44. 双子の片割れ
俺たちは、その日の夜、博士にガーラン公爵家の紋章を見つけたことを魔信便で知らせると、すぐに屋敷に飛んで来てくれた。
「君たち、危険なことはしていないだろうね?」
「博士、危険なことをするつもりは無かったんですが……。ただ、偶然いろいろ見つかってしまって……」
「そうなんだよな……。まずはクリスさんが、第3教皇補佐の闇魔力にデーモン族の印を見つけて、次に学院の敷地内にガーラン公爵家の紋章の付いた屋根を見つけて……、そこに地底族の残留魔力が残っていることも判明した、って流れです」
博士が、うなりながら腕を組んだ。
「地底族が、ガーラン公爵家の屋敷を地中に落としたのは確かだ……」
「……マジか……」
「そして俺はデーモン族の血を全て消し去るために、魔法陣を使ってデーモン族の魔力を持つ者をすべて召喚して、そのまま暗黒世界に送ったんだが……」
「魔法陣?」
「見落としを防ぐために、魔法陣で一斉召喚した」
「じゃぁ、デーモン族の血は残っていないはずだよな……」
「どういうことなんだろう……。えっ、待って……」
「どうした?ルキリア、何か思いついたか?」
「博士、もし、デーモン族の魔力を隠してる人がいたとしたら……、その人は召喚されますか?」
「魔力を隠していることも想定して、その魔法陣を作ったから見落としは無いはずなんだが……」
「あっ、博士、暗黒世界に飛ばされた者はどうなるの?」
「すべて消滅する」
(消滅するってことは……、何もかもが無になるってこと……)
モーリーは、ソファに座り直すと、博士をじっと見つめてから口を開いた。
「博士……、ルキリアから話を少し聞いたけど、1000年前のこと、詳しく教えてもらえますか?どうしても引っかかることがあるんです……」
「引っかかる?」
「はい……。博士の話を聞いて、まだ引っかかってたら、お話しします」
モーリーは、真剣な表情で博士に頭を下げた。
「わかった……。さて、どこから話すかな……」
博士は、お茶を一口飲むと、長い脚を組み替えて、昔にあった出来事を思い出そうとしているかのように上を見上げた。
「大昔、魔族たちが、魔の森に魔国を建国しようとした際、魔国の王を決める戦いで、その時一番力を持っていた初代魔王とデーモン族の長が戦って、魔王が勝利した」
(魔国は、魔族をまとめるために作った国だったのか……)
「しかし魔王に敗れたデーモン族長は、魔の森で暮らすことはせずに、皆を連れて森から出て行った……それが始まりだ」
「なるほど……、それで魔王を陥れて、魔国を自分たちのものにしようとしたんですね……」
博士はうなずくと、話を続けた。
「それからデーモン族は、聖女崇拝の教団を支援して聖エリス国の建国を助け、ガーラン公爵家として聖エリス国に隠れ住んでいた」
(あの学院の敷地は、ガーラン公爵家の屋敷があった場所だった……)
「そしてデーモン族の娘を聖女として祭り上げ、私の父である先代魔王と婚姻を結ばせ、父をデーモン族の能力で洗脳し、その妃は、宝石や貴重な鉱石の採掘のために……地底族を奴隷のように使役した」
モーリーは、ぐっと拳を握った。
「そして……、その妃は、抗議しに来た身重の族長の妻を殺した……」
「殺した……」
博士は重々しくうなずいた。
「あぁ……、そして地底族長は、妻とわが子を殺した復讐として、妃が出産したばかりの双子の内の一人を殺した。1000年前の私の双子の妹だ……」
「それから、その妃は?」
「妃は、双子を出産してすぐに亡くなった。そしてデーモン族の能力で縛られていた先代魔王も、同時に亡くなった」
(術者が亡くなったら、能力で縛られた者の命も消えるのか……)
「それから地底族長と幹部たちは、身を隠しながらデーモン族の仕業だったことを突き止め、ガーラン公爵家の者たちが全員集まっていた時を狙って、地面を大きく裂いて屋敷を地中に落とした」
(怒りの気を含んだ魔力……)
「その後、地底族は、俺の前に姿を現して、デーモン族に復讐を果たした事を告白した。そして俺は、生き残っているすべてのデーモン族を召喚して、暗黒世界へ送った」
