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わがままを封印した規格外少年の、時空を巡る送り人伝 —Departures—  作者: megane-san
第3章 聖エリス国

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41. 博士の訪問

その日の夕食後、俺たちは玄関ホールのベンチに座って、シャーロット博士を待っていた。


「ルキリア、博士に聞きたいこと、整理したか?」


「うん、大体はね……。でも聞きたいことがたくさんありすぎて……」


「そうだな。でも1番聞きたいのは『悪魔の憑代』と『聖女の能力』だな……」


俺たちが話していると、玄関ホールの空間がグニャリと歪んだ。


((んっ?))


そして空間に切れ目が入り、そこから博士が出てきた。


「博士!」

「博士、今、どこから出てきたの!」


博士は、手に王都の有名なパティスリーの箱を持って微笑んだ。


「転移だと、国境の転移門を通らないとこの国に入れないからね、闇空間を通ってきたよ」


「「闇空間移動!」」


「ルキリア君も出来るはずだよ。簡単ではないが練習してみるといい」


(やっぱり、クリスさんの朝練に参加しよう……)


俺たちは、博士からの『お土産』をルーピンに渡すと、談話室に移動した。 



「2人とも元気だったか?こっちの学院はどうだ?」


「博士、この国、ヤバい……」

 

「あっ、俺たちがこっちに来てからあったことを先に話しますね」


ドアをノックして、ルーピンが博士のお土産のケーキとお茶を持って入ってきた。


「おお〜、このケーキは!」

「俺の大好きなパティスリーのだ!」


「ガーラ国のお菓子が、食べたくなる頃かと思ってね。それで、何があったんだ?」


モーリーが、大きな口で頬張ったケーキを飲み込んでから話し始めた。

 

「まずは、教皇の暗殺事件がありました。クリスさんが、治癒して、教皇は助かったけど」


「首謀者は判明したのか?」


「ギルさんたちが調べてくれて……、第2教皇補佐が怪しいらしいです」


 博士は、目を細めながらあごに手を当てた。


「第2教皇補佐?筆頭ではなく?」


「そうなんです。俺たちも筆頭教皇補佐が怪しいと思ってたんだけど、毒を入手したのは、第2補佐だったってギルさんが言ってました」


「次期教皇の座を、どちらもが狙っているのか……」

 


「あっ、博士、あと俺たち第3教皇補佐から忠告を受けました」


「第3教皇補佐?現教皇の派閥の者か……。どんな忠告だったんだ?」


「彼は予知能力があるらしくて、モーリーは聖女に消されて、俺は『悪魔の憑代』になる予知を見たって言ってました」


モーリーは、2個目のケーキを食べながら、うなずいた。

 

「予知って聞いた時は、怪しい奴って思ったけど、俺が聖女に消されるってのが見えたって言ってたから、マジだなって……」


「予知能力……?第3教皇補佐が?……それで、予知したのが悪魔の憑代……?……待てよ。それはデーモン族のことか……?」


「えっ、博士、デーモン族って……」


「あぁ、前に話したな。私がまだ魔王の時に、暗黒世界に送った者たちだ。……まさか、デーモン族の血が残っていたのか……」


「博士、悪魔の憑代って、どういうことなんでしょうか?」


博士は、紅茶を一口飲んでから話し始めた。


「1000年前、私の父(先代魔王)は、聖エリス国の聖女を妃に迎えた。しかし彼女は、人族と偽ってエリス国に住んでいたデーモン族の娘だった。妃は……私の母親だ。母は、結婚してすぐに父を自分の傀儡にした。デーモン族が持つ能力を使ってな……」


「デーモン族の能力って……?」


「生きている間に一度しか使えない魔法だ。自分と相手の心臓を魔力の鎖で縛って精神を乗っ取る……第3教皇補佐が見たのは、そのことだと思う。『憑代』みたいなものだからな」


「……ってことは、デーモン族がルキリアの精神を乗っ取ろうとしてるってこと……?」


「そうだろうな」


「誰が……俺を狙ってるんだろう……」

 

モーリーは、うつむいてた俺の背中をバシッと叩いた。


「ルキリア、これでハッキリした。俺たちは、デーモン族を探せばいいんだ。あっ、博士、そのデーモン族って、外見で見分けることはできるんですか?」


「いや、容姿は人族と全く同じで、『普通』に見ただけではわからん」


モーリーは、空になった皿に三つ目のケーキを乗せながら聞いた。

 

「博士、『普通』に見なかったら、判別できますか?」


博士は、笑いながらうなずいた。


「あぁ、普通に見なかったら、見える」


(どんな方法で……?)


