40. 土魔法クラス
魔術学院での初日、俺たちは、好奇心旺盛な『女子生徒』たちに囲まれた……。
「ルキリア君とモーリー君って、背も高いし、たくましいよね〜。聖騎士団の騎士みたい〜!」
「2人とも、ガーラ国での爵位は?私、ガーラ国に興味あるのよね〜」
「領地はどのくらいの広さなの〜?」
((なんなんだよ、この子たち!))
「あのさぁ、俺たち貧乏辺境伯の孫と、平民だから。君たちの旦那候補にはならないから、どっか行ってくれない?うるさいんだけど」
「な、なによ!こっちから願い下げよ!」
「失礼ね!みんな行きましょう!こんなヤツ、無視よ、無視!」
「期待して損したわ!」
(なんだよ、この学院の女子は……)
俺たちが、女子生徒たちの態度に呆れていると、一人の男子生徒が声をかけてきた。
「ごめんね……。この学院、男子が少ないから……。婚約者のいない女子は、嫁ぎ先の確保に必死なんだよ……」
「あっ、君の名前聞いていい?」
「俺はダニエル。土魔法クラスの3人のうちの1人だよ」
「あっ、ダニエルでいいか?俺たちのことも、呼び捨てでいいよ」
「いいよ!土魔法使いの男子が来てくれて、俺、嬉しいよ」
「土魔法クラスの他2人は女子なの?」
「そうなんだよ……。ちょっと……、変わってる2人かな?あっ、さっきみたいな女子じゃないよ」
「でもさ、なんでそんなに男子生徒が少ないの?」
「この国では、持ってる光魔力の大きさで、進路が決まるんだ」
「えぇ、魔力の大きさで将来が決まっちゃうの?」
「そうなんだよ。上級基準を持つ者は、学院に入らないで、そのまま聖堂に引き抜かれるんだ」
「他の人は?」
「中級以下は、聖騎士団の訓練生として、聖騎士団に入るか、この学院で光魔法や他の魔法を学ぶ。男子はほとんどが、聖騎士団に入るから、この学院は女子の方が圧倒的に多いんだ」
「この国の人って、ほとんどが光魔力持ってるの?」
「ほとんどだね……。建国以来ずっとそういう婚姻を繰り返してきたからね。光魔力を持たない者は、ほとんど結婚相手を見つけられない」
「えっ、じゃあ、なんでさっきは、俺たちに群がったんだ?」
「国外に出られると思ったからじゃないかな。強い光魔法が使えなくても、他所の国だったら重宝されるからね」
(結婚以外の選択肢を見つけたらいいのに……。この国では、難しいのか……)
「えっ、じゃあ、職業の選択って、神官か、聖女か、聖騎士か、嫁行くか、しかないの?」
「家業を継ぐ以外は、ほぼそうだよ。この学院の先生もみんな神官だよ。あっ、土魔法のクラスは、光と土魔力を持つ先生が担当してる」
「うわぁ……マジか……」
「みんな、不満ないのかな?」
「んっ、まてよ?この国って、何で稼いでるんだ?税収もほとんどないだろ?」
「この国はね、聖女が外貨を稼いでる。たくさんの聖女が、国外に派遣されてるんだ。特に多いのは、ダリオン国かな?あそこは魔力を持つ人が少ないから」
(……なるほど。聖女の派遣事業や外貨の管理、他国との経済交渉を取り仕切っているのが、現実主義の第2教皇補佐の派閥ってことか)
「国外に派遣か……。そういう理由なら、大量の聖女を『生産』するのも、わかるわ……」
(ダリオン国か……。ガイ、元気にしてるかな……)
「あっ、そろそろ、カフェテリアが空いてくる頃だから、お昼食べにいかないか?」
「おっ、行こうぜ!どんなメニューがあるのか、楽しみだ!」
カフェテリアは、壁もテーブルも真っ白で、光が差し込む大きな窓があり、女子が好みそうなインテリアだった。
「真っ白だね……」
「メニューも、あっさり系ばっかりだな……」
カウンターに並ぶランチプレートは、可愛らしく盛り付けられた『女子ウケ』しそうなものだった。
「大丈夫だよ!ちょっと待ってて……」
ダニエルは、カウンター奥にいた調理場のお姉さんを、大声で呼んだ。
「すみません〜!男子用のランチって、まだ残ってる?」
「あぁ、まだあるよ!3つかい?」
「うん、大盛りでね!」
((裏メニュー!))
