42. 見える目
「ルキ、入るぞえ」
ばあちゃんが、いつもの体調確認に、就寝前の俺の部屋を訪れた。
「ルキ、最近の魔力の調子はどうじゃ?安定しておるか?」
「うん、魔力は安定してる。だいぶあの魔力も上手く引き出せるようになってきたよ」
ばあちゃんは、ベッドのそばにあった椅子に腰を下ろした。
「ルキ……、ハンの言ったことに、納得できん顔をしておったのぉ」
(ばあちゃん……)
「ルキ、牧場で飼育された羊が、いきなり外に放り出されたら、どうなると思う?」
「羊……」
「柵の外を自由に駆けずり回る羊もいるじゃろうが、ほとんどの羊は、柵の中に戻ってくる」
「おばあさま……、この国の人たちは、今のままで満足してるのかな……?」
「人それぞれじゃ……。不満があって、外に出る勇気のある者は出ていく。ここに留まる選択をした者は、不満を抱えながらも、ここで小さな幸せを見つける」
「他所者が、口を出せることじゃないんだね……。俺がいいと思って手を出しても、ただの余計なおせっかいになるってことなんだね……」
ばあちゃんは、ゆっくりうなずいた。
「物事は、成るようになるし、成るようにしかならんと、我は思っている」
「成るようになる……」
「ルキ、人を導き、助けられるようになるには、まずは自分がふらつかないように、しっかりとこの世界に立つことじゃ。ルキなら、いずれ彼らの手助けを出来るようになる」
「おばあさま……」
「何も出来ずにもどかしいじゃろうが、今は、自分をしっかり創り上げる時なんじゃ……」
俺は目頭が熱くなるのを感じながら、ばあちゃんにうなずいた。
♢*♢*♢*♢*♢
「「おはようございます!」」
限界まで腹を空かせた俺たちが食堂へ駆け込むと、朝食を取っていたじいちゃんとばあちゃんが声を掛けてきた。
「ルキ、モーリー、朝早くからどこに行っておったんじゃ?」
「グリモード男爵家の朝練に行ってきたよ。俺たち、今日から毎日通う」
じいちゃんは、俺の顔を見ると、何かホッとしたようにうなずいた。
「男爵家の訓練はどうだった?」
モーリーは、運ばれてきた朝食に目を輝かせながら答えた。
「辺境伯、男爵家の訓練は、みんな千切れてる。あっ、食事中にすみません……」
「ハハハッ~!千切れておったか!」
「我も見に行きたい……」
「辺境伯、暗部の訓練って、どこもあんななんですか?」
「いや、男爵家にはクリスティーナ嬢がいるから出来ることだ。あっ、セイ、うちでもやってみるか?」
「我も、やれるぞぇ~」
食堂にいた従業員たちの手が止まった……。
じいちゃんとばあちゃんは、その日の午後、フルーラ辺境伯領に帰る準備をしていた。
玄関ホールでルーピンと話していたじいちゃんは、俺に気がつくと手招きした。
「ルキリア、絶対に無茶はするな。聖女についての調査は儂の方でも進めているからな」
(……俺、じいちゃんに負担をかけてるな……)
「おじいさま……、俺、まだまだ弱くて、何もできないけど……、おじいさまに心配かけてばかりだけど……、頑張ってちゃんと辺境伯当主になるから……、俺たちで、もう少しだけやらせてください。『わがまま』言ってごめんなさい」
そう言って頭を下げた俺を見て、じいちゃんはフッと笑った。
「ルキリア……。そういうのは『わがまま』とは言わん。『わんぱく』と言うんだ」
俺たちの会話を聞いていたばあちゃんが、階段から降りてきた。
「ハンも我も心配しておったんじゃ。ルキが、反抗期も無く、ずっと『いい子』でおったからな。少しくらい、ヤンチャな方が安心じゃ」
そしてばあちゃんは、俺のそばにきて、背中をバシバシ叩きながら言った。
「まぁ、クリスちゃんが居るから大丈夫じゃろ。『心臓』さえ、動いていればいいからのぉ〜」
(セイ……)
(ばあちゃん……)
そして、屋敷のみんなでじいちゃんたちが転移するのを見送った後、俺とモーリーは、作戦会議をすることにした。
「ルキリア、俺たちがここでやることは、2つだけだ。ルキリアを憑代にしようとしてるデーモン族を見つけること。そして俺をループさせてる聖女を見つけること」
「そうだね……、まずは見つける……、だね」
「聖女については、辺境伯たちが調べてくれてるから、俺たちは、デーモン族を探すぞ」