「博士、普通に見なかったらって、どんな方法で見たら見えるんですか?」


「目に、闇と光の魔力を集中させて相手の魔力を見る。デーモン族には、闇の魔力の中に魔法陣のような物が浮かび上がる」


「闇魔力に、魔法陣が浮かび上がる?」


「相対する魔力を同時に目に集中させることは、かなり難しいがな……」


(俺に出来るか……?あっ、もしかして、魔道具なら……)

 


「あっ、ところで、博士は何を調べていたんですか?」


「私が調べていたのは、筆頭教皇補佐とノクタリア国の側妃との繋がりだ。筆頭教皇補佐が、ノクタリア国に自分の娘を側妃として潜り込ませて、あの国を乗っ取ろうとしていた」


「あっ、アルジェントに、俺をノクタリアに連れて帰るように命令してた、あの国の王太子は?」


「あの王太子は改心して、今は国の改革に尽力しているようだ。しかし、側妃は、彼を排除しようと暗殺を企んでいる」


「えっ、王太子を排除……。あっ、アルジェントは、大丈夫なんですか……!?」


「大丈夫だ。少し王太子の記憶をいじった。アルジェントに関わらないようにな」


((いじった……。博士も、結構、容赦ない……))


 

「おっと、そろそろ戻らねばな。闇空間の維持にも限界がある。それじゃ、また来る。あまり無茶なことはするなよ。何かあったら、ギルバート君とクリスティーナ嬢を頼れ」


「わかりました。こちらも進展があったらすぐに連絡します」

 

「あっ、博士!ケーキありがとうございました!」



博士を見送った俺たちは、談話室で残ったケーキを食べながら、頭の中を整理した。


「博士には、聖女について聞けなかったね……。モーリー、今わかってることを整理しよう」


「あぁ、1つずつ上げていこう」


「まずは、デーモン族が俺を傀儡にしようと狙ってること」


「そして、2つ目は、筆頭教皇補佐が、ノクタリア国の側妃と繋がってて、ノクタリア国を乗っ取ろうとしてることだな」


「うん、そして側妃は、ノクタリアの王太子を暗殺しようとしてる」


「うん」


「そして、3つ目は、第2教皇補佐が、現教皇を引きずり降ろして、次期教皇の座を狙っていること」


「あっ……ルキリア……、博士が言ってた、1000年前の魔王が聖エリス国の聖女を妃にしたってやつ、今のノクタリア国に当てはまると思うんだけど……」


「確かに……、同じことを繰り返してるように見えるね……」


「もしかして、筆頭教皇補佐がデーモン族……?」


「いや、わからない……。情報がなさすぎる……。モーリー、俺、当分、作業場に籠る……」


「『見るやつ』作るのか?」


「やってみる」



♢*♢*♢*♢*♢



数日後、じいちゃんとばあちゃんが、聖エリス国のタウンハウスに毒の検査結果を持ってやってきた。


「ルキ、モーリー、ちゃんとご飯は食べていたかえ?学院はどうじゃ?」


ばあちゃんは、俺とモーリーにハグして、さりげなく体調をチェックしていた。


「おじいさま、おばあさま、毒の検査結果はどうだったの?」


「ルキリア、今からグリモード男爵たちが来るから、その時に詳しく説明しよう」


グリモード男爵たちが応接室に入ると、じいちゃんは防音と防視の二重結界を張った。


(じいちゃん、かなり警戒してる……)


「男爵、今日はわざわざこちらに出向かせて申し訳ない。男爵にもこの結果を報告しておきたくてな……」


「辺境伯様、毒の検査結果はどのような……?」


ばあちゃんは、手に持っていた毒の入った小瓶をテーブルに置いた。


「この毒は、人を殺せるものではなかった。ただの仮死状態にする薬じゃった」


「「「仮死状態?」」」


「しかし普通の仮死状態にする薬では無い。時間を止める魔力が込められておった」


「「「時間を止める?」」」


「通常の仮死状態にする薬は、1ヶ月も放って置けば体が衰弱して自然死を迎える。だから数日で目が覚めるように慎重に調薬する。しかし、あの薬なら何年放置しても死ぬことはない」


「……どういうこと?」


「理由は不明だが、教皇を殺す気であの薬を盛ったのではないということだ」


「教皇が仮死状態の間に、次期教皇の座を取ろうとしたのかしら?」


じいちゃんは、俺に顔を向けると厳しい表情で言った。


「ルキリア、儂らが手を出すのはここまでだ。この国にはこの国のやり方がある。ここから先は、他所の者が干渉するべきではない」


「はい……」


「儂らがこの国ですることは、地底族の未来を変えるための解決策を見つけること。それだけだ」


「わかりました……」


男爵は、俺にうなずいてから、じいちゃんたちに、薬を調達したのは第2教皇補佐だったことを伝えた。


「第2教皇補佐だったか……。この国は改革した方がいいのか、現状のままがいいのか……」


男爵が何かを思い出したように、じいちゃんに微笑んだ。


「辺境伯様、前の時も、私たちは、変革の時を生きましたね……」


「あぁ、そうだった……。男爵には、世話になった……。男爵がいなければ、あのお方を国までお連れ出来なかった」


「お父様、その話、詳しくお聞かせください!」

「あっ、我も聞きたいのじゃ!」


みんなは、じいちゃんたちの昔話に盛り上がっていたが、俺は、『これ以上、干渉はするな』と言われたことに、うなずけない理由をずっと考えていた……。




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