39. 聖女の能力
第3教皇補佐のモリスさんと図書館で別れてから、俺たちは調べ物もせずに、そのまま屋敷に戻ってきた。
「ルキリア、辺境伯に報告するのか?」
「……その前に、『悪魔の憑代』について、博士に聞いてみようと思ってる……」
「そうだな……。このまま伝えても、屋敷の護衛を増やすくらいしか出来ないだろうしな……。それに……、辺境伯の『血圧』上げることは避けたいしな」
「そうなんだよね……。じいちゃんに、これ以上、心配させたくないんだよね……」
じいちゃんは、ばあちゃんの先日の定期診察で、血圧が高いと言われて、毎日たくさん飲んでいたお酒を控えるようになった。
「血圧とか、辺境伯夫人の治癒魔法で何とかならないのか?」
「一時的には治るらしいんだけど、生活習慣病は、すぐにぶり返すらしいよ」
「なるほど……。細胞を修復出来ても、若返らせることはできないってことか……」
「そういうことだね……。光魔法でも、時間に干渉することはできない……。モーリーのループは、どういった原理なんだろうなぁ……」
「んっ……、待てよ?唯一、可能性があるのは闇の魔力だよな?闇魔力は、時空間に干渉できる……。だとすると、俺を飛ばした聖女は、闇魔力を持っていた可能性もあるのか……」
「そうだね……。でも、聖女の力がどんなものかは、はっきりわからないからね……。あっ、モリスさんに聞けばいいか!」
次の日、俺たちはモリスさんに魔信便を送って、聖堂そばにある、グリモード商会の店舗で会うことになった。
「教皇補佐に会う?」
ギルさんと、クリスさんは驚いていたが、穏健派の第3補佐と聞いて、ほっとした顔をしていた。
「なんで君たちが第3補佐と接触してるんだ?」
「図書館で、誰かに追われてた時、俺たちを助けてくれたんだ」
(モーリー、君は、本当に誤魔化すのが上手いね〜。ウソは言ってないからね)
「聖女について聞きたいことがあって、今日は来てもらうんだけど……、ギルさんたちも何か聞きたいことありますか?」
「ん〜、特には……。犯人の目星はついたからな……」
「えっ、ギルさん!もう犯人はわかったの!」
「まだ決定打はない。ただ、毒の入手経路を追ったら奴の側近に行き着いた」
「えっ、奴って?」
「まだ確定はしてないけどな……、第2教皇補佐で間違いない……」
((えぇ〜、どういうこと……?))
『カラ……カラ〜ン』
姿は見えないが、店舗のドアが開いた音がした。
「いらっしゃいませ……、んっ……?」
お店に立っていたクリスさんの声が聞こえて、奥の部屋にいた俺たちが店舗の中を覗くと、モリスさんが俺たちに気がついて姿を現した。
「お待たせしました……」
クリスさんは、びっくりしていたが、すぐに奥の部屋にモリスさんを案内してきた。
「モリスさん、急にお呼びして申し訳ありません」
モリスさんは、ギルさんとクリスさんを少し警戒しながら、ソファに座った。
「あっ、こちらは、俺たちを護衛してくれてる、ギルさんとクリスさんです」
「あっ、第3教皇補佐のモリスです……」
「モリスさん、あまりゆっくり出来る時間はないと思うので、率直に聞きますね」
「はい……答えられることなら……」
「俺たち、聖女が持つ能力が知りたいんです」
「聖女の能力?」
「はい、治癒魔法以外で、聖女が使える魔法はありますか?」
「治癒魔法以外で……ですか……。浄化とか?」
「他には?」
「うーん、他には……思い当たりませんね……。治癒と浄化以外を使っているところを見たことがありません」
モーリーが腕を組んで、独り言をこぼした。
「んっ?まてよ……、聖女の聖魔力と、クリスさんの光魔力では、治癒魔法のやり方って違うのかな?」
(モーリー、いいところに気がついたかも……。あっ、俺の治癒魔法は、ちょっと参考にならないな……)
クリスさんが、何かを思いついたように、サファイア色の目を見開いた。
「治癒魔法のやり方が……違う……?」
「クリス、何か思い出したのか?」