「うん……、デーモン族を見分ける方法……。博士は闇と光を目に集中させると、闇魔力に魔法陣が見えるって言ってたけど……」
「難しいか?」
「何度かやってみたんだけど、闇と光の両方集中させようとすると、どちらかが弾かれるんだ。闇と火の複合魔法の時は、すぐに合わせられたんだけど……。これが出来ないと、魔道具も作れない」
「闇と光か……。誰かこの2つ持ってる人いないかな〜」
「あっ、クリスさん……」
「えっ、クリスさんって……、あっ、博士に治療してもらったって言ってたな……!」
「クリスさん、かなり大きい闇魔力持ってる」
「なんで俺、クリスさんの闇魔力に気がつかなかったんだ……?あっ、隠してるのか……」
「いらっしゃいませ……、あら?ルキリア君とモーリー君、どうしたの?」
「クリスさん、お仕事中にすみません。俺たち、クリスさんに聞きたいことがあって……」
クリスさんは、他の従業員に店番を任せると、俺たちを奥の部屋に案内した。
「聞きたいことって?」
「クリスさん、光と闇魔力の複合魔法を試したことはありますか?」
「……なんで、私が闇魔力を持ってるって知ってるの?」
「あっ、見えたので……」
「うそ~、あ〜、隠しきれて無かったかぁ〜」
「なんで隠してるんですか?」
「君たち、私が博士に治療してもらったって聞いたから、魔族だってことはわかってるでしょ。闇魔力は、魔族の持つ魔力。だから純粋な人族と偽るために闇を隠したの。商売してるから、偏見な目で見る人もいるしね。私は、人族とヴァンパイア族のクォーターよ」
「クォーター?血、薄いなぁ〜。それ、魔族って言わないですよ」
「中途半端なのよね〜。あっ、それで、複合魔法だっけ?」
「あっ、そうなんです。目に闇と光の魔力を集中させたいんですけど、それが上手くいかなくて……」
「なるほどね……。私ね、治癒魔法を使う時に、光魔力に闇を少し『混ぜて』使う時があるの。やられた時の魔力が傷口に残っていると治りが遅くなるから、闇魔力でそれを消すのよ」
「あっ……そうか!合わせるんじゃなくて、混ぜるのか!」
「すぐに理解出来るのは、流石ね。魔法は、イメージよ。魔力を液体のようにイメージして、ぐるぐる混ぜる」
モーリーも、何かひらめいたように、腕を組んだ。
「……ってことは、俺の闇と土魔力も、ぐるぐるしたら出来ること無限だな!」
「そうね!闇空間と湿気の多い土を混ぜて『底無し泥沼』とか、作れそうよね!」
((えっ……、底無し泥沼……))
「クリスさん、ありがとう!なんか、できるような気がしてきました」
「でも、何でそんなことしてるの?」
モーリーが俺にうなずいた。
「俺たち、デーモン族を探してるんだ」
「んっ、デーモン族?聞いたこと無いわね……」
俺は、ソファにきちんと座り直してから話した。
「第3教皇補佐が、俺が悪魔の憑代になる未来が見えたって言ってたんだ。博士に聞いたら、デーモン族のことだろうって……」
「見えたって、どういうこと?」
「モリスさんは、予知能力があるらしくて……、でも断片的にしか見えないって……」
「それ、辺境伯は知ってるの?」
「「……」」
「辺境伯には、伝えてないのかぁ……。でも、貴方たちの護衛という名目で動けるか……」
「あっ……、クリスさん、俺たちで探すから、クリスさんたちは動かなくていいから!」
「聞いちゃったもの〜。……で、デーモン族の特徴は?」
((あぁ……))
「デーモン族の容姿は人族と同じだけど、闇と光の魔力を目に集中させて見ると、闇魔力の中に魔法陣が浮かぶらしいんです」
「それ、博士から教えてもらったの?」
「あっ、はい……」
「博士が言うことなら、間違いないわね……。でも、博士は、いったい何者なのかしらねぇ……」
クリスさんは、チラッと俺たちを見てから、試しにと目に闇と光の魔力を集中させた。
「あっ、出来た!」
その時、第3教皇補佐のモリスさんが店に訪れたと、店番の人が俺たちがいた部屋に案内してきた。
「あっ、モリスさん!」
そしてクリスさんは、そのまま振り返ってモリスさんを見た瞬間、驚いた顔で大声で叫んだ。
「うっそお〜!何で、あるのよ〜!」




