゃんをにらみ付けた。
「我もダリオン国に行きたい……」
じいちゃんは、大きくため息をつくと「今回は駄目だ」と首を振った。
「おばあさま、今回は調べたいことがあるから、少人数の方が動きやすいんだ。10日ぐらいで帰ってくるから、少しだけ待ってて……。あっ、おばあさま、俺、『あんみつ』食べたいな!」
ばあちゃんは、拗ねてうつむいていたが、『あんみつ!』と顔を上げると「待っておれ!すぐに作るぞぇー!」と調理場へ走っていった。
じいちゃんは、ふう〜っと息を吐いて、背中を椅子にもたれた。
「ルキリア、ダリオン国には何を見つけに行くつもりだ?」
「おじいさま、これを見てください」
俺は、クリスさんが念写紙に写したデーモン族の印と、学院の敷地内にあったガーラン公爵家の屋根の一部の写真を、じいちゃんの前に置いた。
(昔からこの世界にあった写真機を改良して、超キレイな画像を写せるようにしたから、ハッキリ紋章が見えるな。あとで、みんなの集合写真を撮って、ばあちゃんにプレゼントしよう)
「これは?」
「クリスさんが第3教皇補佐の闇魔力の中に見たデーモン族の印と、学院の敷地の外れで見つけたガーラン公爵家の屋根にあった紋章です」
「まったく同じ絵柄だな……」
「学院の土魔法クラスに、魔法陣に詳しい友達がいるんです。その子が紋章の文字を読み解いてくれて、『ガーラン』は『三角の土地』って意味らしいんです」
「三角の土地……」
「そしてその紋章は、ダリオン国の貴族の紋章に似てるって言ってました」
「たしかに、このような紋章が多いな……」
「ガイにも聞いてみたんですが、『ガーラン』という場所は知らなくても、『ガーランド』という港はあるそうなんです。だから俺たち、その港を調べてみようと思って」
「なるほど……」
「あっ、あと、おじいさま……」
「ルキリア、落ち着け。どうやら儂に内緒だったことがたくさんあるらしいな……」
「あっ……」
じいちゃんは、腕を組みながら、ふふっと笑った。
「ルキリアが、儂らを心配させまいとして、内緒にしたのは分かっている。心配するな……、お前が辺境伯当主を継ぐまでは、儂は死なん」
「おじいさま……」
「ルキリア、あとは何だ?全部吐き出せよ」
そして俺は、連れ去られた双子の片割れが、ダリオン国のメナード辺境伯領の孤児院に預けられたのではないかと、モーリーが推測したことを話した。
「なるほどな……。全てがダリオン国に集中したのか……」
「はい、双子の片割れは、ダリオン国と関係があるように思います」
「わかった。孤児院に関しては儂の方で調べてみよう」
「おじいさま、ありがとうございます」
「あとな……、儂が『三角の土地』と聞いて頭に浮かんだ場所がある。ガーランド港付近の三角州だ。お前たちは、そのあたりを調べてみろ」
「三角州……!わかりました、先に書庫で調べてみます」
俺が書庫へ駆け出した後、じいちゃんが小さく呟いた。
「あいつは、ルークにそっくりだ……。血は繋がっておらんがな……」
俺たちは、ダリオン国に出航する日を迎えた。モーリーのお父さんも、モーリーを見送りに港まで来ていた。
「親父、そういえば、じいちゃんからは連絡入ってるの?」
「最近、連絡が無いんだ……。こちらから連絡しても返答が無くてな。まぁ、族長のことだから大丈夫だとは思うが……」
「魔道通信機が、繋がらないところに行ってるのか?」
(んっ? 魔道通信機が繋がらない場所……?)
「そろそろ乗船してください。出航します」
船から降りてきたレオさんが、埠頭から俺たちを手招きした。
俺たちは、商船ではなく、レオさんの海兵団の船に乗ることにした。
タラップを上っていると、ばあちゃんが何か大きな箱を持って、俺たちの後ろを駆け足で上がってきた。
「ルキ、これを持っていきなさい」
そう言うと、ばあちゃんはじいちゃんに怒られながら地上に降りて行った。
「なんだろう、これ?」
岸壁から船が離れると、操舵室に席を作ってもらった場所で箱を開けた。
「……すげーな」
「ばあちゃん、寝てないな……」
箱の中にはぎっしりと『最高級ポーション』が入っていた。
外海に出て操舵を交代したレオさんが、俺たちのところに来て箱をのぞくと、驚いた顔で目を見開いた。
「すごい数ですね……。セイ様のポーションは、久しぶりに見ました。今ではなかなか手に入らない、セイ様の最高級のポーションですよ」
(ばあちゃん、ありがとう……)
船がフルーラ辺境伯領の港を出てから3日目の朝、ダリオン国の港が見えてきた。
「おぉ~!ダリオン国の港だ!」
「あれが、ガーランド港……」
レオさんが双眼鏡で何かを見つけたように首を捻った。
「あれ?埠頭で『イカ焼き』を食べている2人って……」
「レオさんどうしたの?」
双眼鏡を受け取って覗いたモーリーは、口を大きく開けて叫んだ。
「うそぉ~!なんでそこにいるんだ、じいちゃん!」
(えっ、族長?なんで、ダリオン国?)




