45. 双子の片割れの隠し場所
俺たちは、じいちゃんたちが帰った後、談話室のソファに寝転がって、情報を整理していた。
「聖女は、時間を遡る力を持っているんだよね……」
「デーモン族は、精神を縛る楔を持ってるな……」
「聖女の力も普通じゃないし……。聖女って、デーモン族なのかな……?」
答えの出ない問いに二人でごろごろしていると、ルーピンがギルさんとクリスさんを案内して、部屋に入ってきた。
「えっ、どうしたの!」
「辺境伯からの依頼よ」
(じいちゃんから……?)
ギルさんとクリスさんがソファに座ると、ルーピンがタイミングよく、ばあちゃんが帰る前に作っていってくれた『盛りだくさんフルーツ入りあんみつ』を運んできた。
「うわぁ!うまそう!」
「えっ!『あんみつ』よね、これ!」
「クリス……」
ギルさんが、残念なものを見る目でクリスさんを見た。
「あっ、ごめん、兄様……」
(クリスさん、仕事は完璧なのに……)
「クリスさんって、もしかして……、前世持ちですか?」
「実は、そうなの……」
「前世で何をしてたか聞いてもいいですか?」
「医者だったわ……外科医だった」
「えっ、外科医ってなに?」
「魔法の無い世界だったから、物理的に千切れた腕を縫い付けたりするのよ」
モーリーのスプーンを持つ手が、一瞬止まった……。
「千切れ縫い付け……。ま、まぁ、俺たちのまわりには前世持ちが何人かいるしな。もう、そんなに驚かないよ。……で、辺境伯の依頼って、何ですか?」
「俺たちは、ガーラ国王から、君たちの護衛と監視を依頼されてこの国にいるんだけど、辺境伯からは、君たちの調査に付き合ってやってくれって正式に依頼がきたよ」
「私たちが一緒の方が安心だからって言ってたわ」
(じいちゃんは、俺たちが何かしようとしてるの気が付いてるんだよね……。でも博士の秘密は言えないからなぁ……)
モーリーは、俺を見ると小さくうなずいた。
「それなら話が早い。俺のループには『時間を遡る魔法』を使う聖女が絡んでると思うんだ……。ギルさんとクリスさんで、聖女たちの中にその力を持つ者がいないか、探ってもらえますか?」
「確かに、そこから調べるのがいいわね……。わかったわ、兄様と私は、聖女たちを調べてくるわね」
ギルさんは、うなづきながら2杯目の『あんみつ』をルーピンから受け取った。
「君たちは、何を調べるつもりだい?」
俺が答えようとするより早く、モーリーが口を開いた。
「俺たちは、魔道具を作るよ」
「「魔道具?」」
「地下都市を守る魔道具」
(なるほど……!)
「学院の土魔法クラスの先生が、魔道具に詳しいんだ。先生にアイデアをもらいながら、地下都市を守る防衛用の魔道具を作ろうと思ってる」
ギルさんがガタッと立ち上がり、目を血走らせてモーリーに詰め寄った。
「モーリー君! 俺もその魔道具作りに参加させてくれないか! 地下都市の防衛機構なんて、男のロマンじゃないか!」
クリスさんは呆れた顔でギルさんの襟首を掴んだ。
「兄様、出たわね、魔道具オタク……。私たちは聖堂の調査よ、行くわよ!」
ギルさんは引きずられるようにして帰っていった。
「……嵐のようだったね」
俺たちは、おかわりしたあんみつを堪能した後、博士の双子の片割れについて話していた。
「博士の双子の片割れ……地底族長はどこに隠したのかな……」
「消去法でいくと、聖エリス国ではないな……妃の実家のガーラン公爵家があったからな……」
「獣人国のエビータ国は?」
「ん〜、それもないな。耳や尻尾がまだくっついてる獣化した者が多い時代だから、隠しづらい」
(北のノクタリア国は、まだ建国されてなかったし……)
「あっ、モーリーだったら……、どこにその子を隠す……?」
「えっ……?……俺だったら……?」
モーリーは、うなりながら考えていたが、何かを思いついたように、寝転がっていたソファから勢いよく起き上がった。
「……ダリオン国。俺なら、ダリオン国に隠す」
「えっ……ダリオン国?」