「兄様……、ちょっと待って……。聖女の治癒魔法を見た時の記憶を取り出すから……」
クリスさんは、そう言うと、手に持った魔道具に自分の過去の記憶を写し入れた。
「私ね、初めて聖女の治癒魔法を見た時、ちょっと違和感を感じたのよ……。貴方たちも、この違いに気がつくかしら……?」
クリスさんは、魔道具で映像化した記憶を映し出した――
◇◇◇◇◇
「すぐに治しますからね」
聖女が聖魔力を当てると、魔獣の爪で斬られた、兵士の腕の傷が『映像を巻き戻した』かのように塞がっていった。
「聖女様、ありがとうございます……!」
◆◆◆◆◆
「今のが、聖女の治癒魔法よ。次は、これを見ててね」
クリスさんは、上着の内ポケットからナイフを取り出すと、自分の腕をザクっと切った。
「「「ひぃぇぇぇ〜!やめて〜〜〜!」」」
「大丈夫よ。痛覚止めてるから」
((……やっぱり、ヤバい人だ……))
「いい?これ見ててね」
クリスさんは自分の腕に治癒魔法を掛けた。
すると、細胞が傷を塞ぐようにだんだん薄い皮膚ができて最終的には、新しい皮膚になった。
「違いに、気がついた?」
(えっ……!クリスさんの光魔力を使った治癒は細胞を活性化させて治癒を早めてるけど、聖女のは……、傷が無かった過去の状態に戻してるだけ……!)
モーリーが、驚いた顔で固まっていた。
「マジか……。聖魔力って、光魔力の超強いやつだと思ってたわ、俺……」
モリスさんも、口を開けたまま、じっとクリスさんの腕を見ていた。
「あっ、女性の腕をじっと見てしまいました!失礼いたしました!」
顔を赤らめているモリスさんに、モーリーは授業で先生に質問するように聞いた。
「モリスさん、聖魔力って、何なんですか?」
「あっ、私も聞きたい!」
モリスさんは、クリスさんの問いに、顔を真っ赤にしながら答えた。
「私たちは、聖魔力を、大地や水や穢れを浄化し、傷ついた者や重病人の治癒が出来る力だと教えられてきました……。しかし、先ほどのクリス嬢の記憶を見ると……」
「一般には、分類出来ない力なんですね」
「そうですね……」
モリスさんは、思い出したかのようにポケットの懐中時計を見た。
「あっ、時間!私は、もう戻らなくてはなりませんので失礼します!みなさん、この続きは、また今度お話ししましょう」
そう言って姿を消すと、ドアが『カラン……』と音を立てた。
「聖女の力は、過去の状態に戻す力か……」
モーリーは、腕を組んだまま、じっと考えていた……。
「だとしたら……俺のループも説明がつくかもしれないな……」
♢*♢*♢*♢*♢
俺たちは、博士に魔信便を送ったが、『少しだけ、待っていてくれ』と返信があった。
博士も、ループの謎を解くために動いてくれているようだった。
それから数日、『ループ』と『憑代』について論議しながら、俺たちの中で推測を立てていった。
「ギルさんが調べてくれた、第2教皇補佐が犯人かもしれないっていうことも気になるけど……、まずは学院での情報収集だな……」
そして、聖エリス国の高等魔術学院に編入する日を迎えた。
教壇に立った担任の先生が、クラスの生徒たちに向けて俺たちを紹介した。
「『ガーラ国からの留学生』のルキリア君とモーリー君だ。学期途中からの編入だが、編入試験と合わせて、先日の中間試験を受けてもらった。2人とも満点だった」
中間試験が満点だったと聞いて、教室にいた生徒たちはざわめいた。
「2人とも、自己紹介をしてくれるか?」
「ルキリアです。『土魔法』が得意です」
「モーリーです。俺も土魔法を使います」
生徒たちが、またざわめきだした。
「土魔法って……、なんでこの国に来たの?」
「光魔法を学びに来たんじゃないのね?」
「この学院の魔力別の土魔法クラス、3人しかいなかったわよね」
俺は、ガーラ国王立学院の学院長に、編入先の学院に全魔力持ちとは伝えないでほしいと頼んだ。
そしてこの学院では、土魔法を使う生徒として通うことになった。