「その後、地底族はどうなったんですか?」
「すべてのデーモン族を暗黒世界に送った私には、地底族を並行世界へ送る力が不足していた。それで、私の息子であった、魔国にいた頃のルキリア君が、族長と幹部たちを、妃となった聖女が存在しない世界に連れて行った」
「えっ……」モーリーは、目を見開いて俺に振り返った。
(あっ……、そのことは、モーリーに話してなかったな……)
「モーリー君、これで全部だ……。引っかかりは無くなったかい?」
「……博士、引っかかりは……消えなかったです」
「どの辺かな?」
「地底族長は、双子の片割れを殺していないと思います……。地底族は、その赤ん坊を連れ去ったのかもしれない……。けど、殺してはいないと思う……」
「連れ去っただけ……?どうしてそう思う?」
「地底族は、基本的な性格は穏やかなんだ。そして……族長を継承する時、必ず宣誓して誓いを立てる、『女子供を守る』って……」
「なるほど……。誓いか……」
そしてモーリーは、姿勢を正すと、じっと博士の目を見た。
「博士……、母親がデーモン族だったってことは、博士にもデーモン族の印がありますよね……?そして、双子の妹にも……」
モーリーの言葉に、博士の顔から血の気が引いた。そして博士は、自分の推測に呆然と固まった。
「まさか……!双子の妹が、デーモン族の、たった一人の生き残り……」
♢*♢*♢*♢*♢
次の日の朝、俺たちはグリモード家の訓練場で、モヤモヤした気持ちを発散させようと、いつも以上に動いていた。
「2人とも、今日の訓練は力が入っているわね」
俺たちが汗を拭いていると、クリスさんが話しかけてきた。
「もう少ししたら、ここに……、あっ、もういらっしゃったわ!」
訓練場の入口に、なんとじいちゃんとばあちゃんが立っていた。
「おじいさま!おばあさま!」
「ルキ、モーリー、今日は突撃授業参観じゃ」
俺たちは、久しぶりにじいちゃんの気合いの入った特訓を受けて、くたくたになった後、訓練場の上にある商会の応接室に上がった。
「クリスちゃんの治癒魔法は、素晴らしいのぉ。あの短時間で、あれだけの千切れを治癒するとは!」
「夫人、褒めていただきありがとうございます。でも、夫人の偉業には、まだまだ追いつきません」
(えっ……、ばあちゃんの偉業?)
「おばあさまの偉業って?」
クリスさんは、うなずきながら続けた。
「夫人はね、ガーラ国で疫病が蔓延した時に、すぐに魔法薬を開発して、聖堂の聖女たちを引き連れてガーラ国と近隣諸国をまわって疫病を収束させたのよ」
(ばあちゃん、凄い!)
「まだ、若かったからのぉ~。しかし近隣国までまわれたのは、ハンが護衛として我についてきてくれたからじゃ……」
じいちゃんは、なつかしそうにしながら、ばあちゃんに顔を向けた。
「あの頃の近隣国は、荒れていたからな……。セイは、あの旅で攻撃魔法を習得したな……」
「そうじゃった……。ハンにいつも怒られて、悔しくてな。必死で習得したのじゃ」
(あぁ、目を見合わせて……。じいちゃんとばあちゃんは、ケンカもするけど、仲がいいなぁ……)
俺は先日の話を思い出しながら、ふと疑問を口にした。
「あっ、おばあさま、聖女の治癒魔法って、みんな同じですか?」
「んっ?同じとは?」
「この間、クリスさんと聖女の治癒の仕方が少し違っているってことを話してて……」
ばあちゃんは、「ほぉ~」っと目を細めると、お茶を一口飲んだ。
「我も聖女の治癒魔法を見た時は、驚いた……。我が魔族と共同研究をしていた時に、聖女の魔力を調べたことがあったが、あれは治癒ではない。時間を遡る魔法じゃ」
「えっ、おばあさま、聖女はみんなその魔力を使っているの?」
「いや、ほんの一部だけじゃろう。我が調べた魔力は、その時の筆頭聖女のものじゃった」
話を聞いていたじいちゃんが、口を開いた。
「儂に報告が上がっている……。その魔力を持つ聖女だけが、筆頭聖女としての位を得るとな……」
「その力を持つ者だけが、筆頭聖女になるってことは……」
「あぁ、教皇とそのまわりの者たちは、その力のことを知っているということだ」
「教皇たちは、知っている……」