「地底族に国境は関係ない。ガーラ国は、魔王の臣下の竜人族がいるからガーラ国には隠さない。しかしダリオン国は、魔の森の隣にあって、地底族はすでにダリオン国側にも地下道を掘っていたはずだ。ダリオン国なら、赤ん坊を連れ出してからすぐに隠すことができる」
「待って……、その頃の地底族は、魔道具も無いから地上で子供を育てられない……。あっ、孤児院か……」
「俺もそうだと思う。孤児院に預けた可能性が高い……」
「ダリオン国の孤児院か……すべてを調べていくのは、難しいな……」
「いや……、たぶん……ガイの実家、メナード辺境伯領だと思う。そこなら、魔の森と隣接してるしな……。それに、赤ん坊を連れて長距離の地中移動はしないはずだ……」
「メナード辺境伯領……。たしかに、可能性は高そうだね……」
♢*♢*♢*♢*♢
「う〜ん……、地下都市の防衛……」
俺たちは、土魔法クラスの教室で腕を組みながら、地下都市を防衛する魔道具のアイデアを練っていた。
「どうしたんじゃ?」
土魔法クラス担当のカサド先生が、俺たちに声をかけてきた。
「俺の家のまわりを、どんなものからも守れるような魔道具を作ろうと考えていたんですが……なかなかアイデアが思いつかなくて……」
「『モーリー君の家』かね?」
「はい、『俺の家』です」
(先生、モーリーが地底族ってわかってるね)
「……結界で覆うのがいいと思うが、魔力消費量が半端ないからのぉ……」
話を聞いていたリキータさんが、俺たちの話に入ってきた。
「魔法陣は?」
「なるほど……。魔法陣と魔道具を組み合わせるのも面白いかもしれんのぉ〜」
先生はモーリーの肩をポンと叩いて、「アイディアが浮かんだら教えてくれ」と言い残して、ダニエルとサラが作業しているテーブルに移動した。
「あっ、貴方たちに知らせたいことがあったのよ」
リキータさんが、俺たちの近くにあった椅子を引っ張ってきて座ると、ノートを広げた。
「どんなこと?」
「この間調べた紋章のことなんだけど、あの文字の意味を調べてみたの」
「えっ、ただの家名じゃないの?」
「家名だと思うわ。でも家名にも意味があることがあるでしょう?」
「意味があったの?」
リキータさんは、得意気にうなずいた。
「いろんな国の言語で当てはまるようなものを探してみたんだけど、ダリオン国の古い言葉にガーランていう言葉があったの」
「ダリオン国?」
「ええ、その古い言葉よ。『三角の土地』っていう意味らしいわ。あと……、花の名前でガーランってのが、あったけど……」
「「三角の土地と、花の名前……」」
「それにね、あの紋章、ダリオン国の貴族の紋章に似てたのよ。家名と複雑な絵柄を組み合わせる感じがね。だからダリオン国の貴族の紋章なのかなって……」
「マジか!リキータさん、君、凄いね!」
(リキータさん、ここを卒業したら、クリスさんの商会に推薦したほうがいいかも……)
俺たちは帰宅すると、すぐに竜人の谷にいるガイに魔道通信機を使って手紙を送った。
数日後、ガイから、近況と質問の回答が綴られた返信が届いた。
「ガイ、伯父さんに毎日の訓練でしごかれてるって書いてあるけど、すごく元気そうだ!」
「竜人の谷は、ここの2倍の速さで時間が過ぎてるから、もう半年近く修行してることになるな。……で、ガイからの回答は?」
「ガーランっていう場所は知らないけど、『ガーランド』っていう名前の港があるって書いてある」
モーリーは、目を光らせて俺にうなずいた。
「ルキリア……」
「うん、行ってみよう……」
俺は、じいちゃんに許可を取るためにすぐに魔信便を送った。
じいちゃんからは、一度フルーラ辺境伯城に帰って、そこから船でダリオン国に行くように手配すると返信があった。
(じいちゃんは、俺がやりたいって言ったことを、すべて応援してくれて手助けしてくれてる……。じいちゃん、ばあちゃん、俺、これが解決したら、絶対に辺境伯当主するから……もう少しだけ……)
そして、図書館でダリオン国について調べながら、もうすぐ始まる学年末春休暇にダリオン国へ向かうための準備を進めていった。