お姉さんは、『デカデカハンバーグのせグラタン』と、かごいっぱいのバケットをトレイにのせて持ってきてくれた。
「プリンは、サービスだよ」
「やった!お姉さん、ありがとう!」
俺たちが窓際の空いている席に座ると、カフェテリアにいた女子の視線を一斉に浴びた。
(ガーラ国王立学院にいた時も、こんなだったな……)
「うわぁ〜、美味いな!このチーズ、最高!」
「この国は、あんまり特産物は無いけど、乳製品は豊富なんだよ」
「ほんとだ!これは……色んなチーズが入ってる味がする!」
「俺も、ここのカフェテリアのグラタン好きなんだ。美味いよな〜」
「あっ、午後からの魔力別クラスの先生って、どんな人?」
「土魔法クラスの担当は、おじいちゃん先生で、100歳は超えてるって言ってた。ドワーフの血が入ってるんだって」
「「ドワーフ!」」
「そう。だから土魔法クラスでは、魔道具を作ったりすることが多いよ。先生はドワーフの血が騒ぐとか言って、次々に新しい魔道具開発してる」
「ルキリア……」
「あぁ、凄く楽しそうだ……」
この学院は、午前中が教養科目で、午後は魔力別での授業が行われていた。
「ダニエル、土魔法クラスの教室って、学院のこんな外れにあるのか?」
「うん、少し前まではもう少し本校舎よりだったらしいけど、先生が実験中に魔道具を爆発させちゃったみたいで、敷地の外れの空き教室に追いやられたんだってさ」
((どんな先生なんだ……?))
「ここだよ」
蔦が絡まるこじんまりした建物のドアを開けて中に入ると、どうみても外観と中の広さが違うおかしな空間だった。
「先生、ガーラ国からの留学生を連れてきました。あれ……、先生は?」
「実験室に籠ってるわ。あっ、うわさの留学生ね。ようこそ、土魔法クラスへ。私はサラ、そしてこの子はリキータよ」
長い茶髪をおさげにして、メガネをかけたリキータと呼ばれた子は、真剣な顔で紙に何かを書き込んでいた。
「リキータ……、リキータ!」
「あっ……ごめん、魔法陣に集中してて聞こえてなかった」
((んっ……?魔法陣?))
「俺は、モーリーで、こいつはルキリア。……で、なんの魔法陣?」
「獣に反応して土壁を出現させる魔法陣よ。農地の回りにこの魔法陣を仕込んで、作物を守れるようなものを考えてたんだけど、人と獣の判別をどうしたらいいか考えてたとこ」
「ん~、ルキリアどう思う?」
「そうだね……結界じゃなくて、土壁だから……、あっ、獣が身体から発する周波数で判別するのは?獣は、人や魔人よりも低い周波数を発してるんだよ」
「えっ、何それ!いつ発表された論文?」
「これは、俺の研究で分かったことだけど?」
「何それ~!ヤバい~!」
((なにが、ヤバいの……?))
「リキータは、魔法陣オタクなのよ。魔道具じゃなく魔法陣」
「だって、魔道具は作るのにお金がかかるけど、魔法陣はタダなのよ!これってすごくない?」
「確かに……、コスパいいかもな」
「魔法陣ってことは、君はルーン文字が読めるんだね」
「父が国立図書館で働いてるから、小さい頃から図書館に通ってて……、読むものがなくなって、ルーン文字に手を出したわ」
((手を出した!))
「にぎやかじゃのぉ~」
「先生!留学生の2人が、土魔法クラスに来てくれましたよ!」
「君たちが……?土魔法?」
モーリーが、先生に目配せすると、口パクで伝えた。
「(先生、それは内緒で!)」
「(了解じゃ。まかせておけ)」
(あっ、先生には、俺たちの魔力が見えたんだね。かなりの高位魔法使いだね)
「ルキリア君とモーリー君じゃったか?このクラスは、自由に研究を進める場所じゃ。なんでも作りたいものを作っていいぞ。あっ、学院の経費には上限があるから、あんまり経費がかかるものは無理じゃがな」
ホーッホッホと笑うと、「ダニエル君、彼らに教室の使い方を教えてあげなさい」と言って、実験室に入っていった。
「ねっ。先生もあんな感じだから、君たちも自由にやって。あっ、この教室にあるものは何でも使っていいよ」
「この教室には、どうやって入るの?」
「この教室のドアの鍵は生体認証なんだ。さっき入るときに君たちの認証も登録したから、いつでも入れるよ」
「他のクラスも、こんななの?」
「全然違うよ。この建物は、先生が改造したから、ちょっと変わってるだけ」
((先生、凄い人かもな……))
「ダニエルとサラさんは、なんの研究をしているの?」
「俺は実家が農家だから、土壌の栄養価を上げる研究」
「私は、作物の種の遺伝子研究よ。2つの種の遺伝子を組み合わせて、1つの苗から2種類の野菜を作ることは出来たわ」
((みんな、本格的な研究してるな!))
土魔法クラスのみんなに圧倒された俺たちは、少し疲れた顔で、迎えに来た馬車に乗った。
「なんか、疲れたな……」
「うん、疲れたね……」
背もたれに寄りかかると、手元がピカッと光って魔信便が届いた。
「あっ、博士からだ!今晩、屋敷に来るって。直接屋敷の中に飛ぶって書いてる」
「マジか!ガーラ国のお土産あるかな?」
(無いと思うけど……。でも、博士は一人で何を調べてたんだろう……)




